#32 【町飲み】【JR田沢湖線】「みちのくの小京都・角館のDEEPなスポット&酒場巡り」とは?
■大仙市郊外の超絶渋い昭和の食堂で食べるチャーハンとは?
久しぶりに3日間禁酒をした。
コロナウイルスのワクチンを打ったら熱が出たからである。毎日規則正しく飲酒活動を続けている俺が3日間も禁酒するのは2000日ぶりぐらいである。気だるい体を引きずって酒の代わりに冷えたアクエリアスでバファリンを流し込む。秋の夜長にワクチンの副作用。体温計をワキに挟みながら俺は月夜に誓った。この熱が下がったら、たらふく酒を飲んでやろうと。
そんなわけで今回は「みちのくの小京都・角館」のディープなスポット&酒場巡りである。実は俺の住んでいる家はちょうど大曲と角館の中間地点に位置しているのだが、外で酒を飲むときはもっぱら大曲方面に繰り出すことが多いため、角館の酒場はあまり馴染みがない。泥酔覚悟の角館の酒場歩き。果たしてどんな夜になるだろうか。
と、その前に先ずは前回の旅で最後に訪れた「羽後長野駅」の隣駅である「鶯野駅」から今回の旅はスタートである。
鶯野駅。もはや地元民以外を寄せつけない完全地域密着型の駅である。
忍者ハットリくんに似ているようで、実は全然似ていない盗っ人が描かれたチャリンコ盗難の注意喚起の看板をチラ見しつつひとまず国道へ。
角館のはしご酒を敢行する前に、先ずは昼飯である。実は大仙市豊川エリアに超絶渋い食堂があるということで行ってみることに。鶯野駅からは約2.5キロほどの道のりである。
稲刈りが終わったばかりの田んぼに挟まれた農道をひたすら歩くこと40分。唐突にその食堂は現れた。
その渋すぎる外観に一瞬躊躇してしまったが、入口の前には小さく「営業中」という文字が見える。俺は固唾を飲んで店内に入った。
錆びれたパイプ椅子に壊れた卓上ゲーム機。年季の入った木のテーブルにはなぜか車の雑誌が大量に積まれており、ふと顔を上げると坂本冬美さんと先日引退を発表した横綱白鵬関がセイハロー。もはやどこをツッコんでよいのかわからないが、ひとまずこの店をひとりで切り盛りしているお母さんにチャーハンを注文した。この店の看板メニューのようである。
訪れたのは土曜日の昼間だったが客は俺ひとり。厨房の前にはおかもちが置かれているため普段は出前が中心なのだろうか。お母さんに見守られながら、チャーハンを頬張る。シイタケがアクセントになっているが、これがなかなか美味い。1970年代から続く大仙市郊外の老舗食堂。現在は創業者の両親から娘さん(と言っても60代ぐらいだが)が引き継ぎ、店を切り盛りしているようである。昭和から令和へ、時をかけるチャーハン。大仙市豊川の「高幸食堂」はノスタルジーを身に纏いながら今なお現役である。
ちなみにこの食堂の向かいは地元の小学校である。正門前に建てられたハレンチなようでけしてハレンチではない銅像が、今日も昭和の食堂を凛とした姿勢で見つめている。
■角館の隠れたディープスポット・雲沢観光ドライブインとは?
秋のそよ風に吹かれながら、再び鶯野駅まで舞い戻った俺はその足で田沢湖線に乗った。目指すは今日の目的地である「角館駅」である。
酒場がオープンする夕方まで少し時間があるため、俺はとある場所へ向かうことにした。そう、角館が誇る名スポット・雲沢観光ドライブインである。とはいえ駅から離れているため、歩くと往復1時間半もかかる。時間はあるが体力はないのが俺である。ここは潔く諦めるか。そう思いかけたとき、とある看板が目に入った。
なるほど、その手があったか。リメンバー院内銀山。またしてもチャリに跨ることになった37歳の秋。俺はさっそく自転車を借りるため店に向かった。
大量のママチャリの中からお父さんがチョイスしてくれた自転車を借りる。ちなみに1時間300円である。
大丈夫。心配するな。何とかなる。かの有名な一休禅師の格言をチラ見しつつ、雲沢観光ドライブインまでチャリを飛ばす。
ママチャリを漕ぎ続けること15分、俺は例のドライブインへとたどり着いた。
雲沢観光ドライブイン。いわゆる国道沿いにある古き良き食堂だが特筆すべきはその隣に併設されている建物である。
なかなか見かけないラーメンとうどんの自販機と大量に並ぶアーケードゲーム機。昭和チープ感あふれる自販機うどんに舌鼓を打つか、カップヌードル片手にちょっぴりスケベな麻雀ゲームに勤しむか。その楽しみ方は無限大である。
角館駅郊外の24時間利用可能な秘密基地。土曜日ということもあり人が絶えずやってくる。地元市民と長距離トラック野郎の思いを乗せて、雲沢観光ドライブインは今日も元気に営業中だ。いつの日か武家屋敷と並び角館屈指の観光スポットとして注目される日が来るかもしれない。(来ない)
■みちのくの小京都・角館でディープな酒場巡りとは?
夕暮れ時、無事にチャリンコを返した俺は酒場を求めて角館駅周辺を歩いていた。一応秋田の中でも観光地に分類される角館だが酒場の情報は意外と少ない。スカスカの食べログ情報を頼りに俺は街を彷徨った。
先ず1件目に選んだのは「ふくや」である。店に入るとお母さんは少し困り顔だ。
「今日は団体の予約が入ってまして……」
こればかりは仕方がない。諦めて帰ろうとしたそのとき「あっ、でも」とお母さん。
「少し時間がかかりますが、それでも良ければ……」
金と体力と人徳はまるでないが、人より時間だけはあるのが俺である。カウンターの端っこに座り角館酒場巡り旅のスタートである。
ピリ辛のホルモンと焼き鳥をビールで流し込むサタデーナイト。目の前のテレビのチャンネルを変えようとしたらなぜか画面が砂嵐になろうとも、ホルモンが歯奥に挟まろうとも溢れる俺のハピネス。酒で買える人生の至福がここにある。
忙しい合間を縫って、そんな俺にお母さんが話しかけてくれる。焼き鳥も旨いし良い店だ。本来はもう少し留まりたいところだか、他の店も気になる。俺はビールを飲み干すと次の店へと向かった。
1件目の店から歩くこと数分。俺は「安吾酒房」という店にたどり着いた。だが灯りは点いているが人の声は聞こえてこない。普段であれば入店に躊躇するところだが、幸い俺は酔っている。半信半疑のまま俺は酔いに任せて店内へと入った。
誰もいない。無人の店内にラジオの音だけが流れている。一瞬帰ろうかと思ったが、酔っている俺は店の奥に向かって「すいません」と呼びかけた。
「はいはい」
そう言って店の奥から現れたのは60歳ぐらいのお父さんである。
「少しお酒を飲みたいのですが」
「はいはい。お通しは麻婆豆腐か温豆腐かスパゲティの中から選べるけど」
「えっと、じゃあ温豆腐で」
ひとまず俺はL字型のカウンターの前に座った。目の前にはおにぎりが見える。お父さんの夜食だろうか。
何はともあれ赤星の瓶ビールと豆腐で2回戦のスタートである。
「この辺のひと?」
「大仙です」
「大仙ね」
そう言ってお父さんも目の前で瓶ビールを飲み始めた。ラジオからは阪神とヤクルトの首位攻防戦の実況が聞こえる。だが電波が悪いのか、その音声も途切れ途切れだ。
ビールからレモンサワーにチェンジした俺は気づくとお父さんとマンツーマンで飲んでいた。野球の話と角館の祭りの話、そしてそこから女性の話へ。
「お兄ちゃんは絶対独身だと思ったよ! ハハハハ」
どうやら俺は全身から奥さんや彼女がいませんオーラがあふれているようである。
「でも大丈夫だ。俺も初婚は40過ぎだがら」
「マジすか」
レモンサワーを何回もおかわりし、なぜかお父さんに励まされた角館の夜。
「よっしゃ! お兄ちゃんの飲みっぷりが気にいった! もう一杯いくか! 奢ってやる!」
「マジすか!」
「薄めがいいが? 濃いめがいいが?」
「濃いめで!」
走り出したら止まらない。それがロックンロールと酔ったときの俺である。お通しの豆腐だけでエンドレスレモンサワー。すっかり酔った俺はフラフラの体を引きずって再び夜の街に飛び出した。
■ゴルゴ13を読みながら啜る角館の〆のラーメンとは?
37歳のオッサンネクストジェネレーション。酒は好きだがけして強くない俺はすっかりドロップアウト寸前である。最後の濃いめのレモンサワーが効いたぜ。夜風に向かって不敵な独り言をほざきながら、俺はパブレストラン「田中屋」に向かった。
普段は洋食メインの田中屋だが、夜は〆のラーメン屋に変貌するようである。
店内にはゴルゴ13とサラリーマン金太郎がコンプリート。その本棚からは店主の男気が感じられる。
〆のラーメンを待つ間、バドワイザーを注文。そこに酒があればついつい手を出してしまう。酒飲みの悪い癖である。
ゴルゴ13片手にラーメンを啜る。漫画界の巨匠・さいとうたかを先生もきっと舌を巻くはずの旨さである。酒を飲んだ後のラーメンはどうしてこんなに美味いのだろうか。そんなことを思いながら昭和ビートなラーメンを啜り、バドワイザーを飲み干す。
サンキュー角館。膨らんだお腹をさすりながら歩く夜の小京都。ちらほらとスナックの灯りが見える。ではもう1軒。いや、やっぱりやめておこう。
人知れず葛藤をしながら、気づけばすっかり晩秋である。
さて、今回は角館のディープなスポットと酒場を巡ったKANEYANの秋田ぶらり旅。案の定翌日は二日酔いに襲われたことはひとまず置いておいて、次回は角館から秋田内陸縦貫鉄道の旅に出てみようか。
続く。