KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#38【町飲み】【秋田内陸縦貫鉄道】「内陸線の終着駅・鷹巣を目指す晩冬のほろ酔いはしご酒の旅」とは?

■内陸線・合川駅近くのラーメン屋さんで昼間から一杯とは?

あの日、秋田には冬を告げる初雪が舞っていた。

 

昨年11月、俺は生まれて初めて秋田内陸縦貫鉄道に乗った。当日の天気は雨のち雪。俺は西明寺の温泉でビールを飲みながら、食堂の窓に映る初雪をぼんやりと眺めていた。今年もまた秋田に厳しい冬がやってくる。そんな淡い不安と哀しみを小皿に盛られた柿ピーと一緒に噛みしめた。その間にも雪は急ぎ足で降り積もり、西明寺の温泉施設クリオンの駐車場は瞬く間に銀世界へと変わっていった。

 

あれから4ヵ月。ようやく秋田でも雪解けが進み、春が近づいてきた。そして昨年11月に冬の訪れと共に始まった「秋田内陸縦貫鉄道の全ての駅に立ち寄る」というクレイジーな旅も今日をもって完結である。

俺は内陸線の終着駅・鷹巣駅を目指すため「秋田内陸ツーデーパス」という2日間内陸線乗り放題の貴族のようなチケットを握りしめて、その小さな電車に乗り込んだ。春を待つ内陸線の車内には中国人観光客の姿もあった。本来内陸線は海外からのお客さんが多いようだが、コロナ禍ということもありそれまでは見かけることがなかった。

 

いつものように角館駅から内陸線に乗りたどり着いたのは、前回最後に訪れた「米内沢駅」から一駅進んだ「上杉駅」である。俺は全盛期の林修先生のようなドヤ顔で運転士に3500円で買ったツーデーパスを見せつけ、まるで人の気配がしない無人駅に降り立った。

 

f:id:kaneyanyan:20220313155309j:plain

f:id:kaneyanyan:20220313160238j:plain

 

上杉駅の待合室にはハローワークの求人情報の紙が転がっていた。職探しをしながら、この駅から見た風景はいったい何色だっただろうか。そんなことを思いながら俺はこの殺風景な無人駅を後にした。長居すると目の前の線路に吸い込まれてしまいそうだったのである。

 

f:id:kaneyanyan:20220313155130j:plain

 

上杉駅から歩くこと40分。街が少しだけ賑やかになってきた。隣の合川駅に到着である。

 

f:id:kaneyanyan:20220313160729j:plain

f:id:kaneyanyan:20220313160706j:plain

 

先ずは昼飯である。合川駅付近には何軒か食事処があるのだが、俺が今回チョイスしたのは駅から少し歩いたところにある「山ちゃんラーメン」である。

 

f:id:kaneyanyan:20220313161123j:plain

 

店内に入ると俺はカウンターに腰をおろした。常連が集うザ・街のラーメン屋という雰囲気である。

俺は目の前で麺を茹でる店主のお父さんにビールを注文した。まだ昼の12時半である。

「兄ちゃん、車乗ってきてねぇよな……?」

コーヒーの「BOSS」のイラストがプリントされたトレーナーを着た店主は、突如現れた謎の酒飲みに困惑気味の様子である。

「……い、いえ、で、電車っス」

いつだって昼からのビールは後ろめたさと隣り合わせだ。

「へへ、それなら良かった」とBOSSのトレーナーのお父さん。

俺は夢見心地のまま、ビールをコップに注いでおもむろに口に運んだ、つもりだったが勢い余って若干ビールが鼻に入った。ビール色の鼻水を垂らしながら、ひとりで勝手に祭り気分である。

 

f:id:kaneyanyan:20220313163106j:plain

 

ビールにはもちろん餃子が無くてはいけない。店内のテレビにはTHE ALFEEがゲストの「徹子の部屋」が映っている。「3人合わせて201歳でございます」なんつってゲストを紹介するトットちゃんを見ながら、餃子を食って昼からビールを飲む。どこかの国では血なまぐさい出来事が起きているけれど、日本も俺も平和すぎて泣けてくる。

 

f:id:kaneyanyan:20220313165204j:plain

 

ビールを飲み干した後は焼き干しラーメンを注文。13時半を過ぎて、気づけば店内には俺も含めてお客さんは2人だけ。繁忙が終わったラーメン屋さん特有の緩い空気と一緒にラーメンを啜る。

北秋田市の小さな町の小さな食堂で、俺はまたひとつ平和と幸せを知った。

■春直前の内陸線沿線ほろ酔いぶらり旅とは?

餃子、ビール、そして〆にラーメンと昼間から欲望の限りを尽くし、ほろ酔い気分で北秋田市をぶらぶらと歩く38歳。春休み中の子供たちには絶対に見せてはいけない姿である。

 

f:id:kaneyanyan:20220319141709j:plain

 

すっかり出っ張ったお腹をさすりながら、ひとまず次の「大野台駅」を目指す。

 

f:id:kaneyanyan:20220319142750j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319142236j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319142258j:plain

 

春直前の内陸線沿線ぶらり旅は、いつの間にか山道へ。薄っすらと積もった道路には小動物の足跡が生々しく残っている。冬眠が終わり暇つぶしにこの辺をパトロールしている熊さんにバッタリお会いしたらどうしよう。ガサコソと何かが揺れる音がするたびに、危うくおしっこを漏らしちまいそうである。

 

f:id:kaneyanyan:20220319143733j:plain

 

半分ぐらいおしっこをちびりながら何とか山道を脱出すると、再びスッキリとした青空が見えた。

 

f:id:kaneyanyan:20220319144211j:plain

 

大野台駅に到着。大野台駅は昭和40年に地元住民の要望によって誕生したいわゆる「懇願駅」だが2022年現在駅に人の姿はなく、近所の工事現場の音だけがひとけのないプラットホームにただ響いていた。

 

f:id:kaneyanyan:20220319145707j:plain

 

昼酒をかましたとき特有のちょっぴり気だるい体を引きずって、大野台駅で再び内陸線に乗り辿り着いたのは付近に世界遺産の「伊勢堂岱遺跡」がある「縄文小ケ田駅」である。

 

f:id:kaneyanyan:20220319151052j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319151206j:plain

 

縄文小ケ田駅の待合室には「秋田内陸線ガチャ」が設置されている。今ならお土産用の縄文マグネットや秋田内陸線オリジナルのモバイルリングホルダーが購入可能だ。

 

f:id:kaneyanyan:20220319151921j:plain

 

これ、いったい誰が欲しいんだろう……、というツッコミはもちろん禁止だ。

 

f:id:kaneyanyan:20220319151947j:plain

 

そして肝心の世界遺産「伊勢堂岱遺跡」は残念ながらまだ雪に埋もれていた。春が近くて遠い北秋田の夕暮れである。

 

f:id:kaneyanyan:20220319152121j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319152145j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319153336j:plain

■地元住民が集う鷹巣の名酒場「四季」とは?

西野鷹巣駅に到着。長かった秋田内陸縦貫鉄道の旅もいよいよ終点の鷹巣駅を残すのみである。だがその前に酒場へ向かわねば。俺は陽が落ちて夜が顔を出し始めた鷹巣の街を歩き本日お目当ての酒場へと向かった。

 

f:id:kaneyanyan:20220319153847j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319153917j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319153940j:plain


西野鷹巣駅から歩くこと10分。今宵はここ「酒どころ 四季」でひとり酒である。

 

f:id:kaneyanyan:20220319154404j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319154637j:plain

 

やや年配のお父さんとお母さんで営む地域密着型の酒場である。俺が座ったカウンターの横ではすでに常連さんたちが良い塩梅だ。

いつものように瓶ビールを頼んでお通しを食べながら、黒板メニューを眺める。今日は魚で攻めるか肉で攻めるか、好物の馬刺しなんかも捨てがたい。と、そのとき隣の常連さんが頼んだ「マグロの刺身」をチラ見すると、これがめちゃくちゃ旨そうだ。そんなわけで俺は常連さんの真似をしてマグロを頼んだのだが、これが大当たりである。

 

f:id:kaneyanyan:20220319160128j:plain

 

まさか秋田の内陸部に位置する北秋田市で、絶品のマグロに出会えるとは思わなかった。ひとりご満悦の俺の横では常連さんと店主が葬式の話をしている。秋田では目を背けることができない社会問題を横目に俺はひとりマグロの余韻に浸るのであった。

 

f:id:kaneyanyan:20220319161752j:plain

 

今日は魚で攻めようと決意した俺は酒を焼酎のお湯割りに変えて、カワハギの刺身を注文した。秋田産の生粋の地元っ子は珍しい肝付きだ。間違いないっ。往年の長井秀和のような独り言が飛び出しそうになったとき、「兄ちゃんもどう?」と店主からどぶろくのサービスがあった。

昨年の秋に同じくこの内陸線の旅で訪れた上桧木内の旅館で振舞っていただいて以来、人生2度目のどぶろくを手元のお湯割りをチェイサーにして嗜む。

「兄ちゃん、これが日本のワインだ。うめが?」

陽気な常連さんや店主に囲まれて酒が進む鷹巣の夜である。

秋田内陸縦貫鉄道の終着駅・鷹巣の人気店で啜る〆の蕎麦とは?

すっかり酔っぱらった俺はその足で秋田内陸縦貫鉄道の終着駅である「鷹巣駅」に向かった。

 

f:id:kaneyanyan:20220319163301j:plain

 

本日は最後にもう一軒。〆の蕎麦を食べるべく向かったのは鷹巣駅から歩いて5分ほどのところにある「手打ちそばと比内地鶏の店・いな穂」である。

 

f:id:kaneyanyan:20220319163522j:plain

 

〆の蕎麦を食べに来たつもりだが、なかなか日本酒も豊富だ。比内地鶏の焼き鳥も気になる。神様、もう少しだけ。〆るつもりが、ついついもう一杯という酒飲みの悪い癖がここでも炸裂である。俺は日本酒「春霞」と比内地鶏の焼き鳥を注文した。

 

f:id:kaneyanyan:20220319163856j:plain

 

日本酒用のお猪口は自分でチョイスできるサービスがあるようだ。これは酒飲みにとっては何気に嬉しい。

 

f:id:kaneyanyan:20220319164028j:plain

f:id:kaneyanyan:20220319164123j:plain

 

日本三大地鶏の一角である比内地鶏を秋田の名酒「春霞」で合わせる。春を待ちきれない晩冬の贅沢である。

 

f:id:kaneyanyan:20220319164916j:plain

 

そして旨い手打ち蕎麦と秋田内陸縦貫鉄道の旅のフィナーレを同時に噛みしめる。累計94.2キロの秋田の内陸部を繋ぐ鉄道の旅。憂鬱な冬の始まりにスタートした「内陸線の全ての駅に立ち寄る」という摩訶不思議なアドベンチャーの旅はここ北秋田市鷹巣駅でどうやらゴールのようである。

 

f:id:kaneyanyan:20220319170030j:plain

 

鷹巣駅近くのビジネスホテルに一泊した俺は翌日、角館駅行きの始発電車に乗った。人がまばらの青色のワンマン電車は眠たそうにゆっくりと走り出した。3月の朝はまだまだ寒い。

だけど澄んだ空気の先に、少しだけ春が見えたような気がした。

 

f:id:kaneyanyan:20220319170056j:plain

 

さて、今回は内陸線の終着駅を目指したKANEYANの秋田ぶらり旅。2020年の夏に唐突に始まったこのぶらり旅だが、残るはJR北上線(横手駅~黒沢駅)と田沢湖線角館駅田沢湖駅)のみとなった。いよいよ終盤戦に差し掛かってきたこのブログだが、ひとまず今回をもって秋田内陸縦貫鉄道に別れを告げて、次回は春の北上線の旅に出てみようか。

 

続く。