#26【ほろ酔いの旅】【JR奥羽本線】「柳葉敏郎の故郷・刈和野から大曲駅を目指す奥羽本線はしご酒の旅」とは?
■ギバちゃんの故郷を行く
ギバちゃん、大仙走るってよ。
各地で芸能人の辞退が続出している聖火ランナーだが、来月秋田県大仙市を走る予定となっているのが柳葉敏郎である。そう「踊る大捜査線」や「コード・ブルー」などの超有名作品に出演する一方、現在は地元の秋田に拠点を置き毎週土曜日放送の秋田テレビ「柳葉敏郎のGIBAちゃんとGOLFへGO」では華麗なスイングをお茶間の間に届けるローカルスターである。
そんなわけで今回は秋田県民ならばみんな大好きギバちゃんの故郷・大仙市刈和野から2駅先の大曲駅を目指す奥羽本線各駅降車の旅を計画した。天気はまさに五月晴れ。こんな日は昼からビールなんて最高だ。そんなことを思いながら俺は青空が広がる奥羽本線・刈和野駅に降り立った。
まず俺が目指したのは秋田のB級グルメ界の隠し玉「だいせんのハンバーガー」が食べられる田村商店である。
もはや隠し過ぎて地元大仙市に住んでいながら俺もその存在を知らなかった「だいせんのハンバーガー」だが、駅を出て雄物川をチラ見しながら歩くこと20分。唐突にその看板は現れた。
さっそくお店に入りお母さんからチーズバーガーを購入。実は何を隠そう俺はハンバーガーが大好物なのである。20代の頃は冗談抜きで毎晩ハンバーガーを食べながらビールを飲んでいた。
まあそのおかけで30代にしてすでに体の至るところにガタがきていることは言うまでもないが、とにかく俺はハンバーガーには目がないのである。
雄物川をバックにさっそくチーズバーガーをがぶりと齧る。その味も、その大きさも、めちゃくちゃ普通である。だが俺は気づくとムシャムシャと食べていた。その味はどこか懐かしい。溢れ出るノスタルジーとレトロ感。まさにファミコン&スーファミ世代の味である。
刈和野駅から少し歩いた場所にポツンとある酒屋さんの手作りバーガー。誤解を恐れず書くと絶賛するほど美味いわけではない。だけど学校帰りには必ず買い食いしたくなる秋田の隠れたB級グルメである。
■刈和野の温泉に浸かってちょいと一杯
ハンバーガーで小腹を満たした俺は西仙北ぬく森温泉「ユメリア」に向かった。温泉に浸かって昼間からビールなどもちろん最高である。田村商店から10分ほど歩くと看板が見えた。目的地まで2.8キロ。運動がてら歩くにはちょうど良い距離である。
だが歩き進めているうちに雲行きが怪しくなってきた。少しずつ建物がなくなり、やがて山道に入り込んだのである。
遠くから動物の鳴き声が聞こえてくる。春になり秋田ではさっそく熊の目撃情報が多数寄せられている。腹を空かしたマークーがひょっこり現れても不思議ではない道である。しかも俺はどちらかというとドングリみたいな顔をしている。おお、こわ。俺は祈るような気持ちで温泉へと向かった。
マークーの影に怯えながら温泉の手前までたどり着くと、牛の放牧場が現れた。先ほど聞こえてきた動物の鳴き声の正体は牛だったのだろうか。
ユメリアに到着。大浴場の前には地元秋田出身のギバちゃん&壇蜜コンビの他に松岡修造やミスターパーフェクト槇原寛己のサイン色紙も飾られていた。
まずは風呂に入り汗を流す。露天風呂の他にサウナや水風呂もついている。地元のお父さんに混ざってホッと一息。昼間の温泉はいい。
風呂からあがって、さっそく隣の食堂でひとり乾杯。コロナのワクチン接種の話題で持ちきりのお母さんたちの声を聞きながら、火照った体に好物の山かけとビールを流し込む。昼から飲む酒はやはり美味い。
フロントの前にはたくさんのギバちゃんグッズが並び、「柳葉敏郎氏展示室ギバちゃんの部屋」なるものもしっかり完備。一世風靡セピア時代から現在に至るまでのギバちゃんの功績をほろ酔い気分で眺めながら、ふと気になったのはここから刈和野駅までの帰り道である。距離は3キロほどとけして歩けない距離ではないが、どうもあの山道を歩くのは大儀である。
「すいません。ここから駅までバスは出てますか?」
刈和野駅までバスで帰ろうと思いフロントのお姉さんに聞いてみた。
「駅まで行くバスは無いですねぇ」
「ではタクシーを一台」
ほろ酔いの俺はとにかくあの山道を歩くのが面倒だったのである。
だが近くのタクシーが出払っており、到着までかなり時間がかかるという。まあ仕方がない。休憩所で昼寝でもしながら待つことにするか。そう思ったときである。
「あっ、わたし乗せていきますよ」
「えっ。いや、その、マジすか?」
宿泊客ならわかるが、俺はただの日帰り入浴の酔っぱらい客である。まさかの展開に狼狽しつつも彼女の運転であっという間に山道を超え、刈和野駅へ。
「すいません。あの、また来ます。すいません」
昼間からほろ酔い加減の小柄なおじさんは恐縮しつつも、次の神宮寺駅を目指し電車に乗った。そう、まだ奥羽本線はしご酒の旅は始まったばかりである。
■神宮寺の町中華でやろうぜ
神宮寺駅に到着。久しぶりにやった昼酒のおかげで、ほろ酔い上機嫌の俺はその足でさっそく本日の「2軒目」へと向かった。
その途中、ふと横を見ると大きな建物が見えた。大仙市立神岡小学校である。下校途中の小学生の男の子たちが威勢よく俺の目の前を駆けていく。おそらくこの子たちのお父さんやお母さんは俺と同世代か、もしくは年下であろう。
もはや彼らから見れば「だいぶ大人」の俺は昼から酒を飲み、マスク越しに酒臭い吐息を発しながら2軒目を求め彷徨い歩いている。大丈夫か、俺。明日の朝礼で担任の先生から「変なおじさんに近づかないように」という注意があるかもしれない。
本日のはしご酒の旅2軒目となる神宮寺駅近くの「エリヤ神岡」に到着。店内には俺ひとり。それもそのはず。地元の神岡小学校の高学年の生徒はまだ部活動に勤しんでいるような時間帯である。だが「周りが一生懸命働いている昼間に飲む酒が何より美味い」という反社会的な持論を持つ俺はお母さんにさっそく瓶ビールを注文した。
ビールに合わせるのはもちろん餃子である。餃子は店によって案外当たり外れがあるのだが、ここの店の餃子はニンニクが効いていて美味い。そして個人的には赤星の瓶ビールが置いてあるのも嬉しい。
追加で春巻きを注文し、ビールをゆっくりと飲みながら夕暮れを待つ。この時間こそ至福である。最近は大仙市でもコロナの感染者が増えており、その影響からか夕方が近づいても客は俺ひとり。料理担当のふたりの職人さんとホール担当のふたりのお母さんに見守られながら俺はビールを飲み干した。
「今日はどちらから」
帰り際、お母さんに声をかけられた。
「地元だっす。大仙市だっす」
普段はシティボーイを装い秋田訛りを封印している俺だが、初見の飲食店では秋田県民を全力でアピールするため、あえて訛るようにしている。県外から来た、なんて言ったらどんな顔をされるだろうか。そんなことを思いながら再びマスクをつける。このご時世を生きるのは、やはりどこか息苦しい。
■大曲駅近くの大衆食堂で頬張る締めのベーコンライスとは?
大曲駅到着。この秋田ぶらり旅で訪れた駅としては秋田駅に次ぐ2番目の大きさではないだろうか。そう、大曲エリアはここ大仙市の中枢なのである。
だがこれまたコロナの影響か、駅前の飲食店は灯りが消えている店が多い。正直今回の旅で締めに訪れようと考えていた店も休業していた。
途方に暮れながら地元大仙市の一番の都会である大曲駅前を歩く。ちなみに大曲と言えば全国的に有名なのが「大曲の花火」である。普段は閑散とする大仙市にあり得ないほどの人が押し寄せる8月の終わりは、子供の頃から少なからず興奮したものだ。だが花火大会が終わった翌日は当たり前だが人がいなくなり元の日常に戻る。まるで花火のように街が一瞬だけ華やいでは瞬く間に消えていく。それがなんだか寂しかった。
そんなことを思いながら駅前をぼんやり歩いていたら、いつの間にか陽が傾き夜が来ていた。今日はもう帰ろうか。
そう思った矢先、一軒の食堂が目に入った。
「味よし味二番」という何とも意味深なネーミングの大衆食堂に入ると、大量に貼られているメニューの数々に圧倒された。
最後に〆の飯を食べたいところだが、ここから一品をチョイスするのは至難の業である。ひとまず俺は今日3本目の瓶ビールを飲みながら思案することにした。
冷奴をつまみつつ、何度もメニューを眺める。決まらない。小腹が空いているが、がっつり腹が減っているわけではない。そんなときのチョイスは難しい。
結局、閉店間際に迷った俺がチョイスしたのは「ベーコンライス」と「豚汁」である。
酒を飲んでばかりいた今日1日を少しだけ反省しつつ、ベーコンライスを頬張り温かな豚汁を啜る地元の夜。ふとテレビを見ると路上飲みをする都会の若者たちが映った。
理由は違えども、酔っぱらいたい夜もあるわな。
そう心の中で呟きながら、俺は少しだけ残っていたビールを飲み干した。
さてもう1軒、スナックにでも。いや、やめておこう。コロナの影響でより一層活気のない地元の夜をすり抜けて、俺は素直に家へと向かうのだった。
さて、今回はギバちゃんの故郷・刈和野から大曲駅を目指すはしご酒の旅を敢行したKANEYANの秋田ぶらり旅。いつかまたここ地元・大曲にたくさんのひとが花火を見に訪れてくれるのを願いつつ、次回は奥羽本線をさらに進んで壇蜜の生まれ故郷・横手を目指す旅に出てみようか。
続く。