#13【町飲み】【JR奥羽本線】「鷹巣の蕎麦屋と町中華で飲ろうぜ」とは?
■昼から酒を飲みたい男の旅
なぜ秋田には日高屋がないのか。
東京にはあって秋田にないものは星の数だけあるが、俺が最も秋田に欲しているのは日高屋である。そう、秋田には馴染みがない日高屋だが首都圏に住んでいれば知らない人はいないであろうラーメンのチェーン店である。
日高屋の魅力はずばり、コスパの良さとラーメン店にも関わらず昼間からチョイ飲みができるフットワークの軽さにある。休日の昼間、日高屋で旨くも不味くもない餃子をつまみに瓶ビール。これこそが大人の嗜みというものである。
車社会な上に真面目な県民性も手伝ってか、秋田では浸透していない昼飲み文化だが、まだ明るいうちから酒を飲む解放感ったらない。守りではなく攻めの酒。そう、俺には秋田に昼飲み文化を広めていく使命があるのだ。
そんなわけでTOKIOの山口元メンバーに限りなく近いアルチュー予備軍の俺だが今回は旅先で昼飲みを慣行しよう思った。たまにはいいじゃない。このご時世、なかなか遠くには行けないけれど電車で少しだけ知らない街に行って、明るい時間から酒を飲む。お酒すっきー♪ お昼寝すっきー♪ 女の子は? うん、もっとすきー♪
俺は以前教育テレビで放送されていた「いってみよう やってみよう」の「おさるのポッケ」のようなテンションで昼飲みを堪能するべくJR奥羽本線に乗り込んだ。今回は前回の旅で訪れた二ツ井駅の隣駅「前山駅」からスタートである。
■優しいお父さんの計らいで鷹ノ巣駅へ
……マジで何もない。思わず心の声が漏れてしまった。一応観光地に分類されるであろう二ツ井駅と鷹ノ巣駅の間に挟まれた「前山駅」周辺は数件民家こそ確認できるが、数キロ先の鷹ノ巣駅まで行かなければ昼飲みはおろか、飲食店すらなさそうである。だが次の電車は数時間後のため、俺は徒歩で鷹ノ巣駅に向かうことにした。
田んぼに囲まれたのどかな国道を歩いていると、目の前に1台の車が止まった。半信半疑のまま近づいてみると、車のサイドガラスが開いて年配のお父さんに声をかけられた。
「どこまで行くの?」
「鷹ノ巣駅まで、なんですが……」
「じゃあ、乗って。乗せていくから」
「ほ、ほんまとですか?」
秋田県民のくせに思わず関西弁と九州弁が混在した謎の方言が出てしまった。可愛いチワワを連れたお父さんが鷹ノ巣駅まで乗せてくれるというのでお願いすることに。
「あなたは、学生さん?」
「いや、もうけっこういい歳なんです……」
……36歳である。
「あらそう、なんでここに?」
「秋田のいろんな駅や街を見て回ってまして……」
お父さんはすっかり学生の貧乏旅行と思い込んでいた様子である。そんな俺に助手席を奪われたチワワがお父さんの膝の上で俺をいぶかしげな目で見ている。そして見た目は貧乏旅行だが鷹ノ巣駅に着いたらさっそく酒を飲んでやろうと企てているふしだらな俺に、チワワは今にもおしっこでもかけてやろうかといきり立っている。
「おしっこはちょっと待ってねえ」
お父さんが尿意を我慢しているチワワをなだめつつ鷹ノ巣駅に到着。コロナ禍の中、見知らぬ俺を車に乗せてくれたお父さん。その節はありがとうございました。
ちなみに「JR鷹ノ巣駅」は秋田内陸縦貫鉄道の「鷹巣駅」とも隣接しており、観光案内所も設置されている。
まずは鷹ノ巣駅周辺を散策しながら、昼飲みスポットを探すことにした。
■鷹巣の蕎麦屋で昼から一杯
歩いていると良い感じの蕎麦屋を発見。昼からちょいと蕎麦屋で一杯。考えただけでも、酔っぱらいそうだ。
さっそく瓶ビールを注文し、ひとりで乾杯。これこそが特に趣味もない俺に唯一与えられた至福のひとときである。
蕎麦屋で揚げたての天ぷらと瓶ビール。マリオはスターをゲットすると無敵状態になるが生粋の酒飲みは真昼間に天ぷらと瓶ビールを手にすると無敵状態になる。大人が働いている時間に天ぷらと瓶ビール。小学生が学校で給食を食べている時間に天ぷらと瓶ビール。もはや泣けるくらい申し訳ないけど、泣けるくらい幸せである。
さて、ひとり幸せを噛みしめつつ瓶ビールを飲み干したところで締めの大根おろし蕎麦を食べよう。……って、さんざん昼飲みについて熱く語っていたくせに、瓶ビール1本でフィニッシュである。言い忘れたが、俺は人一倍酒が好きなくせに、人一倍酒が弱いのである。これ以上飲んだら夜飲めなくなる。そう、生粋の酒飲みは昼から酒に手を出すが、夜もしっかり飲むのである。
蕎麦を食べ終えて、街を歩いていると喫茶店を発見。酔い覚ましにコーヒーでもと入店したが、なぜか酔った勢いでチョコレートパフェを頼んでしまった。酒飲みは、時に突拍子も無いものを食べてしまうものである。
昼から酒を飲んでチョコレートパフェ。もはや即入院レベルの食生活である。ここは夜の酒に向けてひとつ肝臓を休めねばならない。時間はまだ昼の14時前である。銭湯にでも浸かって夜に備えよう。
俺は酔っていることを悟られぬように観光案内所のお兄さんに近くに銭湯は無いか聞いてみた。だが残念ながら鷹巣エリアには銭湯はないようで、その代わりにバスで行ける近くの温泉を教えてもらった。
館内は地元のお父さんお母さんたちで賑わっていた。この温泉は地元の社交場のようである。俺もお父さんたちに混ざって熱い温泉に入り、ロビーでお母さんたちの歓談を盗み聞きしつつ夕方過ぎ再び俺は酒場に繰り出した。
■鷹巣の町中華で飲ろうぜ
鷹巣エリアには酒場が何件かあるが、今回俺が選んだのは町中華である。ちょっといい店で馬刺しも良いと思ったが、今日は気取らずに地元民が集うであろう町中華で鷹巣の夜を堪能したい。
まずはメニューを見てみる。肉皿と焼肉の違いって何やねんとツッコみどころはあるが、町中華の魅力はとにかく豊富なメニューである。今宵はまずビールと餃子で始めることにした。
餃子をつまみつつ、ビールを飲み、そして店に置いてあったサラリーマン金太郎を読む。これが正しい町中華の過ごし方である。
さて次はレモンハイに切り替えて、焼き鳥でも頼んでみようか。
「すいませーん、豚バラ定食、大盛りで。あとネギマ2本、つくね2本、軟骨2本、あっ、あと青りんごサワーひとつ」
やばい。キャップを被ったガテン系のお兄さんとヒョウ柄のパーカーを来たお姉さんカップルに先を越された。それまでは退屈そうにテレビを眺めていたお父さんとお母さん夫婦総出で調理に取り掛かる。
しばらくはサラリーマン金太郎に没頭するしかなさそうだ。
厨房のお父さんが落ち着いたところを見計らって、レモンサワーと焼き鳥を注文。やたらと塩コショウが効いた焼き鳥をレモンサワーで流し込む。だいぶ調子が出てきた。まだ少しお腹に余裕もある。次は麻婆豆腐でも食べてみようか。
「すいませーん。牛タンつくね2本、普通のつくね2本、軟骨唐揚げ、麻婆豆腐、あっ、あと青りんごサワーひとつ」
やばい。また先を越された。それにしても、あのカップル、結構食うな。
またお父さんとお母さんの手が空いたところで、麻婆豆腐を注文。もちろんレモンサワーも追加だ。お母さんが目の前で業務用のデカい焼酎をドボドボとコップに注ぎ入れてくれる。
麻婆豆腐の味は、ごめん、普通だ。だがそれがいいのだ。町中華の魅力はその普通さにある。
だいぶ酔いも回ってきて、腹も膨れてきた。そろそろ締めにいきたいがラーメンは少し重たい。そうだ、お茶漬けにしよう。
お茶漬けの味は、完全に永谷園だ。だが追加でトッピングされた鮭や梅干しが旨い。そういえばいつもウチのおかんが作ってくれるお茶漬けはこんな感じだ。よく見るとこのお店のお母さんは俺のおかんに似ている。年齢も同じぐらいだろう。
お茶漬けを平らげて帰り支度。気づくと店内には俺ひとり。ついつい長居してしまうのが俺の悪い癖だ。
鷹巣の町中華。そこには美食家がうなる洒落た料理はないし、ぶっちゃけインスタ映えもしない。
だけどなぜだかそこには小さな幸せがある。
さて、今回は蕎麦屋と町中華でほろ酔い気分のKANEYANの秋田ぶらり旅。もはやただ酒を飲んでるだけじゃねーかとツッコまれそうだが、次回はさらに奥羽本線を先に進んで、秋田と青森の県境にして秘境駅と呼ばれる「津軽湯の沢駅」を目指してみようか。
続く。