KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#40【秋田県内の駅全制覇】【JR田沢湖線】「角館駅から田沢湖を目指す初夏の田沢湖線各駅降車の旅」とは?

秋田県内の駅全制覇の旅・最終章とは?

2年前の夏、俺は大舘のスナックにいた。

 

秋田県内の全ての駅に立ち寄り、その一部始終をブログに書く。そんな壮大でクレイジーな野望を小さなリュックに詰め込んでコロナが猛威を振るい始めた2020年の夏、俺はローカル電車に乗って大舘に向かった。そして夜は寂しげな大舘のスナック通りに繰り出して旅の始まりを祝うかのように泥酔していた。

あれから2年。電車に乗っては降りて、乗っては降りてを繰り返し、時には車掌さんに訝しげな顔で見られたり、時には熊に怯えながら携帯の電波もまばらな山道を歩いたりしながら、秋田のほとんどすべての駅に立ち寄った。そしてそんな小さな旅も今回でいよいよ完結である。

 

さあ、最終章だ。俺は秋田県内の駅全制覇という、とことん暇を持て余している人間にしかできない野望をクリアするため角館駅へと向かった。そう、俺のラストダンスは角館駅から4駅先の田沢湖駅を目指す旅である。

 

 

先ず俺が訪れたのは角館駅の隣駅・生田駅である。角館駅から4キロも離れていないが、すでに観光名所としての雰囲気は皆無で、永遠なる自然が広がっている。

 

 

本日はここから田沢湖駅を目指してぶらり旅を敢行するのだが、その前に先ずは飯でも食べよう。生田駅から少し歩いたところにここ仙北市神代エリアのご当地グルメ「神代カレー」が食べられる食堂があるようだ。

気分はすでにカレーモード。初夏の心地よい風に吹かれながら、俺はその店へと向かった。

 

 

夢と幻想の神代カレー。俺は「本日休業」と書かれたその張り紙を目の前にただ立ち尽くすしかなかった。チクショー、腹減ったぜ。食べられないとわかると、なぜかさらに腹が減るのは人の性だ。出鼻をくじかれたラストダンス。俺は5月の空に描いたご当地グルメをひっそりと吹き消して、隣の「神代駅」を目指し田沢湖線に乗り込むのであった。

■まるで親戚の家? 神代駅近くのアットホームな食堂「華頂」とは?

 

神代駅に到着。生田駅で神代カレーにソッポを向かれた俺の頭の中は、もはや飯のことでいっぱいだ。iPhoneで調べてみると、ここから5分ほど歩いたところに個人経営の食堂がある。先ずはそこに向かうことにした。

 

 

店の前に着くと、幟の前で農作業をしているお父さんと目が合った。お父さんは俺を見るなり「いいよ」とアイコンタクト。どうやらこの店の店主のようだ。土曜日の昼間にも関わらずお客さんが誰もいなかったのが気になったが、店主のお父さんに促され店内へ。

 

 

店内に入ると待っていたのは圧倒的アットホーム感。まるで夏休みに親戚の家に遊びに来たような雰囲気だ。だがこういう店は嫌いじゃない。さて、何を食べるか。悩んだ末、俺は生姜焼き定食を注文した。気まぐれ定食も気になったが、とにかく腹ペコだった俺の体は肉を欲していた。

 

 

生姜焼き定食が到着。メインの豚の生姜焼きに、黄身が乗った長芋、今が旬のワラビ、そして漬物と小鉢が3つも付いて税込み850円は安い。そうだよ、俺が食いたかったのはこれだよ、と孤独のグルメのパクリじゃないけどマジでそんな感想だ。生姜焼きはもちろん、タレが沁み込んだキャベツにご飯が進む。完食後は、お父さんが持ってきてくれた冷たい麦茶を一気飲み。少し早いけど気分はサマーバケーションだ。

 

「今日は歩いてきたの?」とお父さん。

「はい、電車の旅をしてまして……」

「へぇ。これから渓谷にでも行くの?」

「ケイコク?」

俺は飯のことしか考えていなかったが、どうやら「抱返り渓谷」がここ仙北市神代エリアの観光スポットのようだ。

調べてみるとここから歩いて45分ほど。頑張れば歩いて行けない距離ではない。ただ問題は頑張って行く価値のあるスポットかどうかである。去年の夏に行った「川原毛地獄」や「院内銀山」のようなガチで遭難必須レベルのスポットは懲り懲りだ。

だがせっかくお父さんに教えてもらったことだし、行ってみることに。田沢湖で酒を飲む以外はノープランだし、幸い天気もいい。

「気ぃつけてな! 午後から雨降ってくるらしいからな!」

いやいや、雨降るんかい! 俺は一抹の不安を感じながら、噂の観光名所を目指して歩き始めた。

■密かなデートスポット! 仙北市神代の観光名所「抱返り渓谷」とは?

 

雨に降られたらひとたまりもない。俺は急ぎ足でその観光名所を目指して歩き始めた。

 

 

その道中、不意に22年前に放送された伝説のドラマ「ビューティフルライフ」の木村拓哉常盤貴子が現れたため、俺は思わず足を止めた。

 

 

当時まさにキレッキレだった視聴率男のキムタクと連ドラの女王として君臨していた常盤貴子が四半世紀近くの時空を超えて、現在も尚、社民党の広告塔して仙北市神代エリアで活動中だ。

 

 

しばらく歩くと「抱返り会館」なるものを発見。この場所でどんな会合が開かれていたのかは今となってはもちろん闇の中だ。

 

 

歩くこと45分。ようやく抱返り渓谷の入り口に到着。やたらと目がチカチカする案内看板をチラ見して散策開始だ。

 

 

抱返り渓谷の歩道入口を進むと、右手に抱返神社が見える。その先を進むと現れるのが神の岩橋だ。

 

 

残念ながら落石の影響で回顧の滝(みかえりのたき)まで行くことはできなかったが、ちょっとした散歩には快適である。だがひとつ難点があるとすれば、他の訪問者が皆カップルだったことである。恋人たちのビューティフルライフを横目に眺めた景色は確かに良かった。だがなぜだか少しだけ侘しさの風が吹きすさび、やがて先ほどのお父さんの忠告通り空から降ってきた小雨が俺の侘しい心を濡らした。

そんなわけで仙北市神代エリアの観光スポット「抱返り渓谷」においては、恋人と行くことを推奨する。

 

 

小雨を浴びながら足早に神代駅まで戻ってきた俺は再び田沢湖線に乗り、刺巻駅へと向かった。

 

 

刺巻駅といえば、刺巻湿原のミズバショウが有名である。見頃になると約6万株のミズバショウの白い花弁が揺れる刺巻湿原までは、駅から歩いて約1キロだ。次の電車がやってくるまでまだ時間はある。ここはひとつこのブログを読んでくださっている皆様に素敵な景色を届けよう。そう決意した俺は乳酸が溜まった重い足腰に鞭打って例の刺巻湿原へと向かった。

 

 

意気揚々と訪れた刺巻湿原。だがミズバショウの見ごろは4月上旬から5月上旬である。訪れた5月下旬はすでにシーズンオフだ。白い花弁が揺れる代わりに、たくさんの小さな虫たちが否応なく俺の顔面に体当たりしてきた。素敵な景色を届けようなどと慣れないことはするものではない。酒でも飲もう。

俺は小さな虫たちをドラクエのように後ろに引き連れて刺巻湿原を後にするのであった。

秋田県内の駅全制覇! そして田沢湖駅前のおまかせ料理の酒場で一杯とは?

秋田ぶらり旅を始めて約2年。時には天候に翻弄され、時には無人駅のスカスカの時刻表に絶望し、そしてようやく俺はこの旅147ヶ所目の駅へとたどり着いた。

 

 

田沢湖駅到着。これをもって俺は「秋田県内の駅にすべて立ち寄る」というMajiでDOでもいい偉業を成し遂げたのである。

 

 

この快挙をひとりで盛大に祝うべく俺は田沢湖の街並みに繰り出した。今日はこの街でとことん飲もう。まぁ家にいるときもとことん飲んでいるのだが、そんな意気込みを田沢湖の夕暮れの曇り空に投げかけて、俺は一軒目の店へと入った。先ずは駅前の酒場「居酒屋こまち」からスタートだ。

 

 

どうやら年配のお母さんがひとりで切り盛りしているお店のようだ。秋田ぶらり旅の最後の街で先ずはひとり乾杯である。

 

 

この店にメニューはない。全てはお母さんのおまかせである。何が出てくるのか。ビールを飲みながらお母さんの一挙手一投足に着目するサタデーナイトだ。

 

 

先ずはワラビだ。そういえばお昼にも食べたなというのは心にしまい、仙北市ソウルフードをつまむ。

 

 

「この前、男鹿に行ってきたときに買ってきたのよ」

そう言ってお母さんが次に出してくれたのは男鹿産のタコと野菜の和え物だ。

真鯛も買ってきたけど食べちゃったのよ、ごめんね」

なるほど、真鯛も食べたかったなというのは心にしまい、タコをつまみにビールを進める。

 

 

ここからは今が旬の山菜ゾーンに突入だ。山菜と野菜の和え物を挟み、登場したのは「こしあぶら」という山菜の天ぷらだ。

 

 

山菜の天ぷらが大好物な俺にとって、これは嬉しかった。軽く塩をふって食べる。酒はビールからハイボールにチェンジだ。わらびとタコと山菜と。まだまだ夜は長いがこれはどうやら酒が進む。

「最近のテレビはコマーシャル多いはねぇ。あっ、いけない7時だ」

お母さんはそう言ってテレビのチャンネルをNHKへ回した。お母さんの7時はNHKのニュースと相場が決まっているようだ。

おかわりしたハイボールを飲み干したところで、そろそろ二軒目へ行こうか。酒はもう少しいけそうだ。……といつも思うのだが、気づくと後半の記憶が曖昧になっているのが最近の俺だ。だが今日はとことん飲もう。少し寂しげな田沢湖の夕闇にそう決意しながら、俺は再び街へ繰り出した。

田沢湖で出会った刺身が絶品の名店、そして秋田ぶらり旅の完結とは?

次に訪れたのは田沢湖駅から5分ほど歩いたところにある「居食屋 鮮粋」である。

 

 

お通しの山かけをつまみにリスタートのビール。お通しが旨い店にハズレはない。この店の売りは魚ということで、もちろんアテは刺身に決まりだ。

 

 

豪勢な盛り合わせも好きだが、ひとり飲みのときはこのサイズで出してもらえると実はありがたい。こうなると日本酒が欲しくなるのが酒飲みの性だ。マスターおススメの刈穂の大吟醸で今宵は夢気分といこう。

 

 

新鮮な魚をつまみつつ、たんまりと注がれた日本酒を迎えに行く。この瞬間のために俺は生きていると言っても大げさではない。マスターと秋田の酒とラーメン事情について話しながら夜は更けていく。さてこの後どうするか。もう少しだけ飲むか。ひとり飲みの危険なところは誰も俺を止めてくれないところである。

 

 

夜の闇をふらつきながら、俺は鮮粋のマスターが紹介してくれたスナックへと向かった。思えばこの秋田ぶらり旅で初めて訪れた大館でも、俺はスナックで酒を飲んでいた。

 

 

ドラえもん好きのママさんと話をしながらハイボールだったか、ビールだったか、レモンハイだったかぶっちゃけ覚えていないが、とにかく酒を飲んでいた。そう、実はこのときの記憶が曖昧なのである。

そんな曖昧ミーな俺のiPhoneになぜかこんなメモが残っていた。

 

「わたしゃひゃくまで恋をする」

 

なんだこれ。翌日二日酔いの頭で考えていると、ふと思い出した。

スナックで常連さんであろう高齢のお母さんがたしかこの歌を歌っていたのだ。わたしや百歳(ひゃく)まで恋をする。寂しげな秋田の町はこのお母さんのような力強さに支えられている。

 

俺は秋田を旅した。

この2年間、おそらく他のひとより少しだけ、秋田のいろんなところに行ったと思う。だけど例えば東京のひとに「秋田って何があるの?」と聞かれても、ごめん、うまく答えられない。申し訳ないが「秋田はなんもないよ」と言ってしまいそうだ。

それでもそんななんにもない秋田の空を俺は忘れない。

無人駅の駅ノートに書かれた誰かの温かなメッセージを俺は忘れない。

訪れたたくさんの酒場で見つけた人情を俺は忘れない。

 

さて、そんなわけで今回の旅をもってこの「KANEYANの秋田ぶらり旅」も一応完結である。まだまだ書き残したことがあるような気もするが、ひとまずこのへんで。

読んでくれた方々ありがとう。

 

また会いましょう。

 

終わり。