KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#30【夏旅】【JR奥羽本線】「秋田最南端の駅・院内の心霊スポットを目指す灼熱の奥羽本線&レンタサイクルの旅」とは?

■秋田最南端の駅・院内の心霊スポットを目指す旅

「男鹿プリに行こうぜ!」

 

19歳の夏、俺は初心者マークを付けた車で友人と秋田では超有名な心霊スポット・男鹿プリンスホテルへと向かった。だが、幽霊よりも噂の廃墟ホテルにたむろしているヤンキーが怖くなり途中で引き返した。世界で3番目ぐらいにしょうもない夏の思い出である。

 

あれから18年。当時茶髪だった俺の髪の毛はすっかり侘しくなった。だがそれと同時に、社会という名の荒波に揉まれてきた俺はあの頃より確実にメンタルが強くなっているはずである。きっと今なら心霊スポットでも動じることなく宜保愛子並みの霊能力で霊を成仏させ、田舎のヤンキーにも金八先生並みの説教をかませるはずだ。

 

そんなわけで今回は、前回訪れた湯沢駅の隣駅である「上湯沢駅」から秋田最南端にある「院内駅」、そして男鹿プリとツートップを張る秋田の心霊スポット「院内銀山跡」を目指す旅である。俺はいつものようにJR奥羽本線に乗って先ずは「上湯沢駅」へと向かった。

 

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この日の予想最高気温は37℃。午前中にも関わらずすでに30℃を超えている超真夏日である。もはや心霊よりも暑さのほうが恐ろしいが、俺は駅近くの自販機で買ったポカリを飲みながら、ひとまず3キロ先の三関駅へと向かった。

 

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地元のお母さんたちの憩いの場と思われる野菜の直売所をチラ見しながら、国道へ。

 

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蝉の鳴き声が飛び交う真夏の国道を行く。すでに生温くなったポカリ片手に隣駅の「三関駅」を目指して歩いていると、不意に巨大なダンジョンが現れた。

 

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ドライブ24。かつては二階建ての食堂やゲーセンが併設されたドライブインだったようだが、今では幽霊廃墟として国道沿いで異彩を放っている。令和の湯沢に潜む闇。割れたガラスの向こうには何が待っているのだろうか。

■三関のレトロなレストランと横堀の人情カフェとは?

上湯沢駅から歩くこと30分。普段運動など疲れることは一切していないアラフォーの俺の体力はどうやら30分が限界である。ちょうど昼時ということもあり、俺は国道沿いのレストランで昼飯を食べることにした。

 

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ドデカいコーヒーの看板には店名のスカイラーク、……じゃなくてスカイホーク。昭和の雰囲気が漂うレトロな外観の店に足を踏み入れると、なぜか入口では直立不動のナイトがセイハロー。これは油断大敵である。

 

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低い声の魔女のようなお母さんが持ってきてくれた冷たい水をがぶ飲みしながら、メニューを睨める。店内は想像通りの昭和テイスト。タバコの焼け跡が残るテーブルクロスに時代の巡りを感じる。

 

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俺は「読者イチオシ!」と書かれたハンバーグランチを注文した。もちろん何の読者が推しているのかは全くの謎だが、スープにコーヒーも付いて600円は安い。これはガストもウカウカできない価格設定である。

 

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先ずは食前の牛乳感強めのスープを飲み干すと、絶妙なタイミングで魔女、……じゃなくてお母さんがメインディッシュのハンバーグを持ってきてくれた。肉質強めのハンバーグとスパイシーなソーセージを交互に食べつつ、控えめに盛られたライスをフォークで掬えば気分はすっかり昭和ナイトである。

 

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腹が膨れたところで、再び国道に出て三関駅へ。

 

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正午を回ると暑さは更に厳しさを増してきた。これから院内の例の心霊スポットを目指すにあたり、無駄な体力の消費は避けたい。俺は電車が来るまで駅の待合室で地蔵のようにジッと座っていた。そんな俺を一羽の鳥が待合室の天井からいぶかしげな顔をして睨んでいた。

 

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横堀駅に到着。小野小町のシュールな顔出しパネルをチラ見しつつ、俺は駅から10分ほど歩いたところにあるカフェへと向かった。

 

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これから院内では厳しい戦いが待っている可能性がある。その前に束の間のコーヒータイムである。車椅子に座ったお父さんが、目の前で豆を挽いてくれた。

 

「今日はどちらから?」

「大仙です。これから院内銀山に向かおうかと」

「院内銀山ねぇ」

そう言って、少し考えこむお父さん。

「あそこは虫が凄いよ」

「虫ですか?」

院内銀山は心霊スポットとして有名だが、虫については初耳である。

 

「この店は元々レストランでね、40年続けてたの」

「40年ですか」

「だけどできなくなってね、今はこのとおりコーヒーだけの店」

 

そう言ってお父さんは丁寧な手つきでコーヒーを出してくれた。

 

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横堀の人情カフェで過ごす夏の午後。もっぱら酒専門でコーヒーには疎い俺だが、お父さんが淹れてくれたコーヒーは抜群に美味かった。

■院内の心霊スポットを目指す灼熱のレンタサイクルの旅とは?

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本日の目的地である院内駅に到着。かつては院内銀山で街が栄えていたようだが、閉山した現在は駅周辺からも不気味な寂しさが漂っている。ちなみに院内駅には院内銀山の数々の資料が展示されている「院内銀山異人館」が併設されている。

 

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ここ院内駅から「院内銀山」までは約5キロほどの道のりである。この暑さの中、歩くには難儀な距離だ。そこで俺が着目したのが自転車である。院内銀山異人館では自転車を無償で貸し出してくれるサービスがある。俺は館内の資料をひととおり見て回ると、受付のお姉さんにレンタサイクルを申し出た。

 

「自転車で院内銀山に行きたいと思うのですが」

「……銀山まで」

少々困り顔のお姉さん。

「5キロぐらいなので自転車であれば楽に行ける距離かと」

俺はなぜか自信たっぷりである。

「ただの5キロじゃないですよ。山奥だから坂道だし、あとは熊とか」

「クマ?」

また熊である。

 

困惑気味のお姉さんからカギを受け取り、俺は自転車置き場へと向かった。

 

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思いっきりママチャリである。手前のカゴには蜘蛛の巣が張っている。だがこの炎天下の中、山道を歩くよりはマシである。俺は湯瀬温泉を目指した昨年9月以来、約1年ぶりのママチャリに跨った。目指すは例の心霊スポットである。

 

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駅前のコロリ地蔵尊にこのチャリンコ旅の無事を祈り、院内の街中を抜ける。

 

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先に進むに連れて、周りに建物は無くなり景色は殺風景になってきた。そして押し寄せる急な上り坂。俺は必死で立ち漕ぎをしながら坂を上った。大量の汗と鼻水を垂らしながら、心霊スポットを目指す37歳の夏。活字にしてみると改めてそのクレイジーさがわかる。俺は何をやっているのだろう。自問自答しながら漕ぐ自転車。今年は忘れられない夏になりそうだ。

 

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駅を出てから何分経っただろうか。頼みのiPhoneは完全に圏外。幸い僅かながら車は通るため、最悪の場合はその辺にチャリを捨てて、ヒッチハイクをして駅に戻ろう。そんなことを考えながら俺はひたすらチャリを漕いだ。

 

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もはやいつ熊が登場しても不思議ではない山道をママチャリで駆ける。白いTシャツは汗だくで、なぜかひどく汚れている。灼熱のレンタサイクルの旅。いよいよ体力の限界が近づいてきたころ、ようやく小さな看板が見えた。院内銀山の入口に到着である。

 

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もはやこの時点ですでにボロボロの俺だが、過呼吸気味の息を何とか整えて院内銀山跡に足を踏み入れた。

 

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かつては英華を極めた院内銀山だが、今はただ物々しい雰囲気が溢れている。

 

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ひとまず先に進んでみようか。そう思った矢先、あり得ない数のデカい蠅のような虫が俺に向かって体当たりしてきた。もはやそれは卒倒するレベルである。大量の虫がまとわりついている腕からは血が滲んでいる。マジかよ。マジだよ。心霊・酷暑・熊、そしておびただしい数の謎の虫。俺はもはや気絶寸前である。

 

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虫とランデブーしながら先に向かうと唐突にお墓が見えた。もちろんこの時点でおしっこをちびっているのは言うまでもない。相変わらず俺の行く手を阻むように大量の虫が体のあちこちにへばりつき、遠くから獣の鳴き声が聞こえる、ような気がする。もうこれ以上先に進むと命が危ない。そう判断した俺は光の速さで院内銀山跡を抜け出し、再びチャリを漕いで心配しているお姉さんが待つ院内異人館へと戻った。

 

「どうでした? 入口までは行けました?」

「入口までは行けましたが、虫が凄くて」

異人館のお姉さんにチャリのカギを渡した俺の目は虚ろである。もしかしたら霊に憑りつかれていたかもしれない。

「熊じゃなくて、虫ねぇ。ちょっと時期が悪かったですね」

 

「そう、ですかね……」

 

苦笑いのお姉さんに苦笑いで答える37歳の夏の旅。疲れた体を引きずって、俺は駅前の自販機に向かった。

そしてキンキンに冷えたファンタのフタを開けようとした瞬間、指が攣った。

 

熱中症の初期症状か、はたまた院内銀山に潜む霊の仕業か。

俺は院内駅のベンチに座り真っ白になっていた。もしかしたらちょっと泣いていたかもしれない。

 

さて、今回は秋田最南端の駅・院内の心霊スポットを目指したKANEYANの秋田ぶらり旅。ここ院内駅にて、ひとまず秋田県内の奥羽本線は全駅制覇である。だがまだまだ旅は続く。次回は大曲駅から田沢湖線に乗って羽後長野駅を目指してみようか。

 

続く。