#4 【ローカルグルメ紀行】【JR花輪線】「パンチ力高めの鹿角のソウルフードを巡る旅」とは?
■鹿角のソウルフードを巡る旅
20代の頃は酒を飲みながらする話といえば夢や女の話が中心だったが、30代も半ばを過ぎた今、友人とする話といえばもはや健康のことである。
そう、この年になるとやっぱり気になるのは紗倉まなの新作……ではなくて健康診断の結果である。
明らかに10年前よりも出っ張ったお腹をさすりながら早朝にジョギングでもしてみようかなと昔は考えもつかなかったことをふと思ってみたりもする。来る40代に向けて突然変異のように現れた健康志向。そういえば最近野菜が美味いと思うようになってきた気がする。毎日夜中にマックを食べてビールを飲んでいた20代の頃が懐かしい。そんなことを思いながら俺は今日もトマトサラダを食べるのである。
だがそんなことを思いつつも、俺はまだ30代とも言える。時には血圧やコレステロールのことはひとまず忘れて、好き勝手食べてみたいと思うときもある。それが旅先であったら尚更である。旅先でうさぎのように野菜ばかり食べる男はモテない。
そんなわけで俺は今回の旅のテーマを「鹿角のソウルフードを巡る旅」と決めて、颯爽と花輪線に乗り込んだ。前回のブログでは十和田南駅近くのお寿司屋さんの絶品料理の数々を紹介したが、事前のリサーチによるとその隣の柴平駅には鹿角市民が集う絶品のにんにくラーメンが食べられる店があるという。いいじゃない。この後女の子とチューする予定もないし。いや、女に往復ビンタを食らう羽目になっても、一度は食べてみたいぜ鹿角のにんにくラーメン。レッツ・にんにく。ゴートゥ・にんにく。俺は呪文のようにそう呟きながら花輪線の柴平駅に降り立ったのである。
■柴平で出会った古本屋とにんにくラーメン とは?
9月になり日差しも穏やかで、絶好のにんにく日和である。地元のおじさんたちが農作業をする音をBGMにしながら、俺は目的地のラーメン屋に向けて歩き始めた。
道の途中、唐突に古本屋の看板を見つけた。
気になりはしたが、果たして営業しているのだろうか。おそるおそる近づいてみる。たしかに営業中と書かれた看板が置いてあり、窓ガラスの向こうに本が並んでいるのも見える。
俺は入り口と思われるドアをそっと開けて中を覗き込んだ。誰もいる気配がない。やはり営業していないのだろうか。そう思った矢先奥から「いらっしゃいませ」と小さな声が聞こえ人の好さそうな店主が現れた。営業していたのである。店内はコミック、小説、絵本、そしてエロ本までもが全体的に黄色く日焼けしながら無造作に並んでいる。俺は古本屋独特の匂いを感じながら、店内を見て回った。秋田のローカル電車の旅は暇を持て余すことが多い。ちょうど電車の待ち時間などに読む小説か何かでもあれば良いと思っていたところである。
俺は数ある本の中から大槻ケンヂの名作「グミ・チョコレート・パイン(パイン編)」を手に取り300円で購入した。なぜオーケンのグミチョコパイン、しかもチョイスしたのがパイン編だったのだろうかと、今になって思っているところではある。
レッツ・にんにく。ゴートゥ・にんにく。古本屋を出て、俺は再び目的地のラーメン屋に向けて歩き出した。鹿角の猛者たちが集う屈指の人気店のようである。やはり混んでいるのだろうか。目的地はもう目の前である。
「ん?」
その違和感に気づくのに時間はかからなかった。お昼時だというのに、店の前には一台の車も停まっていないのである。やっちまったか。おそるおそる店に近づくと「臨時休業」の文字が見える。やっちまった。俺はけしてグルメではないが「これを食べる」と決めたら他のものでは妥協できない職人気質である。もう何としてでもにんにくラーメンを食べないことには断固としてこの地を離れるわけにはいかない。いや、別ににんにくラーメンじゃなくて普通のラーメンでもいいか。というか腹が減ってるだけだから、とりあえず何か食えればいいか。俺は妥協を許さない職人気質でありながら、視野の広さと臨機応変さも持ち合わせているのである。
とりあえず次の駅である鹿角花輪駅方面に向けて歩いていると、1軒のラーメン屋さんを発見した。
「冷やし中華始めました」の旗は秋の風によって傾き、至る所に年季を感じるその店は意外と言っては失礼だが地元民で賑わっていた。メニューには「にんにく系」もあるらしく、店員のお姉さんの「にんにく一丁」という威勢のいい声が聞こえる。やはり鹿角市民はにんにくが好きなのだろうか。俺も大量のにんにくチップが投入された「みそとんこつにんにくラーメン」で花輪線の中枢「花輪鹿角駅」を目指すためのスタミナをつけることにした。
■ 縄文時代の配石遺跡「大湯環状列石」とは?
秋の風に俺のにんにく臭い息を交差させながら、鹿角花輪駅に向けて再び歩き始めた。とにかくまぁ歩いてばかりの旅である。田舎をこんなに歩きながら旅をしているのはテレ東の「ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z」でお馴染みの田中要次か俺ぐらいである。
1時間ほど歩いて昼過ぎに鹿角市の中心である鹿角花輪駅に到着した。もはや有人駅というだけでなぜだか安心するという域に達している俺だが、鹿角花輪駅は観光案内所もあり田舎特有の閉塞感はあまり感じられなかった。
ちなみに今回のテーマは「鹿角のソウルフードを巡る旅」だが、つい先ほどラーメンを食べたばかりでありもちろん全く腹は減っていない。そこでここはひとつ鹿角市の観光名所でも見て回ろうと思い立ち、観光案内所のお姉さんに「大湯環状列石」までの道のりを訪ねたところ、間もなく到着するバスに乗るのが良いという。この旅初のバス移動である。
バスに乗ること30分ほどで鹿角の「大湯環状列石」に到着した。大湯環状列石とは縄文時代の配石遺跡である。
と、物知り顔で書いているが俺は酒とスケベなことにしか興味がない質である。この古代遺跡も見る人が見れば感動モノだろうが、俺はその景色を見ながら特にこれといった感想もなく「さて次のバスの時間は?」と来るよりも早くバスの時間を気にする有様である。
次のバスの時間までまだ少し時間があったため、併設する資料館に立ち寄ってみた。
「ここに来るのは初めてですか?」
「まあ、そうですけど」
「ではまずビデオを見ましょう。ビデオビデオ」
資料館に入るなり、係りのおじさんから半強制的に「環状列石」についてのビデオを見せられた。
「うむ、なるほど」
10分ほどのビデオを見終えると、俺は小さく頷き誰にでもなく呟いた。だが肝心の内容は頭にはほとんど何も入っていなかった。繰り返すが俺の頭の中は酒とスケベなことだけで出来ているのである。
資料館に展示された縄文土器を眺めながら、気持ちはすっかり「鹿角ホルモン」である。県南生まれの俺は知らなかったのだが、鹿角市はジンギスカン鍋で豪快に焼いて煮る「鹿角ホルモン」が鹿角市カルチャーの代表選手のようである。もはや夜はホルモン&ビールと決めた俺はおそらくとても貴重な歴史的な古代遺跡にあっさりと別れを告げて、再びバスに乗って鹿角花輪駅に戻った。
■ 鹿角花輪のソウルフード「鹿角ホルモン」とは?
正直東京に住んでいたころは鹿角花輪駅を見たら、めちゃくちゃ田舎だと罵倒したことだろう。だが大滝温泉の死臭さえ感じたあの独特の雰囲気や、十二所駅から十和田南駅間の全く人と出会わない孤独な旅を堪能してきた俺にとっては、駅に人がいる、飯を食べる場所があるというだけで、街に有難さを感じるのである。
鹿角花輪駅前には何件か「鹿角ホルモン」のお店が存在するようだが、今回は「花千鳥」という店にお邪魔した。
まだ夕方5時過ぎだったが、すでに鹿角アベックがホルモンを囲いながら一杯始めている。俺も予習したとおりホルモンとキャベツをオーダーすると、おばちゃんがデカいジンギスカン鍋を運んできて豪快にカセットコンロにセットした。要領がわからずひとまず一人前ずつ頼んでみたが、十分な量である。
ひとまずビールを飲みながらホルモンが煮えるのを見守る。
念願の鹿角ホルモンのその味は、甘辛く、そしてニンニクが効いている。パンチ力があり、ビールを飲んでいなければ白飯をがっつりいきたいスタミナ系である。間違いなくインスタ映えはしないが、意外に女性のお客さんも多い。
俺は血圧やカロリーなど気にせずに濃い目の味のホルモンをビールで流し込む。県南育ちの俺は正直県北のことをあまり知らない。いやほとんど何も知らないと言ったほうが正しい。だから今回僅かではあるが、県北の文化に触れられたことはなんだか感慨深い。
奥歯に絡まったホルモンを気にしながら、ふとそんなことを思った。
さて今回は鹿角のにんにく多めの食文化に触れたKANEYANの秋田ぶらり旅。食にはあまり興味がないと言っておきながら、なんか食べたことばかりだなというのは気にせずに、次回は花輪線をさらに進んで秋田最東端の「湯瀬温泉駅」を目指してみようか。
続く。