KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#37 【歩き旅】【秋田内陸縦貫鉄道】「ローカル電車で行く阿仁合&米内沢の地元で愛される名スポット巡り旅」とは?

■地元で愛される阿仁合の駅前食堂「高田食堂」とは?

俺にとって幸せとは何か。

 

俺も気づけば30代後半。楽しいことならいっぱい、夢みることならめいっぱいなヤングな頃はとっくに過ぎて、ふとそんなことを思う数も増えた。

と、いきなり変なテンションで始まった今回のぶらり旅だが、こんな俺でも時には幸せを感じることがある。それは給料日にスケベな店へ行くとき……あっ、ごめん間違えた、電車旅の前に駅のコンビニで缶ビールを買い、そして電車の出発と同時にそいつを開ける瞬間である……。

 

さて、今回は阿仁合駅から米内沢駅を目指す内陸線の旅だが、スタート地点の阿仁合まで行くには角館から電車で1時間半以上かかる。まぁのんびり行こう。俺は座席に腰を下ろすと角館駅前のNewDaysで買った缶ビールをスタンバイして電車の出発を待った。そう、まさに俺の至福のひとときである。

 

f:id:kaneyanyan:20220305144849j:plain

f:id:kaneyanyan:20220305144939j:plain

 

いい日旅立ち。旅はいつでも日常を少しだけ非日常に変えてくれる。いつも飲んでいるスーパードライではなく1本300円もするクラフトビールを買ってしまうのも旅のテンションならではだ。俺は山口百恵さんの名曲を心の中で奏でながら、電車がゆっくりと動き出すのを待って窓際の缶ビールに手を伸ばした。

と、そのときふと思った。いくらガラガラとはいえ、このコロナ禍で電車内で酒を飲むのはマナー違反ではないだろうか。だがすでにビールの缶を空けてしまった。俺はキョロキョロと四方を見渡した。そして親に隠れてタバコを吸う高校生のような面持ちで、その空色の鮮やかなパッケージを隠しながらチビチビとそいつを飲んだ。

 

30分後、電車が上桧木内を過ぎたころ、俺は車内のトイレにいた。朝の10時からビールを飲んだ俺のナイーブなお腹が悲鳴をあげたのである。いい日旅立ち。男の小さな幸せはいつだって痛みと引き換えである。

 

f:id:kaneyanyan:20220305151734j:plain

 

下っ腹を抑えながら阿仁合駅に到着。昨年11月から月イチペースでのんびりと敢行している秋田内陸縦貫鉄道の旅。今回はここ阿仁合駅から5駅先の米内沢駅を目指す計画である。

 

f:id:kaneyanyan:20220305152421j:plain

f:id:kaneyanyan:20220305152853j:plain

 

俺が先ず向かったのは阿仁合駅から歩いて10分弱のところにある「高田食堂」である。その外観のビジュアルからは、生半可な観光客なら思わず後ずさりしてしまいそうなオーラが漂っている。

 

f:id:kaneyanyan:20220305153400j:plain

f:id:kaneyanyan:20220305153508j:plain

 

店内に入ると、親切そうなお母さんが迎えてくれた。おススメのカレーラーメンを注文して待っていると、地元のお父さんが店内に入ってきて慣れた手つきで自分用にお茶を淹れはじめた。お父さんは白飯とラーメンをオーダー。後から入ってきた別のお父さんはなべ焼きうどんだ。

 

f:id:kaneyanyan:20220305153919j:plain

 

もしかしたら人生で初めてかもしれないカレーラーメンを啜っている最中もお母さんは忙しげだ。

「ちょっと出前行ってきます」と俺と地元のお父さんたちを残しお母さんは外出。仮に俺が食い逃げしたら、ラーメン&ライスをモリモリ食べている地元のお父さんが店のお母さんの代わりに俺を追いかけてきそうだ。高田食堂。そこは古き良き昭和の香りが色濃く残る地元民御用達の駅前食堂である。

■映画「君の名は」の隠れた聖地「前田南駅」とは?

お昼の12時。カレーラーメンを食べ終えた俺は歩いて阿仁合駅の隣駅である「小渕駅」へと向かった。1日の運行本数が少ない秋田内陸縦貫鉄道は次の電車が15時過ぎまでやってこないのである。

 

f:id:kaneyanyan:20220305160326j:plain

 

歩くこと1時間。ようやく見えた「小渕駅」は阿仁エリアのシンボルとなっている「阿仁合駅」とは打って変わって、民家の片隅に居心地悪そうに佇んでいた。

 

f:id:kaneyanyan:20220305161409j:plain

f:id:kaneyanyan:20220305161045j:plain

f:id:kaneyanyan:20220305161106j:plain

 

午後の休憩に入った内陸線はまだ当分やってくる気配はない。もちろん小渕駅に人の姿はなく、寂れた待合室には哀愁の風が吹いていた。

 

f:id:kaneyanyan:20220305162038j:plain

 

3月になりいよいよ厳しい冬を脱出しそうな阿仁地方の澄んだ空を眺めながらさらに歩く。目指したのは次の「前田南駅」である。

 

f:id:kaneyanyan:20220305162346j:plain

 

実はここ前田南駅は、新海誠監督のアニメ映画「君の名は」に登場する架空の駅「糸守駅」のモデルとなった駅とされている。とはいえ劇中の「糸守駅」はたしか岐阜県の設定だったし、あくまでもネット上の噂で制作サイドから公式的に発表されたわけではない。

だがそこは赤字の噂が絶えない秋田内陸縦貫鉄道である。観光客を迎え入れようとこの話題に便乗し聖地巡礼用に駅ノートを設置したのはもちろん、映画公開直後の2016年当時は普段「前田南駅」をスルーする急行列車を臨時停車させたほどの力のいれようである。

 

f:id:kaneyanyan:20220305164021j:plain

f:id:kaneyanyan:20220305164119j:plain

 

さらに駅の待合室には劇中に登場した「口噛み酒」もちゃっかり完備。なかなかの便乗具合である。まさに内陸線が起死回生を狙った君の名はムーヴメント。だが2022年現在、残念ながら駅に人は誰もいなかった。本当にこの「前田南駅」は「糸守駅」のモデルになったのか。そしてコロナが終わったら、また各地からこの駅に人々が聖地巡礼に訪れるのか。

いずれにしても新海誠監督が内陸線存続のカギを握っていることは間違いない。

 

f:id:kaneyanyan:20220305165725j:plain

f:id:kaneyanyan:20220305165746j:plain

秋田県内唯一の温泉のある駅「阿仁前田温泉駅」とは?

RADWINPSのあの名曲を口ずさみながら前田南駅を後にして、さらに内陸線沿いを歩き進めるとひときわド派手な建物が見えた。「阿仁前田温泉駅」である。

 

f:id:kaneyanyan:20220309154910j:plain

f:id:kaneyanyan:20220309154936j:plain


せっかく県内唯一のwith温泉駅である「阿仁前田温泉駅」までやってきたのである。ここはひとつ夕方からの飲酒にそなえてこの駅ナカ温泉で温まるのも悪くはない。ただ次の電車が発車するまであまり時間がない。俺はデザインのセンスがちょっぴり微妙なその駅舎の階段を昇り、急ぎ足で駅に併設されている温泉施設「クウィンス森吉」へと向かった。

 

f:id:kaneyanyan:20220309160034j:plain

f:id:kaneyanyan:20220309160110j:plain


まだ冬の残り香が漂う3月初旬の旅にそなえ、まるでスキーヤー並みのモコモコ重装備だった俺は速攻でそいつらを剥ぎ取り、すぐさま風呂場へとむかった。とにかく時間が無いのである。

風呂場の扉を開けると、湯上りの体を火照らせた高齢のお父さんが仁王立ちしていた。お父さんをすり抜けて幼少期だったらお母さんに「ちゃんと体を洗いなさい」と怒られるレベルで適当に体を洗い流し、湯船に浸かった。まだ夕方前の駅内温泉は意外と混んでいたが、皆一様に各々のルーティーンでその場を過ごしている。まるで街の銭湯のような雰囲気である。

秋田唯一の駅ナカ温泉「クウィンス森吉」。そこにあったのは観光スポットとしての雰囲気ではなく、厳しい冬を過ごす北秋田市のお父さんたちの凛々しい背中だった。

 

f:id:kaneyanyan:20220309163647j:plain

 

風呂からあがった俺は阿仁前田温泉駅から内陸線に乗って次の駅を目指した。「桂瀬駅」である。

 

f:id:kaneyanyan:20220309163827j:plain

 

その渋めの待合室で本日の目的地である米内沢方面に向かう次の電車を待つ。ちなみに桂瀬駅の向かいには創業48年の床屋さん「理容カツラセ」がある。床屋さんに設置されてある赤と青と白の三色看板を眺めながら、夜の酒と肴に思いを馳せる。

 

f:id:kaneyanyan:20220309170014j:plain

f:id:kaneyanyan:20220309170049j:plain

 

北秋田市の晩冬の空に赤みが加わってきたころ、お待ちかねの内陸線がやってきた。ローカル電車で行く名スポット巡りはどうやら今回も酒場が終着駅のようである。

■地元で愛される人情酒場で鍋をつつきながら至極の一杯とは?

f:id:kaneyanyan:20220309170543j:plain

f:id:kaneyanyan:20220309170617j:plain

f:id:kaneyanyan:20220309170727j:plain


米内沢駅に到着。待合室では「笑う岩偶」が3000年のスマイルをたたえながらセイハロー。そして音楽と笑顔の駅にはなぜかサラリーマン金太郎がコンプリートされていた。

 

f:id:kaneyanyan:20220309171303j:plain

 

米内沢駅から歩くこと20分。夜が来る一歩手前の米内沢の住宅街を歩きたどり着いたのは「酒肴ろくべえ」である。

 

f:id:kaneyanyan:20220309171718j:plain

f:id:kaneyanyan:20220309171945j:plain

 

店内に入ると気さくなお父さんとそのお弟子さんらしき若い男の子が迎えてくれた。奥の座敷では地元の団体さんがさっそく一杯やっている。

 

f:id:kaneyanyan:20220309172136j:plain

 

お通しを食べながらメニューと睨めっこしていると「塩ちゃんこはどう?」とお父さん。どうやら団体さん用に出す鍋の材料がちょうど一人分余っているようだ。晩冬の夜に鍋も悪くない。だけどその前にどうしても食べたいものがあった。馬肉のタタキである。

 

f:id:kaneyanyan:20220309172700j:plain

 

酒と肴と幸福を同時に噛みしめる米内沢の夜。俺はビールを飲み干すと手元の酒を焼酎「ろくべえ」の水割りに変えた。今日はこの店の冠を背負ったこの酒で、時間が許すまで夜を過ごそうと決意したのである。

 

f:id:kaneyanyan:20220309173254j:plain

f:id:kaneyanyan:20220309173313j:plain

 

満を持して鍋を注文。冬の肴は鍋に限る。店主が準備に取り掛かる。俺は焼酎をおかわりして具材が煮えるのを待った。

 

f:id:kaneyanyan:20220309174147j:plain

f:id:kaneyanyan:20220309174233j:plain

 

たくさんの野菜に、海老、蟹、ホタテ、鮭、つくねに銀杏、いったい何種類の具材がその出汁の中にスタンバイしているのだろうか。

 

「旨いっス」

思わず店主に向かって俺は言った。人間はハピネスを感じると心が素直になるものである。鍋をつつきながら店主に告げる「スイマセンもう一杯」は今宵何度目か。米内沢の夜に焼酎が進む。

 

やはり冬の肴は鍋に限る。そう一人合点した俺は内陸線の終電に乗るために米内沢駅へ向かった。先ほどは夕暮れだった駅舎はすっかり夜の闇に包まれていた。もうすぐ米内沢駅に本日最後の電車がやってくる。酔った。酔っぱらった。そして腹もいっぱいだ。だが今日はなんだか心まで満たされた気分。

 

いつものように千鳥足で駅のホームへと向かう。そんな俺の後ろ姿を、この駅のシンボルと思われる岩偶が3000年のスマイルをたたえながら見つめていた。

 

さて、今回は阿仁合と米内沢の地元民御用達の名スポットを巡ったKANEYANの秋田ぶらり旅。そして長く続いた秋田内陸縦貫鉄道の旅もいよいよ終盤戦である。次回はさらに内陸線を進んで、この鉄道の終着駅である「鷹巣駅」を目指してみようか。

 

続く。