KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#15 【クリぼっちの旅】【JR男鹿線】「海と酒と雪の男鹿線クリスマスひとり旅」とは?

■冬の男鹿線クリスマスひとり旅

「朝早ぐがらどさいぐ?(朝早くからどこに行くの?)」

67歳の母親が俺に言う。

「いやちょっと」

歯切れの悪い口調でそう返すと俺は家を出た。12月25日。クリスマスの朝である。前日のクリスマスイヴは「イオン大曲店」で買ったピザとケーキを母親とふたりで食べた。ケーキはもちろんホールサイズではない。クリスマス仕様ではあるが小さな丸いケーキである。母親はそれを食べる前にシニア用のスマホで写真を撮っていた。誰に見せるのだろうか。ちなみに母親がスマホのカメラ機能を使ったのは2年半前に秋田市の「大森山動物園」に行って以来である。

 

こんな時代だ。ひとまず母親が健康であればそれでいい。だけど子供が寝たのを見計らってクリスマスプレゼントをこっそり靴下に忍ばせる。そんな良きパパになる夢は12月にしてはあまりにも多すぎる雪と一緒にどこかに埋もれてしまった。

 

「ケーキなんぼした?(ケーキいくらだった?」

「500円ちょっと」

「あやっ、意外とだげな(えっ、意外と高いね)」

 

母親とそんな会話をしてクリスマスイブ終了。風呂に入ろうと思い靴下を脱いだら穴が空いていた。俺にはもうサンタさんはやってこない。

 

どこかへ。ここではないどこかへ行きたい。

 

12月25日。そう思った俺は秋田駅で出戸浜駅までの切符を購入した。330円。一杯の牛丼クラスの小さな不要不急の旅である。俺は男鹿線クリスマスひとり旅を存分に味わうことを決意し、先ずは今回の出発点であるJR男鹿線・出戸浜駅に降り立った。

 

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この「出戸浜駅」は潟上市に位置するが、早くもなまはげのイラストが出迎えてくれた。秋田駅からそう遠くはないが、無人駅で駅周りに人はいない。華奢で迫力に欠けるなまはげのイラストだけが、ここから4駅先の「船越駅」を目指すこのクリぼっちの旅の始まりを見守ってくれている。

 

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 ■出戸浜の冬の海とたべもの屋「笑ごころ」のごちそう飯とは?

スマホでどこか観光スポットはないか探してみる。少し歩くと海に出るようだ。むしろ海しかない。俺はひとまず海を目指して歩くことにした。

 

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15分ほど歩くと海が見えてきた。冬の海。もう何年も前の話だが12月に友人と一緒に鎌倉に遊びに行って七里ヶ浜の海に飛び込んだことを思い出した。死ぬほど寒かったけど死ぬほど楽しかった。だがそんな青春の思い出は出戸浜海水浴場の荒れた海が容赦なくさらっていった。ひとりで訪れた冬の海は死ぬほど侘しかった。

 

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来年の夏はコロナが終息しこの海に人が集まることを願いつつその場を後にして国道に出た。この12月、秋田では県南エリアを中心に記録的な豪雪に襲われたが、この日は天気が良く道路には雪もない。コロナの感染者よりも天気予報の雪マークに血眼になっていた秋田県民にようやく訪れた安堵である。

 

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潟上市は国道沿いにある道の駅「天王グリーンランド」が有名スポットだが、今回は国道からすこし外れたところにある「たべもの屋 笑ごころ」で昼飯を食べることにした。

 

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昼時だったためか、店内は常連さんで賑わっている。てんぷら定食をオーダーして待っていると、お母さんが次々と小鉢を運んできてくれた。あっという間にテーブルは一杯である。

 

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俺は豪勢な飯を目の当たりにするとなぜか気恥ずかしい気持ちになる。牛丼と豚汁あたりが性に合っているのである。だがクリスマスに食べたごちそう飯は格別であった。帰り際、お母さんがご飯の量は少なくなかったか気を使ってくれたが、36歳のオッサン予備軍の俺の腹は十分に膨れ上がっていた。

■船越駅前の食堂にて湯豆腐で一杯

満腹のお腹をさすりながら「上二田駅」まで歩いた。正直冬の徒歩旅は無謀かと半ば諦めていたが今日の天気であれば歩けそうである。この調子で本日の目的地である「船越駅」までたどり着き、酒と旨い肴でこっそりとクリスマスを祝いたい。

 

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ちょうど電車が到着するタイミングだったため上二田駅から再び男鹿線に乗り隣の二田駅に向かった。今さらながら、この「KANEYANの秋田ぶらり旅」は「全ての駅に一度は立ち寄る」というマイルールを設けている。

 

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天気は悪くないが、さすがに寒い。二田駅近くにコーヒーでも飲める喫茶店はないか探してみたが、全くなかった。仕方がないので次の天王駅を目指して歩くことにした。

 

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このあたりから徐々に雪がちらつき始めた。そして何より港町特有の風が冷たい。これが吹雪に変わればひとたまりもない。すぐにタクシーをつかまえて最寄り駅に引き返し旅は中止である。気まぐれな秋田の冬の空模様を気にしながら、天王駅までたどり着いた。

 

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天王駅周辺は東湖八坂神社がある程度で、やはり寂しい印象である。ちなみに天王駅から少し歩くと大野書店というエロ本と宝くじを購入できる本屋があるようだが、そこで2年前「サマージャンボ宝くじ」の一等5億円が出たという噂をネットニュースで見た。まさに男鹿ドリーム。人生一発逆転のストーリーがまさかこの場所から生まれようとは、さすがのなまはげもビックリである。

 

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本日の目的地である「船越駅」に着いたころには、既に日の入りを迎えていた。ちなみに船越駅は男鹿市の入口に位置する。ついになまはげの里である男鹿に来たわけだが日中に比べるとかなり寒い。ひとまず駅前の食堂に駆け込んで熱燗を頼んだ。

 

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湯豆腐をつまみながら熱燗をすする。周りのお客さんはホルモンを食べている。名物なのだろうか。気取ったところがない良い店である。クリスマスの晩飯。そこにはチキンもケーキもない。だがそれでいいのだ。男は黙って豆腐と酒である。

■船越の呑兵衛御用達の〆ラーとは?

店を出ると雪が積もっていた。わずか1時間ほどの滞在中にすっかり雪景色となった街並みにまるで浦島太郎のような気分である。既に日本酒をやってほろ酔い気分の俺は転ばないように千鳥足で次の店を目指して歩く。せっかく港町に来たのである。刺身を食いたい。たどり着いた「きりん亭」はこのあたりでは有名店のようである。広い座敷にあぐらをかいて座る。秋田にあって東京に無いもの。そんなものは何もないと思っていたが、ひとつだけあった。居酒屋で容易にあぐらをかけることである。

 

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平目刺しを食べながら、ビールをすする。これが俺にとってのメリークリスマスである。店内に設置されている大型のテレビからは「ミュージックステーションスーパーライブ」が流れている。年末である。

だいぶ酔いも回ってきたが、最後にもう1軒。どうしてもラーメンが食べたい。ここ船越には呑兵衛御用達の〆ラーメンが食べられる店があるようである。たらふく食べて飲んで最後にラーメン。36歳のクリスマスひとり旅はやたらと体に悪そうである。

 

外に出ると、日中の晴天が嘘のように雪交じりの風が酔っぱらった俺の頬を容赦なくぶん殴ってきた。もはや吹雪である。酒と雪にまみれて、何とか〆のラーメンを目指して歩いた。男は好きな女と飲んだ後のラーメンにおいては常に貪欲でなければならない。

 

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船越駅から5分ほど歩くとスナックが連なる夜の街エリアがある。今回最後に訪問したその店も外観は完全にスナックである。「さくらん」という名前のラーメン屋など聞いたことがない。おそるおそる扉を開けて店内に入ってみる。カウンターに座ってひとまずお姉さんにレモンサワーを注文。暗めの店内はやはり夜のお店の雰囲気だが、その正体はやはりラーメン屋さんのようである。だがメニューを見ると酒もつまみも充実している。俺が好きなタイプの店である。

 

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ラーメンを食べに来たつもりが、気づくとまた飲んでいる。俺の悪い癖である。レモンサワーに男鹿エリアの密かなソウルフードである「なんこつのたたき」を合わせる。

 

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テレビは再びMステ。ToshIがMISIAの「Everything」を歌っていた。結局レモンサワーをおかわりして、長居してしまった。途中で頼んだ馬刺しは冷凍していたようでガリガリ君ぐらい冷たかったが、ラーメンは文句なしに旨かった。

 

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店を出ると、先ほどの強風は落ち着いたが深々と雪が降っていた。冬の男鹿の天気はどうやら気まぐれのようである。ついつい食べ過ぎた自分の腹をさすりつつ、ついつい飲み過ぎた今日の自分を反省して歩く帰り道。

せめて転ばないようにと、気をつけながら歩いた。

 

さて、冬の海を眺め酒を飲み最後は雪に見舞われたKANEYANの秋田ぶらり旅。今年も生産性の無いクリスマスを過ごした俺だが、次回はさらに男鹿線を進んで、今話題の「なまはげ」と会うべく男鹿線の終着駅「男鹿駅」を目指してみようか。

 

 続く。