KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#29 【秘湯探訪】【JR奥羽本線】「稲庭うどん発祥の地と秘湯・泥湯温泉を巡る旅」とは?

秋田県湯沢市を巡る旅

彼らは俺より20歳も年下なのか。

 

エアコンの効いたリビングでマックを食べながら、高校野球秋田大会をぼんやりと眺める夏の始まりである。

 

マックのポテトってSサイズだと物足りないけど、Mサイズだと持て余すんだよなぁ。と、世界で3番目ぐらいにどうでもいいことを考えながら、今年の夏もあっという間に終わっちまいそうだ。

 

これではいけない。俺は重い腰を上げて秋田ぶらり旅の計画を練る。今回の目的地は秋田県湯沢市。そう、言わずと知れた秋田の食の広告塔・稲庭うどん発祥の地である。そういえば最近うどんと言えば「どん兵衛」しか食べていない。たまには贅沢に他県に誇れる秋田の名物も嗜むのもいいかもしれない。

 

そんなわけで俺はまた秋田のローカル電車に飛び乗った。今回の旅は前回最後に訪れた「十文字駅」の隣駅である「下湯沢駅」からスタートである。

 

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ちなみにこのBLOG(KANEYANの秋田ぶらり旅)では「全ての駅に一度は立ち寄る」というルールがある。だが無人駅では周りに飲食店や観光スポットがなく、田んぼと誰かが駅前に置いていった錆びれたチャリンコを眺めながら途方に暮れるということも少なくない。下湯沢駅もまさにそんな塩梅である。

それでもiPhoneで調べてみたところ、駅から少し歩いたところにカフェがあるようだ。駅前を見る限りカフェがあるようなロケーションではないが、ひとまず俺はそこに向かってみることにした。

 

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誰ひとりともすれ違わないまま駅から歩くこと10分。古民家風の建物の片隅に小さな看板を発見した。

 

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正面に回ってみると、立派な建物が目に留まった。ヤマモガーデンカフェである。

 

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その正体は江戸時代末期より続く「ヤマモ味噌醤油醸造元」に併設しているオシャレカフェである。

 

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古民家を改装したシャレオツな店内でレモネードソーダをストローで吸い込むサマーバケーション。読みもしないのに、店内に置かれている古本を手に取ってみるレモネードサマー。というかシャレオツすぎて、なんだかキョロキョロと落ち着かない様子のロンリーウルフ。実はレモネードソーダよりもレモンサワーのが好物である小さなオジサンの夏はすでに始まっている。

稲庭うどん発祥の地・湯沢市稲庭町の「佐藤養助総本店」とは?

スパイシーなレモネードソーダを飲み干した俺は、その足で再び奥羽本線に乗り「湯沢駅」へと向かった。

 

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少しだけ駅前を散策。実はここ湯沢市菅義偉内閣総理大臣の出身地でもある。

 

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裏の路地には夜の香りが漂う飲食街もある。

 

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駅から5分ほど歩くと、突如ドイツの国旗とヨーロッパ風の建物が目に付く。

 

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ここ湯沢市はドイツのジークブルグ市と提携を結んでいる関係で中央通りの商店街はヨーロッパ風の建物が並ぶ「ジークブルガー通り」と呼ばれている。

とはいえ、全体的にシャッターが閉まっている店が多いのが気になるところである。

 

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俺は再び駅前に戻り、稲庭うどんの発祥の地・湯沢市稲庭町に向かうため路線バスに乗った。

 

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湯沢市稲庭町の八代目佐藤養助総本店。泣く子も黙る稲庭うどんの名店である。

 

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暖簾をくぐりその立派な建物に足を踏み入れる。思ったよりも店内は広く店員さんにも品がある。さすが総本店である。

 

「わたしは冷たいおうどんを頂こうかしら。あなたは何にしますの?」

 

心なしか隣に座った貴婦人の言葉遣いもひと味違う。俺がいつも行っているラーメン屋や定食屋ではこんなスネ夫のママのような言葉遣いをするお母さんはいない。

 

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夢にまで見た本場の稲庭うどん。しょうゆと味噌、それぞれのつゆで、冷たい稲庭うどんを啜る。うむ。全盛期の稀勢の里ぐらいコシが強い。だがそれでいて滑らかだ。全盛期の舞の海の下手投げぐらい滑らかだ。いつもどん兵衛ばかり食べている俺にとっては、とにかく上品な味である。まあ値段も上品だけど。……あっ、すいません。

 

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帰り際、お土産に「稲庭ふしっこ」を頂いた。いやはや、サービスも上品である。

■湯沢の秘湯「泥湯温泉」とは?

腹もいっぱいになったところで、後はゆっくりと温泉にでも浸かってお家に帰れば完璧である。実はここ湯沢市は温泉の宝庫でもある。俺は予約していた乗合タクシーで、その中でも「秘湯」と謳われている「泥湯温泉」に向かった。

 

湯沢駅を出発して30分ほど経つとタクシーは物々しい山道へと突入した。ハンドル操作を誤れば一発で即死の山道をタクシーはズンズンと進んでいく。山道特有の急カーブの連続に若干酔い気味になりながら、泥湯温泉へとたどり着いた。

 

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「兄ちゃん、入浴券はこっちで買って」

 

タクシーから 降りると、いきなり男のひとの声が聞こえた。まるで「日本昔ばなし」に出てきそうな風貌のお父さんがいる掘っ立て小屋まで向かう。よく見ると「入浴券販売所」という小さなのぼりが立っている。

 

「日帰り入浴は2時半までね。そんであそこが露天風呂」

 

そう言ってお父さんが指さす方向に目をやる。その露天風呂、ある程度ハートが強くないと踏み込めないルックスである。

 

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当たり前だが客は誰もいない。町の温泉にあるような貴重品を預けるロッカーもない。俺はひとり素っ裸になり露天風呂へと向かった。

 

その光景はまさに秘湯と形容しても差し支えないものであった。そこに広がるザ・自然は申し訳程度に作られた他の露天風呂とは趣が違っていた。鼻を刺す硫黄の臭い。周りを飛び交う見たことのないカラフルな虫。そして誰かに財布を盗られたらどうしようという恐怖。全くもって落ち着かない。こうして俺はせっかくの秘湯を秒速であがってしまうのだった。

 

帰りの乗り合いタクシーが迎えに来るまで時間を持て余してしまった俺は泥湯温泉郷を散策してみることにした。先ほどの温泉から少し歩けば「川原毛地獄」というスポットにたどり着くようである。

■日本三大霊地のひとつ「川原毛地獄」とは?

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川原毛地獄までは約1キロ。ちょっくら散歩するには良い距離である。

 

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だが待っていたのは急勾配な上り坂である。思ってたのと違う。俺はさっそく汗だくになりながらその霊地とやらを目指した。

 

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まるでサーキット場のような曲がりくねった山道を行く。思ってたのと違う。息を切らしながら歩くこと30分。ようやく川原毛地獄の入口にたどり着いた。

 

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毒ガスただよう白色の世界。青森の恐山、富山の立山と並ぶ日本三大霊地に俺は足を踏み入れた。

 

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歩く。そして歩く。果たして俺はどこに向かっているのだろうか。アップダウンの激しいデコボコの道で汗をダラダラかきながら、ふと思った。これは「ちょっくら散歩」の範疇を遥かに超えている。俺は大いなる後悔を胸にとめどなく歩いた。やがて白銀の世界を抜けて広場へとたどり着いた。

 

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突如現れたちょっぴりシャープな「川原毛地蔵菩薩」に一礼しつつ、俺は更に「川原毛大湯滝」まで歩くことにした。すでに疲労困憊だが俺にも意地がある。オリンピックに先駆けて負けられない漢の戦いがここにもある。ちなみに広場ではお父さんが上半身裸で体操していた。お父さんもきっと何かと戦っているのだろう。

 

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広場からさらに歩くこと10分。ようやく滝に到着した。

 

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そのエメラルドグリーンに輝く見事な滝を見ながら思ったのは帰りの心配である。一刻も早く戻らないと乗合タクシーが迎えに来る時間まで間に合わない。俺は滝鑑賞もほどほどに早足で引き返した。風情も何もあったものではない。

 

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ヒロキって誰やねん。もはやそんな突っ込みをする余裕もない俺はヘロヘロになりながら来た道を引き返した。考えてみたら稲庭うどんを食べてから一滴も水分を摂っていない。こんな死ぬ思いをして自分を追い込んでいるのは最後の夏にかける高校球児か俺ぐらいである。

 

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そして大粒の汗が涙に変わるころ、ようやく先ほどの温泉郷が見えてきた。

 

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乗合タクシーで命からがら湯沢駅に戻ってきた俺はもちろん腹ペコである。

 

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だが湯沢駅近くで見つけた定食屋は店内の灯りはついているものの「本日は終了致しました」の文字。疲れすぎた体を引きずって帰ろうとすると、たまたま外に出てきた店主と目が合う。

 

「あっ、あのすいません。もう終わりの、あれですよね?」

俺は大人なのに会話が苦手である。

「いいですよ。今日は暑くて早く閉めようと思ったんですけど。大丈夫なので中に入ってください」

 

正直もう1ミリも歩きたくなかった俺は半泣きで店内へ駆け込んだ。

 

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数あるメニューの中から俺がチョイスしたのは「スタミナ丼」である。

 

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先ほど死ぬほど歩いて消費したカロリーを一気にリカバリーする勢いで俺は肉と米をかき込んだ。光る汗と増える体脂肪。それでも俺は閉店間際の食堂でニンニクたっぷりのスタミナ丼をかき込んだ。そう、そんな37歳の夜もあるのだ。

 

店を出るとまだ蒸し暑かった。ニンニク臭い俺の吐息の向こう側に、夏がはっきりと見えた。

 

さて、今回は稲庭うどんの発祥の地と湯沢の秘湯を巡り歩いたKANEYANの秋田ぶらり旅。無事に川原毛地獄から生還できたところで、次回はさらに奥羽本線を先に進んで、秋田最南端の駅「院内駅」を目指してみようか。

 

続く。