KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#22 【歩き旅】【由利高原鉄道】「由利本荘の隠れた名所を巡る春の由利鉄沿線歩き旅」とは?

■春の由利高原鉄道に乗ろう

秋田の冬は灰色だ。

 

秋田に雪が降り始める11月下旬から春がやってくる3月まで秋田県内の天気は曇りか雪か大雪である。グレーの空から怒涛のように降り積もる雪を前に秋田県民はコロナ関係なくステイホーム。そう、秋田県民が欲しているのはワクチンよりも雪が降らない青空である。

 

だがそんな秋田にもようやく春が近づいてきた。もちろん朝晩は冷え込むし、桜の開花はまだまだ先だ。それでも少しづつ天気予報に晴れマークが並び、野球の開幕が近づき、秋田県内で30%近い驚異的な視聴率を誇る「秋田ラーメン総選挙」が放送されるこの季節を待ちわびていた秋田県民は俺だけじゃないはずだ。

 

俺は久しぶりに真っ青に晴れた空を虫歯気味の奥歯で噛みしめながら「羽後本荘駅」へと向かった。実はこの「秋田ぶらり旅」を行うにあたって密かに楽しみにしていたのが「由利高原鉄道」に乗ることである。由利高原鉄道、通称”ゆりてつ”は秋田県由利本荘市を走る第三セクターの鉄道でアテンダントさんが乗車していたり観光客向けの取り組みもなされている。

 

さっそく俺は「羽後本荘駅」から隣駅の「薬師堂駅」までの切符を購入した。今回は例によって全ての駅に立ち寄りつつ最終的に6駅先の「前郷駅」を目指す春の由利高原鉄道沿線歩き旅である。

 

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由利高原鉄道の車内は3月下旬にも関わらず未だに雛祭りモード全開である。春休みシーズンのため乗客はハタチ前後の男子が多い。皆、一様に立派なカメラを持っている。由利鉄は鉄道男子の人気スポットのようである。

 

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アテンダントの秋田おばこ姿のお母さん、……いやお姉さんのアナウンスを合図にのんびりと電車は発車する。春の景色を眺めながら、このまま終点の「矢島駅」まで行ってしまいたい衝動を抑えつつ、俺は隣駅の無人駅「薬師堂駅」で降車した。誰に頼まれたわけでもないのに勝手に挑む由利高原鉄道沿線ひとりSM歩き旅の始まりである。

■由利鉄沿線の小さな食堂で啜るチャーシューメンとは?

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個性的な駅が並ぶ由利高原鉄道だが、この「薬師堂駅」は2009年に改築されバリアフリー化された比較的新しい駅舎である。ちなみにこの駅の目玉は駅に設置されている自動販売機である。

 

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見た目は何の変哲もない自販機だが飲み物を購入するともれなく由利高原鉄道社員の音声を聞くことができる、らしい。

 

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駅前の医薬神社で旅の無事をお祈りしつつ次の「子吉駅」を目指す。由利高原鉄道の駅間は2~3キロほどと比較的短い。春の訪れを感じながらテクテク歩いているとヘルメットをかぶって自転車に乗った小学生の男の子たちが明朗な声で挨拶してくれた。のどかな良い街である。

 

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程なくして子吉駅に到着。その姿は完全に郵便局である。

 

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おそるおそる駅の中に入ってみる。郵便局と駅を強引に合体させたその姿はどちらかといえば郵便局の色が強めである。

 

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もちろん俺は郵便局に用事はない。言ってしまえば電車に乗るわけでもない。窓口のお姉さんの怪訝な表情を背中で感じつつ俺は逃げるように子吉駅を後にして次の「鮎川駅」へと向かった。

 

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鮎川駅に到着。駅前には自転車置き場を改装して作られたという「おもちゃのまちあいしつ」が設置されている。

 

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実はここ鮎川駅近くに隠れた名所があることを俺はネット情報で掴んでいた。それは「マンコ将軍の墓」である。もはや余裕でアウトなこのネーミングのスポットに俺は中学1年生並みの好奇心を携えて向かう予定だが、その前に駅前の食堂で腹ごしらえといこう。

 

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鮎川駅前にある食堂はそのまま「駅前食堂」という名前である。センバツ高校野球のトーナメント表と鮎川駅の発車時刻表が貼られた店内では数人の常連さんが定食をかきこんでいた。俺は店内から溢れ出る古き良き昭和のノスタルジーを感じつつチャーシューメンを注文した。

 

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店のお母さんはこの日から始まったセンバツ高校野球に夢中である。北海道の高校が負けたらしく残念そうだ。同じ雪国だからだと思うが秋田のお母さんたちは東北のチームはもちろん、なぜか北海道や新潟のチームを応援しているひとが多い。

そんなお母さんや常連さんの声をBGMにチャーシューを頬張りラーメンを啜る。まるで実家のような安心感。ローカル駅の小さな食堂で食べるチャーシューメンはまた格別である。

■声に出してはいけない由利本荘の隠れた名所「マンコ将軍の墓」とは?

腹が膨れたところでムズムズする股間を気にしながら、マンコ将軍の墓に向けて出発である。

 

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道中、至る所に「キケン」と書かれた由利小PTAの看板が設置されているのはやはり例のお墓が健全な青少年育成に反するからだろうか。

 

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駅から歩くこと25分。由利本荘市の指定史跡でもあるマンコ、じゃなくて万箇将軍のお墓がある瑞光寺にたどり着いた。

 

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ちょうど春のお彼岸期間のため墓参りをする人々を横目に俺は彼女、じゃなくて彼が眠るお墓を目指し急勾配の階段を登った。

 

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万箇将軍。その正体は一万人の騎兵を束ねた奈良時代の総大将である。けして一万人の男と夜を共にした歴史に名を刻むヤリマンのことではないので要注意である。

 

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無事にマンコ将軍の参拝を済ませた俺は次の「黒沢駅」を目指し歩き旅の再開である。だが由緒ある万箇将軍を冒涜した罰が当たったのか、急に足の裏が痛み始めた。総大将を冒涜された1万人の騎兵たちの呪いが俺のフニャフニャの足裏を攻め始める。なんて地味な攻撃だろうか。俺はヒリヒリする足を気にしながら次の黒沢駅へと向かった。

 

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「道にすててしまったごみ それはあなたの心のごみ」

たくさんの感謝状と歴代駅長名鑑の間に堂々と掲げられた由利中学校二年生佐藤葵ちゃんのナイフのような鋭い標語に軽い戦慄を覚えつつ、しばし休憩。秋田にも花粉が飛んでいるのか、やたら鼻水が出る。鼻水まみれのティッシュを捨てようと思ったがゴミ箱が見当たらない。仕方ないので俺はそいつをズボンのポケットに突っ込んだ。そう、道に捨てたゴミは俺の心のゴミとなるのである。

 

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夜の楽しみであるビールをいっそう旨くするため疲れた体を鞭打ち再び歩き始めた。酒飲みは基本自分に弱い性質だが、最初の一杯をより最高にするための努力は惜しまない生き物である。 

 

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田んぼ道を歩いていると、田園地帯のど真中に建物が見えた。「曲沢駅」である。

 

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一面田んぼの中にポツンと立つ駅舎。ゆっくりと到着した電車からその駅に降りるひとはもちろん誰もいない。電車はまたゆっくりと動き出す。春の匂いと哀愁を乗せて。

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由利本荘の隠れたソウルフード「前郷ホルモン」とは?

この由利鉄沿線歩き旅もいよいよ佳境である。俺は疲弊した体を引きずりながら今日の目的地である「前郷駅」を目指した。そう、今日は前郷駅付近のホルモンが売りの焼肉屋さんで一杯と決めているのである。

 

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前郷駅に到着。前郷駅周辺には「佐々木家住宅養老閣」や「前郷日枝神社」などの文化遺産もあるようだが、既に俺はガス欠である。俺はあっさりと歴史的文化遺産の見学をあきらめて、この由利鉄沿線歩き旅のフィナーレを飾るべく駅近くのホルモン焼肉の店「大番」へと向かった。 

 

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入口に掲げられた「営業中」という札が辛うじて店の態を保っているが、そのルックスは完全に「普通の家」である。恐る恐るその扉を開いて店内に入ると奥の座敷から賑やかな声が聞こえてきた。今日は親戚の集まり、……じゃなくて団体さんの予約が入っていたようである。椅子に座り、さっそくお母さんにビールを注文。先ずはひとり乾杯といこう。

 

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本棚に埋め尽くされた大量の漫画本(ONE PIECE全巻コンプリート)を眺めながら、冷えたビールを一気に喉へ流しこむ。俺の心はすっかり春模様である。

 

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ホルモンアンドビール。もはや芸人で言ったらダウンタウン、ミュージシャンで言ったらチャゲ&飛鳥、アイドルで言ったらW(ダブルユー)並みの最高の組み合わせである。ここのところ飲みすぎには気をつけているのだが、ちょうどいいタイミングでお母さんが「ビールのおかわりどうですか?」と声をかけてくれる。これはどうしても酒が進んでしまう。

そしてホルモンと同様に美味かったのが鳥である。鉄板で鳥を香ばしく焼きながらビールを煽る。これはただの至福である。

 

男37歳。そろそろカロリーを気にさねばならない年ごろだが、どうしてもカルビクッパが食べたい。迷った挙句、ハーフサイズを注文。これで豚・鳥・牛をコンプリートである。

 

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パンパンに膨らませた腹をさすりながら前郷駅まで戻り、再び羽後本荘行きの由利高原鉄道に乗った。まだ夜の9時前だが本日の終電である。夜の電車はどこか寂しい。午前中は見かけた秋田おばこ姿のアテンダントさんもカメラを持った若い男の子たちの姿はない。疲れた顔をした中年男性がひとり乗っていた。

 

ゆっくりとまた電車が動き出す。座席に置いてあったアンケートボックスを盗み見たら「窓にカーテンをつけてほしい」と書かれてあった。

カーテンのない車窓から見る、春夏秋冬それぞれのなんにもない景色。それがまた由利高原鉄道の魅力のような気もする。

 

そんなことを考えていたら眠たくなった。どうやらまた飲み過ぎたようである。

 

さて、今回は由利本荘の隠れた名所を巡りながら由利鉄沿線を歩き回ったKANEYANの秋田ぶらり旅。歩きすぎて足の裏がひりひり痛む俺だが、次回は再び由利高原鉄道に乗って終着駅の「矢島駅」を目指してみようか。

 

続く。