KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#35【新年ひとり旅】【秋田内陸縦貫鉄道】「冬の秋田内陸縦貫鉄道で行くマタギの里の旅」とは?

■県内一標高が高い「戸沢駅」から始まる秋田内陸縦貫鉄道の旅とは?

「えっ、と、戸沢駅ですか?」

秋田内陸縦貫鉄道角館駅の窓口で係のお父さんはそう言って目を丸くした。

 

この日は三連休の初日のため、内陸線に乗る観光客で角館駅の改札付近は混んでいた。窓口のお父さんは「阿仁合までですね」などと言いながら、慣れた手つきで切符に切り込みを入れてお客さんに渡していた。

そんな折、周りに温泉、食堂、観光スポットといった気の利いたものは一切無く、ただ無駄に標高が高いだけの「戸沢駅」までの切符を求める男がいた。俺である。窓口のお父さんも、えっ、と、戸沢駅ですかと若干困惑気味だ。そんな秋田内陸縦貫鉄道屈指のマニア向けの駅から始まる今回のぶらり旅。俺は一抹の不安を抱えながら、ひとまず観光客で賑わう三連休初日の内陸線に乗り込み、戸沢駅へと向かった。

 

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標高315メートルの「県内一てっぺんの駅」と謳われているその駅は、俺から凄い勢いで体温を奪っていく。マジで命の危険を感じる寒さだ。ちなみに今回の旅はここ戸沢駅から3駅先の「比立内駅」を目指す計画である。

 

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駅のホームからはトンネルが見える。まるで魔境への入り口のようだ。

 

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さて、次の電車が到着するまで約2時間もある。一応このぶらり旅は「全ての駅に立ち寄る」というのがルールのため、俺はひとりでこの殺風景な無人駅に佇んでいるわけだが、待合室にはもちろん暖房設備は無く、歩こうにも次の「阿仁マタギ駅」までは約10キロぐらいある。GoogleMapを開いてみても戸沢駅近辺はまるでスカスカで、一番近いコンビニでさえ20キロ先と遥か彼方だ。

 

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時間を潰すために駅近辺を探索しようとしたが、あまりにも雪が多く5秒で断念。

「アラフォー男性が無人駅で凍死か?」

新年早々、秋田魁新報の片隅にそんな見出しが躍ることになるかもしれない。そんなことを思いながらまるで滝行のような時を過ごすこと約2時間、ようやく「阿仁マタギ駅」行きの電車が到着した。気を取り直して、いざマタギの里へ。俺は溢れる鼻水をジャンパーの裾で拭いながら、再び内陸線に乗車するのであった。

■阿仁マタギ駅近くにある温泉施設「マタギの湯」とは?

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阿仁マタギ駅に到着。電車を降りるとさっそくマタギの旦那がセイハロー。「ちびまる子ちゃん」に出てくる藤木くんのような唇をしている。あまり健康そうには見えないが大丈夫だろうか。

 

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先ず俺が向かったのは阿仁マタギ駅から約2キロ先にある温泉施設「マタギの湯」である。資料館も併設されているこのマタギの湯では「熊肉ラーメン」なんていうマタギの里ならではの料理も食べられる。酒と温泉と熊肉ラーメン。何も無人駅で孤独と戦うだけが旅ではない。熱い温泉に入って旨いものを食べて、ついでにビールを嗜む。これこそが真の旅の姿である。

 

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歩くこと30分。打当温泉マタギの湯」へと到着。

 

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だが入館して早々、俺はあることに気がついた。食堂が閉まっているのである。すでに時刻は昼の1時を回っていた。この施設を除くと近くに食堂は見当たらない。俺は低いトーンでグーグーと鳴り響く下っ腹を抑えながら、ひとまず風呂に入ることにした。

 

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チラリと雪が舞う露天風呂に浸かりながらビューティフルホリデー。薄い壁を挟んだ向こうからは女性の声が聞こえる。おそらく女湯なのだろう。高まる鼓動と高まる血圧。いつだって女湯は男のロマンだ。だが俺は踏みとどまった。薄い壁の向こうにいる人たちは明らかに俺のオカンぐらいの年齢である。

 

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昼間からやらしいことを考えてしまった罰が当たったのか、コインロッカーに入れた100円玉がなぜか返ってこなかった。それもそうだ。よく見たら、いやよく見なくてもわかるが、大きな文字でばっちり「故障中」と書いてある。マジか。マジだよ。マタギの里の洗礼を受けながら、ひとまず風呂上がりにビールでも飲もう。

 

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だがここで俺は再びあることに気がついた。ビールこそ売店で販売はしているが、休憩スポットの大広間に電気が点いていないのである。受付のお父さん曰く現在はコロナ禍のため大広間は開放しておらず、更に食堂以外では飲食も禁止らしい。

夢に消えた酒と温泉と熊肉ラーメン。それにしても腹減ったぜ。1月の寒空にそう呟きながら、再び俺は阿仁マタギ駅まで戻り、内陸線に乗り込むのであった。

■演歌「無人駅」のMVの舞台となった奥阿仁駅とは?

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奥阿仁駅に到着。先ず目についたのは待合室にデカデカと掲げられた『演歌「無人駅」の駅』という文字だが、実はAKB48から演歌歌手としてデビューした岩佐美咲さんのファーストシングル「無人駅」のミュージックビデオにここ奥阿仁駅が登場するのである。

ちなみに演歌「無人駅」の作詞はもちろん泣く子も黙る秋元康さんで、この曲のキャッチコピーは「誰もいなくても、あなたなら信じられる」である。

 

いつだって女の恋愛と冬の無人駅は孤独で切実なのだ。

 

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奥阿仁駅から歩いて本日の目的地である「比立内駅」を目指す。

 

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奥阿仁駅に向かって歩いているとバス停を発見。そう、俺は何も好き好んで冬空の下をテクテクと歩いているわけではない。もしも比立内駅方面に向かうバスがあれば速攻でそれに乗り込むフットワークの軽さは持ち合わせている。

 

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だが雪に埋もれているバス停を覗いてみると、時刻表はまるでスカスカだった。ついでに山道に迷い込んだため、頼みのiPhoneも圏外だ。打ちのめされた心に吹き荒ぶ冷たい奥阿仁の風。2022年も秋田ぶらり旅は孤独との戦いだ。

 

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iPhoneもお手上げの殺風景なマタギ街道をひたすら歩くこと1時間、ようやく道の駅「マタギの里」に到着。

 

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だが熊が持っている「WELCOME」という看板とは裏腹に館内はすでに撤収モード。食堂もすでに閉店している。まだまだ続くマタギの里の洗礼を浴びながら俺は再び歩き始めた。酒が俺を呼んでいる。今日の目的地である比立内駅はもうすぐだ。

■比立内の食堂ツートップを巡るはしご酒の旅とは?

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比立内駅に到着。待合室ではリアル熊とキュートなリラックマがコラボレーション。リラックマは未だにサンタとトナカイ仕様だ。そう、年が明けてもまだまだ阿仁のクリスマスは終わらない。

 

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今宵はここで一杯。比立内駅付近にある食堂「ゆさんこ」である。現在夜の営業は予約制のようで、今日はわざわざ俺のために店を開けてもらえることになった。ありがたいけど、ここはたらふく酒を飲んで恩返しせねば。俺はよくわからない使命感を抱えながら店の扉を開いた。

 

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店内に入ると店主のお父さんが迎えてくれた。いつもならばここでビールをがぶ飲みするところだが、如何せん体が冷え切っている。ここはひとつ焼酎のお湯割りからスタートである。つまみは奮発して2000円のおまかせセットを注文した。

 

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2000円のおつまみセット。その内容はまさにザ・つまみである。店のテレビに映る春高バレーを眺めながら、ひとりでこっそりパーティタイム。お父さんは基本的に厨房にいるため店内は俺のみだ。お父さん作のおつまみセットをモリモリ食べながら、エンドレス焼酎。どんな状況でも酒を飲んでいればなんとなく楽しめるのが俺に与えられた唯一の長所である。

 

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ここ比立内駅付近の食堂はここ「ゆさんこ」と「ニュー安滝」という店のツートップ体制である。すきっ腹に熱い焼酎を流し込んだ俺は既にだいぶ出来上がっているが、もう一方の店も気になる。ここはひとつマタギの里ではしご酒の敢行である。

 

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雪道を細心の注意を払いながら歩き、それでも転びそうになりながらたどり着いたのは比立内の吞兵衛たちの秘密基地「ニュー安滝」である。

 

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渋いマスターと美人なママさんのふたりで営業しているようだ。隣のテーブルでは地元の方々の宴会が繰り広げられ、カウンターでは常連らしきお父さんが演歌のテレビ番組を肴にほろ酔いモードだ。店内はなかなかの広さである。

 

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ここでも引き続き熱い焼酎をやりながら、メニューを眺める。先ほどの店で料理はそこそこ食べてきたのだが、なぜか激辛ラーメンが気になる。俺は「酔うと激辛を食べたくなる」という悪癖があるのだ。何とも体に悪そうな癖だが、残念ながらこの場に俺の暴走を止めてくれるひとは誰もいない。

 

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「すいません。この激辛ラーメンは、めちゃくちゃ辛いですか?」

「まぁまぁ辛いですけど、YouTubeでやってるような、そういう辛さではないですね」

もしかしたら夜にフラっと現れた俺のことを美人ママさんは「さすらいの激辛YouTuber」だと思ったかもしれないが、ひとまず手元の焼酎を飲み干してラーメンが到着するのを待った。

 

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マタギの里の夜の終わりに激辛ラーメンを啜る。ちなみにとてもどうでもいい話だが、この日の翌日が俺の38歳の誕生日だった。

 

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店主とママさんに見送られながら夜道を歩く37歳最後の日。ハイカロリーをぶち込んだ腹はもちろんパンパンだ。

そして比立内駅で待ち受けていた熊は、そんな俺をとても哀れんだ目をしてぼんやりと見ていた。

 

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さて、今回は冬のマタギの里を探索した2022年最初のKANEYANの秋田ぶらり旅。ただひたすら次の電車を待つしかなかった無人駅から始まり、最後に激辛ラーメンで〆るというよくわからない構成を反省しつつ、次回は内陸線をさらに進んで、この路線の中枢となる「阿仁合駅」を目指してみようか。

 

続く。