KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#21 【田舎宿に泊まろう】【JR羽越本線】「日本海が一望できる秋田最南西端・小砂川駅の人情旅館」とは?

■秋田最南西端・小砂川駅の田舎宿に泊まろう

JR羽越本線小砂川駅。山形との県境にある秋田最南西端の小さな駅である。地元のひと、あるいは余程の電車マニアでないと知りえないであろうその海辺の無人駅の近くに一軒の旅館がある。ふとその旅館に泊まってみたいと思った。

 

これまでの「秋田ぶらり旅」はほとんどが日帰り、あるいは酒を飲み過ぎて終電を逃した日は近くのネットカフェに宿泊し朝を待つという何とも味気ない思いをしてきた。風情も何もあったものではない。

ここはひとつ秋田の田舎宿に泊まりその場所特有の景色や空気を味わいたい。秋田県大仙市から秋田県にかほ市へ。田舎から田舎への不要不急の小旅行。俺は強い風が吹けばすぐに運休になる鉄道路線でお馴染みの「羽越本線」に乗り込んだ。今回は前回最後に訪れた「象潟駅」から2駅先の「小砂川駅」、さらには「小砂川駅」の隣駅で山形との県境の先にある「女鹿駅」という秘境駅にも足を踏み入れてみたい。

 

先ずは前回の旅で酒と人情に酔いしれた象潟から今回の旅はスタートである。

 

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前回の旅では素晴らしい酒場に巡り合った象潟だが、もう一軒気になる店がある。それは老夫婦が営むラーメン店である。先ずはそのお店で腹ごしらえをして羽越本線に沿って秋田と山形の県境を目指すことにしよう。

 

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象潟駅周辺には象潟出身の版画家・池田修三さんのイラストが至る所に設置されている。

 

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■老夫婦が営む小さなラーメン屋の絶品肉タンメンとは?

今回訪問予定のラーメン屋は老夫婦が営んでいるということもあり、営業時間はふたりの体の具合で変わるという。果たして今日のふたりの体の調子はどうだろうか。半信半疑のまま店の前までたどり着くと、ひとり、またひとりと店内に吸い込まれていくのが見えた。営業しているようである。

 

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昭和の香りが漂うその外観にもまた池田修三氏の可愛いイラストが貼られている。

 

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小さな店内はなかなかの賑わいである。高齢のお父さんがラーメンを作り、そのラーメンをこれまた高齢のお母さんが運び、お客さんはその様を固唾を飲んで見守る。そして食べ終えた器はお客さんがカウンターまで運ぶ。ご夫婦とお客さんの連係プレイが見事な古き良き食堂である。

 

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この店の名物「肉タンメン」を啜る。太麺にいわゆる「トンテキ」と「しょうが焼き」のような分厚い肉が大量に投入されている。肉アンド肉の男飯だが意外に肉タンメンを注文する女性も多い。魚だけじゃない漁師町・象潟の新たな一面である。

 

腹が膨れたところで、目的地の小砂川駅を目指して出発である。この秋田県にかほ市は県内でも積雪量が少なく温暖な街である。道路にはほとんど雪もないため、先ずは歩いて次の「上浜駅」を目指すことにした。

 

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羽越本線に沿って国道7号線を南に進む。1時間ほど歩いて上浜駅に到着した。

 

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上浜駅から羽越本線に乗り日本海を横目に秋田最南西端の小砂川駅へ向かった。

■秋田最南西端の地から見た日本海の風景とは?

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小砂川駅前には1軒の旅館がある。本日宿泊予定の松本旅館である。

 

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松本旅館の裏手を進むと、磯の香りと共に壮大な日本海が顔を出した。

 

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チェックインまで少し時間があるため、隣の「女鹿駅」方面に向かって歩いてみることにした。

 

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山形との県境にある謎のマスコットキャラクター「スギッチ」の看板を超えてさらに進むと、大きな公園にたどり着いた。三崎公園である。

 

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周辺の宿や食事処は全て廃墟と化している。ちなみにここ三崎公園は周辺で入水自殺者が多いことから心霊スポットのひとつに挙げられているようである。昼間はそれほど不気味さは感じなかったが夜にはまた別の顔を覗かせるのだろうか。

 

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秋田との県境に位置する山形県飽海郡遊佐町に入った。国道の脇からは見事な日本海が一望できる。

 

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■山形との県境で出会ったナマハゲの兄弟と秘境駅女鹿駅」とは?

日本海を右手に「女鹿駅」方面に向かって歩いていると、馴染みのあるイラストが目に付いた。

 

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ナマハゲ。いや違う。アマハゲである。どうやらこの地方に伝わる小正月の伝統行事のようだがナマハゲの兄弟が山形との県境に存在していたとは初耳だ。しかし全国区の男鹿のナマハゲに比べて、この日の目を見ないアマハゲはいささか不憫ではある。イラストの絵もどことなく迫力に乏しい。

 

アマハゲの看板を超えて少し進むと、女鹿駅入口の看板がポツンと立っていた。

 

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上り2本、下り4本と驚異的なスルー率を誇ることから「女鹿駅」は秘境駅として一部マニアに愛されているようだが、数年前に現在の小綺麗な駅舎に建て替えられたため、その秘境度合いは少しパワーダウンしたように思われる。駅に設置されている訪問者が自由に書き込める「駅ノート」にも以前の古ぼけた駅舎を懐かしむ声や駅舎の建て替えを惜しむ声が少なくなかった。

 

夕方17時前、女鹿駅から乗車できる貴重な羽越本線に乗って、再び小砂川駅に向かった。今晩は駅前の松本旅館に一泊である。旅館の裏側から夕陽が日本海に沈んでいくのが見えた。鮮やかな橙色の夕陽を背にして俺は松本旅館の扉を開けた。

■松本旅館の絶品料理でほろ酔い、そして突然の地震にひとり狼狽する男とは?

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「裏から夕陽見ました?」

「はい、見事でした」

旅館に入ると女将さんが出迎えてくれた。朗らかないい女将さんである。2階の和室に案内され腰をおろす。窓からは海が見える。

 

旅館にひとりで泊まるのは人生で初めてである。ひとまず浴衣に着替え座椅子に腰かける。なぜだか落ち着かない。間もなく40代を迎えるというのに何事も人生経験に乏しいこの男は少し緊張気味の様子である。夕食までまだすこし時間があるため風呂に入ることにした。このコロナ禍で客は俺ひとり。静寂の中、大きな浴槽にざぶんと体を沈めれば秋田の端の端にいる実感が沸いた。

 

風呂からあがると念願の夕食である。

 

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豪勢な夕食を目の前にしてまたもや落ち着かない俺はひとまずビールを煽る。酒飲みは酒を飲む前は厳粛な顔をしているが、酔ってくると俄然野蛮な本性が顔を出す生き物である。俺はビールを進めながら蟹をほじくり出し、天ぷらにかぶりつき、鱈鍋の汁を飲み干した。

 

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日本海の恵みを順々に制覇しつつ、同時にほろ酔いときたら、それはただただ至福である。海辺の旅館にて温かいお茶を啜りながらひとまず今回の旅もまた良い塩梅で終わりそうだ。たらふく食って飲んだ俺は、まだ夜9時にも関わらずさっそく布団を敷いて就寝の運びである。

 

だが2時間後、事態は急変した。地震である。枕元に置いておいたiPhoneがうなりを上げる。なかなか強い地震だ。震度4ぐらいか。もしかしたらもっと強いかもしれない。長い時間揺れていたが、なんとか収まった。よし、寝よう。俺はまた布団に潜り込んだ。……って、ちょっと待てよ。ここは日本海の目の前である。津波が襲ってきたらひとたまりもない。

 

『只今地震がありました。落ち着いて行動してください』

 

にかほ市防災無線が物々しく部屋に響き渡る。俺は浴衣がはだけてパンツ丸見えの状態でひとり狼狽した。震源地が日本海だったら俺の人生はこの秋田最南西端の地で終止符を打つことになる。防災無線が爆音で緊急の旨を訴えている。どうしよう。テレビテレビ。俺は震える手でテレビのリモコンを握った。

 

津波の心配はありません』

 

その言葉に俺は安堵したが、否が応でも10年前の東日本大震災を思い出した。そしてテレビをつけたまま俺は再び布団に潜り込んだ。

 

翌朝。

「昨日の地震? ああ防災無線がうるさかったですね」

女将さんは思い出したようにそう言って笑った。部屋でひとり慌てふためいていた俺とは大違いである。肝が据わっている。

 

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旅館で食べる朝飯ほど旨いものはない。普段朝はなかなか飯が喉を通らない俺だが、この日はご飯を3杯も食べた。

 

前日の地震の影響で電車が動いていないため、一旦バスで羽後本荘駅まで戻り様子を見ることにした。女将さんと大女将さんがバス停まで俺を見送ってくれた。

 

「また来てください。ぜひまた」

大女将さんは真っすぐ俺を見てそう言ってくれた。

「嫌な思い出にならなきゃいいけれど」と幾分申し訳なさそうに女将さん。

「逆に思い出深いことになりました」

なかなか旅館に泊まって地震に遭遇することはない。だが昨日の地震が嘘のように日本海は穏やかである。風もほんの少しだけ温かく感じる。ゆっくりとではあるが秋田にも春が近づいている。

 

バスが来た。車内の俺に向かって手を振ってくれる温かなふたりに俺も手を振り返した。いつかまた来よう。青く光る日本海を横目に、そう思った。

 

さて、今回はぶらぶらと秋田最南西端の地までやってきたKANEYANの秋田ぶらり旅。ひとまずこの日本海が一望できる海辺の旅館にて、羽越本線に別れを告げて、次回は春の由利高原鉄道の旅に出てみようか。

 

続く。