KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#33【田舎宿に泊まろう】【秋田内陸縦貫鉄道】「羽後長戸呂の農家民宿を目指す秋田内陸縦貫鉄道ふれあい旅」とは?

廃線の噂が絶えないローカル列車「秋田内陸縦貫鉄道」とは?

今年も秋田に冬がやってくる。

 

11月某日。俺は例によって「KANEYANの秋田ぶらり旅」の準備をしていた。今回は秋田内陸縦貫鉄道の旅である。だがいまいち気が進まない。旅当日の天気が悪すぎるのである。旅を翌日に控えた俺は「Yahoo!天気」と睨めっこ。iPhoneの画面には無情にも傘と雪だるまのマークが並んでいる。

 

旅当日。天気は予報通りの雨。そして雨はいずれ雪に変わりそうな気配だ。朝なのか夜なのかわからないどんよりとした灰色の雲が俺の旅気分を削いでいく。だが男には行かねばならぬときがある。幸い雨は降っているが土砂降りではない。俺は意を決して今回の旅の出発地である角館駅へと向かった。

 

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秋田内陸縦貫鉄道。角館から北秋田市鷹巣までを繋ぐ第三セクターの鉄道である。実は赤字続きで今まで何度か廃線の噂が流れたが、現在もしぶとく運行を続けている。アイドルとドラクエとローカル列車が好きな俺は密かにこの秋田内陸線に乗るのを楽しみにしていた。そう、アイドルも内陸線もいつまで現役でいられるかわからない。乗るなら今しかないのだ。とにかく天気が心配だが、先ずは角館から隣駅の「羽後太田駅」を目指して出発である。ちなみに今回は最終的に角館から4駅先の「羽後長戸呂駅」にある農家民宿「星雪館」を目指す計画である。

 

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平日で天気も悪いせいか客もまばらな秋田内陸縦貫鉄道。なぜか大量に貼られていた可愛いワンチャンの写真に癒されながら、羽後太田駅に到着。

 

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待合室に「秋田駒ケ岳眺望の駅」という文字が掲げられているが、案の定駒ケ岳は遠くに霞み、駅の周りにはただ雨に濡れた道路と田んぼが広がっている。ごめん。マジで何もない。早くも出鼻をくじかれた気分である。俺はひとまずビニール傘を差しながら隣の「西明寺駅」を目指して歩くことにした。

 

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帽子を横にかぶったシャレオツガールをチラ見しつつ40分ほど歩いて西明寺駅へ。

 

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世界に羽ばたく日本のコメジャー。もはや俺がイチローだったら訴えてしまいそうなJA秋田おばこ青年部の看板にも雨が滴っている。

 

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次の電車が到着するまで時間があったため、俺は西明寺駅近くの食堂に向かった。

 

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白い外壁にまるで落書きのように「ラーメン」と書かれたこの食堂の名前は「寿し文」である。だが寿司が出てくる気配は一ミリもない。

 

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「何にしましょう?」

人の良さそうなお父さんがひとりで切り盛りしているようだ。俺は店の前の看板にも書かれていた500円のランチをオーダーした。

 

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男は黙ってラーメンと白飯だ。店主であるお父さんのそんな意気込みが伝わってくるワンコインランチ。奥の厨房でお父さんが野菜を切る音をBGMにラーメンを啜る。ごめん、味はぶっちゃけ普通だが500円と考えればかなりの大盤振る舞いだ。ラーメンの湯気で曇った眼鏡を脱ぎすてて、目の前のダブル炭水化物に全集中。そう、男はラーメンをオカズに白飯を食えなくなったら終わりだ。(そんなことはない)

■初雪と共に行く秋田内陸縦貫鉄道の旅とは?

この日の仙北市の最高気温は3度。まだギリギリ秋気分だった俺はその寒さにすでに絶望していた。ここはひとつ熱い温泉にでも浸かりながら、この後の旅の作戦を練るのも悪くない。俺は西明寺駅から徒歩15分ほどのところにある「西木温泉クリオン」に向かった。

 

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館内は地元民で意外と賑わっている。温泉に浸かったひとが利用できる大広間を除くと風呂上がりのお父さんお母さんたちが思い思いにごろ寝をかましていた。

 

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電車旅の醍醐味は昼から酒を飲めることである。風呂からあがった俺は昼間にも関わらず夕方のような面持ちで柿ピーと枝豆をつまみにビールを煽る。熱い温泉に浸かった後に飲むビール。至福の瞬間である。だがそれも束の間、ふと窓から外の景色を見てみると先ほどまで降っていた雨は雪へと変わり、瞬く間に銀世界が広がっていた。なんてこった。俺は現実から目を背けるべくビールを一気飲みし、酔った勢いに身を任せて外へと飛び出した。

 

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湯冷めした体に冷たい初雪がのしかかる。無様に鼻水は垂れ、ついでにビールを飲んだせいかおしっこも近い。俺はまるで歯医者に向かうときのようなテンションで再び「西明寺駅」へと向かった。

 

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初雪と共に行く秋田内陸縦貫鉄道の旅。言葉はロマンティックだが、その実態はただ寒いだけである。

 

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八津駅に到着。次の羽後長戸呂駅方面の電車が到着するまで3時間近くもある。もちろん無人駅である八津駅の待合室には暖房は無い。駅から少し歩けば「かたくり館」という道の駅のような施設があるようだ。ひとまずそこで時間を潰そう。容赦なく冷たい雪が頬を濡らす。俺は小走りで歩いた。おしっこが漏れそうだったのである。

 

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八津駅のかたくり館。道の駅のような施設と思い込んでいた俺だが、もはや係のお母さんがひとり常駐しているだけの、小さな建物である。到底3時間近くも時間を潰せる場所ではない。だが外は雪景色。殺風景な駅の待合室にいたら頭がおかしくなりそうだ。俺は地元の方が作った民芸品をぼんやりと眺めながら、かたくり館でひたすら電車が到着するのを待った。

 

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ようやく羽後長戸呂駅方面の電車が到着した。夕方ということもあり、この時間の内陸線の車内には学生が多くいた。どうやら高校生の貴重な交通手段としても秋田内陸縦貫鉄道は機能しているようである。

■温かい薪ストーブと家族に会える羽後長戸呂の民宿「星雪館」とは?

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羽後長戸呂駅で電車を降りると、そこはガチの暗闇だった。街灯もわずかしかない。暗闇の中、iPhoneの地図を頼りに民宿へと向かう。どこからともなく何かの動物の鳴き声が聞こえてくる。思った以上に山奥である。ついでに電車を待っている間、無駄にいじりまくったiPhoneの電池は残り少ない。ここで電池が無くなり迷子になったらマジで大人でも泣いてしまうレベルである。

 

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暗闇の中を歩くこと15分。おそらく今晩泊まる予定の民宿はこのあたりで間違いない。だが如何せん暗すぎてどこの家か確証がない。俺はちょうど軽トラックに乗りかけていたお父さんに声をかけた。

「す、すみません。このへんに民宿があるはずなんですけど」

「ああ、それおらえだ(それは俺の家だ)」

農家民宿星雪館。そこはのどかすぎる山あいの宿であった。

 

「おぎゃぐさん、来だぞ!」

お父さんが家の中にいた娘さんに声をかけてくれた。

「電話してくれたら駅まで迎えに行きましたのに」と娘さん。親切そうなご家族である。

 

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ひとまず薪ストーブの前に座り、晩ご飯を待つことに。まるで実家に帰ってきたときのような気分である。実家から実家への小旅行。駅からの道中、水たまりに突っ込んでびしょ濡れになった靴下を薪ストーブで乾かす。しばらくすると娘さんの「ご飯ですよ」という声が聞こえた。

 

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野菜は自宅の庭で採れたもので、魚はご近所さんにおすそ分けしてもらったものだという。晩ご飯を食べながら、少し娘さんとお話をした。山あいの田舎の宿にゆっくりとした時間が流れる。雪は今も降り続いているだろうか。

 

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翌朝、ガサゴソと音がしたため寝床から出るとお父さんが薪ストーブの火をつけてくれていた。お父さんは70代だろうか。もしかしたらもっと高齢かもしれない。北の国から田中邦衛さんに似ている。

「ああ、いぐきてけだなぁ(よく来てくれたなぁ)」とお父さん。

「暗くて、たどり着けるか心配でした」

「こごまでは地図見でだが?(ここまでは地図を見て?)」

「携帯の地図を見てですね」

「便利になったなぁ」そう言ってお父さんは小さく頷いた。

薪ストーブを囲みながら朝ご飯の時間までお父さんと話をした。部屋はじんわりと暖かい。びしょ濡れだった俺の靴下も乾いていた。

 

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娘さんが朝ご飯の準備をしてくれていた。

「薪ストーブはどうでした?」

「実はお風呂に入っている間にストーブの火が消えちゃいまして」

そう、昨日の晩はせっかくの薪ストーブの火が風呂の間に消えてしまい、寝る間際は近くにあった石油ストーブをつけたのである。風情が台無しである。

 

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帰りはお父さんに駅まで送っていただけることになった。お父さんは俺が車に乗るまで暖房をつけて車内を暖めてくれていた。お父さんと山菜や熊の話をしていたら、あっという間に羽後長戸呂駅。お父さんにお礼を言って俺は駅のホームに向かった。周りはすっかり雪景色。またこの季節が来ちゃったな。俺はジャンパーのポケットに手を入れて電車を待った。

 

内陸線は冬を引き連れてゆっくりと駅に近づいてきた。俺はジャンパーの中に民宿の娘さんに頂いたお焼きを入れていたのを思い出した。

 

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さて、初雪が舞う中今回から秋田内陸縦貫鉄道の旅が始まったKANEYANの秋田ぶらり旅。農家民宿の家族の優しさと気遣いに触れながら、次回はさらに内陸線を進んで上桧木内駅を目指してみようか。

 

続く。

 

#32 【町飲み】【JR田沢湖線】「みちのくの小京都・角館のDEEPなスポット&酒場巡り」とは?

■大仙市郊外の超絶渋い昭和の食堂で食べるチャーハンとは?

久しぶりに3日間禁酒をした。

 

コロナウイルスのワクチンを打ったら熱が出たからである。毎日規則正しく飲酒活動を続けている俺が3日間も禁酒するのは2000日ぶりぐらいである。気だるい体を引きずって酒の代わりに冷えたアクエリアスバファリンを流し込む。秋の夜長にワクチンの副作用。体温計をワキに挟みながら俺は月夜に誓った。この熱が下がったら、たらふく酒を飲んでやろうと。

 

そんなわけで今回は「みちのくの小京都・角館」のディープなスポット&酒場巡りである。実は俺の住んでいる家はちょうど大曲と角館の中間地点に位置しているのだが、外で酒を飲むときはもっぱら大曲方面に繰り出すことが多いため、角館の酒場はあまり馴染みがない。泥酔覚悟の角館の酒場歩き。果たしてどんな夜になるだろうか。

と、その前に先ずは前回の旅で最後に訪れた「羽後長野駅」の隣駅である「鶯野駅」から今回の旅はスタートである。

 

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鶯野駅。もはや地元民以外を寄せつけない完全地域密着型の駅である。

 

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忍者ハットリくんに似ているようで、実は全然似ていない盗っ人が描かれたチャリンコ盗難の注意喚起の看板をチラ見しつつひとまず国道へ。

 

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角館のはしご酒を敢行する前に、先ずは昼飯である。実は大仙市豊川エリアに超絶渋い食堂があるということで行ってみることに。鶯野駅からは約2.5キロほどの道のりである。

 

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稲刈りが終わったばかりの田んぼに挟まれた農道をひたすら歩くこと40分。唐突にその食堂は現れた。

 

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その渋すぎる外観に一瞬躊躇してしまったが、入口の前には小さく「営業中」という文字が見える。俺は固唾を飲んで店内に入った。

 

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錆びれたパイプ椅子に壊れた卓上ゲーム機。年季の入った木のテーブルにはなぜか車の雑誌が大量に積まれており、ふと顔を上げると坂本冬美さんと先日引退を発表した横綱白鵬関がセイハロー。もはやどこをツッコんでよいのかわからないが、ひとまずこの店をひとりで切り盛りしているお母さんにチャーハンを注文した。この店の看板メニューのようである。

 

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訪れたのは土曜日の昼間だったが客は俺ひとり。厨房の前にはおかもちが置かれているため普段は出前が中心なのだろうか。お母さんに見守られながら、チャーハンを頬張る。シイタケがアクセントになっているが、これがなかなか美味い。1970年代から続く大仙市郊外の老舗食堂。現在は創業者の両親から娘さん(と言っても60代ぐらいだが)が引き継ぎ、店を切り盛りしているようである。昭和から令和へ、時をかけるチャーハン。大仙市豊川の「高幸食堂」はノスタルジーを身に纏いながら今なお現役である。

 

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ちなみにこの食堂の向かいは地元の小学校である。正門前に建てられたハレンチなようでけしてハレンチではない銅像が、今日も昭和の食堂を凛とした姿勢で見つめている。

 

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■角館の隠れたディープスポット・雲沢観光ドライブインとは?

秋のそよ風に吹かれながら、再び鶯野駅まで舞い戻った俺はその足で田沢湖線に乗った。目指すは今日の目的地である「角館駅」である。

 

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酒場がオープンする夕方まで少し時間があるため、俺はとある場所へ向かうことにした。そう、角館が誇る名スポット・雲沢観光ドライブインである。とはいえ駅から離れているため、歩くと往復1時間半もかかる。時間はあるが体力はないのが俺である。ここは潔く諦めるか。そう思いかけたとき、とある看板が目に入った。

 

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なるほど、その手があったか。リメンバー院内銀山。またしてもチャリに跨ることになった37歳の秋。俺はさっそく自転車を借りるため店に向かった。

 

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大量のママチャリの中からお父さんがチョイスしてくれた自転車を借りる。ちなみに1時間300円である。

 

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大丈夫。心配するな。何とかなる。かの有名な一休禅師の格言をチラ見しつつ、雲沢観光ドライブインまでチャリを飛ばす。

 

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ママチャリを漕ぎ続けること15分、俺は例のドライブインへとたどり着いた。

 

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雲沢観光ドライブイン。いわゆる国道沿いにある古き良き食堂だが特筆すべきはその隣に併設されている建物である。

 

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なかなか見かけないラーメンとうどんの自販機と大量に並ぶアーケードゲーム機。昭和チープ感あふれる自販機うどんに舌鼓を打つか、カップヌードル片手にちょっぴりスケベな麻雀ゲームに勤しむか。その楽しみ方は無限大である。

 

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角館駅郊外の24時間利用可能な秘密基地。土曜日ということもあり人が絶えずやってくる。地元市民と長距離トラック野郎の思いを乗せて、雲沢観光ドライブインは今日も元気に営業中だ。いつの日か武家屋敷と並び角館屈指の観光スポットとして注目される日が来るかもしれない。(来ない)

■みちのくの小京都・角館でディープな酒場巡りとは?

夕暮れ時、無事にチャリンコを返した俺は酒場を求めて角館駅周辺を歩いていた。一応秋田の中でも観光地に分類される角館だが酒場の情報は意外と少ない。スカスカの食べログ情報を頼りに俺は街を彷徨った。

 

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先ず1件目に選んだのは「ふくや」である。店に入るとお母さんは少し困り顔だ。

 

「今日は団体の予約が入ってまして……」

こればかりは仕方がない。諦めて帰ろうとしたそのとき「あっ、でも」とお母さん。

「少し時間がかかりますが、それでも良ければ……」

金と体力と人徳はまるでないが、人より時間だけはあるのが俺である。カウンターの端っこに座り角館酒場巡り旅のスタートである。

 

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ピリ辛のホルモンと焼き鳥をビールで流し込むサタデーナイト。目の前のテレビのチャンネルを変えようとしたらなぜか画面が砂嵐になろうとも、ホルモンが歯奥に挟まろうとも溢れる俺のハピネス。酒で買える人生の至福がここにある。

 

忙しい合間を縫って、そんな俺にお母さんが話しかけてくれる。焼き鳥も旨いし良い店だ。本来はもう少し留まりたいところだか、他の店も気になる。俺はビールを飲み干すと次の店へと向かった。

 

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1件目の店から歩くこと数分。俺は「安吾酒房」という店にたどり着いた。だが灯りは点いているが人の声は聞こえてこない。普段であれば入店に躊躇するところだが、幸い俺は酔っている。半信半疑のまま俺は酔いに任せて店内へと入った。

 

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誰もいない。無人の店内にラジオの音だけが流れている。一瞬帰ろうかと思ったが、酔っている俺は店の奥に向かって「すいません」と呼びかけた。

 

「はいはい」

 

そう言って店の奥から現れたのは60歳ぐらいのお父さんである。

 

「少しお酒を飲みたいのですが」

「はいはい。お通しは麻婆豆腐か温豆腐かスパゲティの中から選べるけど」

「えっと、じゃあ温豆腐で」

 

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ひとまず俺はL字型のカウンターの前に座った。目の前にはおにぎりが見える。お父さんの夜食だろうか。

 

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何はともあれ赤星の瓶ビールと豆腐で2回戦のスタートである。

 

「この辺のひと?」

「大仙です」

「大仙ね」

 

そう言ってお父さんも目の前で瓶ビールを飲み始めた。ラジオからは阪神とヤクルトの首位攻防戦の実況が聞こえる。だが電波が悪いのか、その音声も途切れ途切れだ。

 

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ビールからレモンサワーにチェンジした俺は気づくとお父さんとマンツーマンで飲んでいた。野球の話と角館の祭りの話、そしてそこから女性の話へ。

 

「お兄ちゃんは絶対独身だと思ったよ! ハハハハ」

どうやら俺は全身から奥さんや彼女がいませんオーラがあふれているようである。

 

「でも大丈夫だ。俺も初婚は40過ぎだがら」

「マジすか」

 

レモンサワーを何回もおかわりし、なぜかお父さんに励まされた角館の夜。

 

「よっしゃ! お兄ちゃんの飲みっぷりが気にいった! もう一杯いくか! 奢ってやる!」

「マジすか!」

「薄めがいいが? 濃いめがいいが?」

「濃いめで!」

 

走り出したら止まらない。それがロックンロールと酔ったときの俺である。お通しの豆腐だけでエンドレスレモンサワー。すっかり酔った俺はフラフラの体を引きずって再び夜の街に飛び出した。

ゴルゴ13を読みながら啜る角館の〆のラーメンとは?

37歳のオッサンネクストジェネレーション。酒は好きだがけして強くない俺はすっかりドロップアウト寸前である。最後の濃いめのレモンサワーが効いたぜ。夜風に向かって不敵な独り言をほざきながら、俺はパブレストラン「田中屋」に向かった。

 

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普段は洋食メインの田中屋だが、夜は〆のラーメン屋に変貌するようである。

 

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店内にはゴルゴ13サラリーマン金太郎がコンプリート。その本棚からは店主の男気が感じられる。

 

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〆のラーメンを待つ間、バドワイザーを注文。そこに酒があればついつい手を出してしまう。酒飲みの悪い癖である。

 

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ゴルゴ13片手にラーメンを啜る。漫画界の巨匠・さいとうたかを先生もきっと舌を巻くはずの旨さである。酒を飲んだ後のラーメンはどうしてこんなに美味いのだろうか。そんなことを思いながら昭和ビートなラーメンを啜り、バドワイザーを飲み干す。

 

サンキュー角館。膨らんだお腹をさすりながら歩く夜の小京都。ちらほらとスナックの灯りが見える。ではもう1軒。いや、やっぱりやめておこう。

 

人知れず葛藤をしながら、気づけばすっかり晩秋である。

 

さて、今回は角館のディープなスポットと酒場を巡ったKANEYANの秋田ぶらり旅。案の定翌日は二日酔いに襲われたことはひとまず置いておいて、次回は角館から秋田内陸縦貫鉄道の旅に出てみようか。

 

続く。

#31【地元旅】【JR田沢湖線】「大曲駅から羽後長野駅を目指す初秋のほろ酔い青春巡りの旅」とは?

■昼間から酒が飲める大曲駅の渋い食堂とは?

2000年代初頭のJR田沢湖線鑓見内駅では電車を待つ間ヤンキーの高校生たちがみんなタバコを吸っていた。

 

そして、その2,3歩後ろでジャガイモのような顔をしていたのが同じく当時高校生だった俺である。駅のホームから見える広大な田んぼと灰色の空に昇っていくタバコの煙を眺めながら、田沢湖線が到着するのを待っていた。

 

さて、今回の「秋田ぶらり旅」はJR田沢湖線に沿って「大曲駅」から4駅先の「羽後長野駅」を目指す旅である。だがいまいち気が進まないのはガチモロ俺の地元だからである。すでにこのエリアには何もないことを知っているのだ。しかもこの日は夕方から雨模様。高校生だった20年前と同じように浮かない顔をしつつ、俺はひとまず大曲駅へと向かった。

 

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大曲駅に着くなり、俺はとある食堂に向かった。せっかくの休日。昼から酒でも飲んでやろうと考えたのである。

 

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こんなに早い時間から酒が飲める。そう考えると足取りは軽い。道中、突如現れた可愛げのない小便小僧にもハイタッチをかましつつ、俺は駅から20分ほど歩いて「味楽食堂」へと向かった。

 

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その外観からは地元の人以外を寄せつけないオーラが溢れている。実は俺も初めての訪問である。

 

「いらっしゃい」

 

緊張気味にその扉を開くと60歳ぐらいのお父さんが低い声で迎えてくれた。まだ正午前のため先客はひとりだけ。俺は座敷にドカッと座り、瓶ビールを注文した。つまらないオジサンの小さなパーティの始まりである。

 

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瓶ビールは大瓶。そしてお父さんがビールと一緒に持ってきてくれたメンマとチャーシューがなんだか嬉しい。

 

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餃子をつまみにビール。ちなみに俺はこの日から連休である。次の仕事が始まるまでまだ45時間以上もある。世界よ、おはよう。もはや俺は無敵だ。餃子のタレを作るべく手に取ったラー油の瓶が油まみれで手がギトギトになっても、全くイライラしない。今の俺は日本海ぐらい心が広いのである。

 

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ちなみに店内の本棚にはジャンプやマガジンだけではなく、サンデーやチャンピョンまでコンプリート。カウンターでは高齢のお父さんがラーメンを食いつつ、大谷翔平が一面のスポーツ新聞を眺めている。

 

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瓶ビールを飲み干すと今度は腹を満たすべく、メニューを眺める。ほろ酔い気分の俺がチョイスしたのはオムライスである。

 

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先ほどまで姿が見えなかったお母さんが突然現れ、オムライスを運んできてくれた。もちろん今流行りのトロトロ卵スタイルではなく、昭和気質のオムライスである。そしてなぜかWith紅ショウガ&福神漬け。隣にはスープと思いきや味噌汁。ツッコミどころが満載だが、味は間違いない。花火の街・大曲の片隅で昼から酒を飲み、オムライスにがっつくアラフォーの独身男性(俺)。ネットニュースにも載らない秋田の闇がここにもある。

■昼間から酔っぱらい財布を忘れてUターンとは?

大瓶のビールに餃子、そしてケチャップたっぷりのオムライス。40代が見えているオジサンのランチとしては明らかにハイカロリーである。俺は膨らんだ腹をさすりながら、カロリー消費のため、隣の「北大曲駅」まで歩くことにした。

 

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国道沿いのアダルトショップをチラ見しつつ、北大曲駅を目指す。だがここであることに気がついた。財布が無いのである。ほろ酔い気分の頭に寒気が走る。マジか。マジだよ。そういえば食堂を出た後、大曲駅構内のトイレに入った。あるとすればそこだ。俺は祈るような気持ちで大曲駅へとUターン。幸い、財布は予想通り駅トイレの紙巻き器の上でポツンと何気ない顔をしてそこにいた。ホッと一息。すっかり酔いが醒めた俺は冷や汗を垂らしつつ、また性懲りもなく「北大曲駅」へと向かうのであった。

 

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北大曲駅到着。見事に駅と民家が密接している。小池都知事もビックリのノーディスタンスの民家からはテレビの音が聞こえてくる。

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大曲駅のトイレに財布を忘れたことにより、必要以上に体力を使った俺である。ここからは電車に乗って次の駅を目指したいところだが、田沢湖線秋田県内でも特に本数が少ない路線である。3時間に1本ほどのスカスカの時刻表を背にして、俺は隣駅の「羽後四ツ屋駅」を目指して再び歩くことにした。

 

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壮大な田んぼと煎餅屋さんを眺めながら「羽後四ツ屋駅」へと到着。

 

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成人男性の平均値に比べて体力が劣る俺はもちろんこの時点で疲労困憊である。だが、田沢湖線の電車は学生が利用する夕方までやってくる気配はない。この殺風景な駅で揺れる稲穂を眺めながら1時間以上も電車を待つのは忍びない。俺は疲れた体に鞭打ってもうすこしだけ歩くことにした。目指すは高校3年間通い続けた「鑓見内駅」である。

■およそ20年ぶりに訪れた地元の駅・鑓見内駅から見た光景とは?

JR田沢湖線鑓見内駅。利用者の9割が学生の小さな無人駅である。

俺は高校時代の3年間ここから大曲駅に通っていた。学校が早く終わったときは田沢湖線を待つ間、当時大曲駅前にあった「ジョイフルシティ・ヤマサ」のゲーセンコーナーでスケベな麻雀ゲームをしながら時間を潰していた。もちろんクラスの女子に見つかって気まずい思いもしたし、隣のクラスのヤンキーに500円カツアゲされたこともある。そんな俺の汗と涙と麻雀に勝つと拝めるお姉さんのパイオツが沁み込んだ青春時代を思い出しながら、鑓見内駅へと向かった。

 

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途中、キャプテン翼に出てきそうで出てこないサッカー少年が描かれた看板に遭遇。もしポイ捨てをしようものなら、彼にボレーシュートを食らわせられるだろう。環境を重んじる旧中仙町の意気込みがヒリヒリと伝わってくる。

 

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鑓見内駅に到着。実家のすぐ近くとはいえ訪れるのは高校時代以来である。無駄に広い自転車置き場はあの頃のままである。

 

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この令和の時代に堂々とそびえ立つ公衆電話。ちなみに俺は高校時代、アイドル雑誌「アップトゥーボーイ」の企画でもらえた20名だか200名だか2000名だか限定の酒井若菜のテレホンカードをお守りのようにしてずっと財布に入れていた。愛と青春と巨乳のセブンティーンズ・マップ。あの頃のことを思い出していると小雨が降ってきたので、俺は鑓見内駅の待合室で田沢湖線が到着するのを待つことにした。

 

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田沢湖線到着。夕方ということもあり、車内は学生で賑わっている。俺が高校生の頃は、ヤンチャな男子たちが車内の地べたに座り込んでいたものだが、今の学生たちは行儀がいい。

 

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たくさんの高校生とひとりのオジサン(俺)を乗せた夕暮れの田沢湖線は間もなく羽後長野駅へとたどり着いた。さて、今宵はこのあたりで一杯といこう。

■美味い肴と日本酒で一杯、そして熊カレーで〆る地元酒場の夜とは?

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羽後長野駅。県南の主要駅である大曲駅角館駅に挟まれた大仙市(旧中仙町)にある駅である。この駅から少し歩くと俺が通った中学校がある。

 

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羽後長野駅の目と鼻の先にある居酒屋「ちゃんす長野屋」で今日はひとり酒といこう。

 

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もちろん先ずは瓶ビールでひとり乾杯である。

 

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実は地元ということもあり、この店には何度も足を運んだことがあるのだが、コロナ禍のため金曜の夜だというのに客は俺以外に一組だけ。少しだけ寂しい地元のフライデーナイト。だがしっぽりと飲むには悪くはない。今日の歩き旅で消費したカロリーを補うようにビールをグイグイやりながらメニューと睨めっこ。カツオに馬刺しにうなぎ。俺の好物が並ぶ。端に書かれている熊料理も気になるところである。

 

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先ずは馬刺しをチョイス。盛り付けがすばらしい。光の速さでビールを飲み干した俺は酒をレモンサワーにチェンジして迎えうつ。

 

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サザエの壺焼き。こうなると日本酒が欲しくなる。俺はサザエに大仙市(旧中仙町)の地元酒「秀よし」の生貯蔵酒をあわせることにした。

 

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久しぶりの地元酒ですっかりほろ酔い気分。先客が帰宅したため、いよいよ店内には俺ひとりである。金曜日の夜なのに友達や女房や子供を連れてくるでもなく、ひとり孤独に飲んでいる俺を手持ち無沙汰のお店のご夫婦が見守っている。

 

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つまみをもう一品。にんにくのホイル焼きである。ホクホクのにんにくを「秀よし」で流し込む。もちろん死ぬほど美味いが、これは明日何の予定も控えていない俺だからこそ出来る芸当である。そして酒を飲むと冒険をしたくなる少年の心を持つ俺(37)は、〆にこいつを注文した。

 

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熊カレーである。熊肉は牛肉や豚肉に比べて脂肪分が少ないが、きちんと下処理がされているのか食べやすい。やはり熊はよく鍛えられてるな。もはやよくわからないことを考えながら、熊カレーで〆る地元の夜である。

 

さんざん歩いた挙句酒を飲みもう1ミリも歩けない俺は自宅までタクシーで帰ることにした。車中でふと思い出したのはハタチぐらいのときのことである。友人と今日と同じく「ちゃんす長野屋」に行った俺は見事に泥酔し、迎えに来てくれた父の車の中でゲロを吐いた。

 

あのときは父ちゃん、ごめん。

 

すでに他界している天国の父に向かって平謝りを繰り返す、青春巡りの旅の帰り道である。

 

さて、今回は地元で酒を飲み財布を忘れ地元の駅で青春のノスタルジーに浸ったKANEYANの秋田ぶらり旅。いつの間にか今年も夏が終わってしまったが、次回は田沢湖線をさらに進んで、みちのくの小京都・秋の「角館」を目指してみようか。

 

続く。

 

#30【夏旅】【JR奥羽本線】「秋田最南端の駅・院内の心霊スポットを目指す灼熱の奥羽本線&レンタサイクルの旅」とは?

■秋田最南端の駅・院内の心霊スポットを目指す旅

「男鹿プリに行こうぜ!」

 

19歳の夏、俺は初心者マークを付けた車で友人と秋田では超有名な心霊スポット・男鹿プリンスホテルへと向かった。だが、幽霊よりも噂の廃墟ホテルにたむろしているヤンキーが怖くなり途中で引き返した。世界で3番目ぐらいにしょうもない夏の思い出である。

 

あれから18年。当時茶髪だった俺の髪の毛はすっかり侘しくなった。だがそれと同時に、社会という名の荒波に揉まれてきた俺はあの頃より確実にメンタルが強くなっているはずである。きっと今なら心霊スポットでも動じることなく宜保愛子並みの霊能力で霊を成仏させ、田舎のヤンキーにも金八先生並みの説教をかませるはずだ。

 

そんなわけで今回は、前回訪れた湯沢駅の隣駅である「上湯沢駅」から秋田最南端にある「院内駅」、そして男鹿プリとツートップを張る秋田の心霊スポット「院内銀山跡」を目指す旅である。俺はいつものようにJR奥羽本線に乗って先ずは「上湯沢駅」へと向かった。

 

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この日の予想最高気温は37℃。午前中にも関わらずすでに30℃を超えている超真夏日である。もはや心霊よりも暑さのほうが恐ろしいが、俺は駅近くの自販機で買ったポカリを飲みながら、ひとまず3キロ先の三関駅へと向かった。

 

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地元のお母さんたちの憩いの場と思われる野菜の直売所をチラ見しながら、国道へ。

 

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蝉の鳴き声が飛び交う真夏の国道を行く。すでに生温くなったポカリ片手に隣駅の「三関駅」を目指して歩いていると、不意に巨大なダンジョンが現れた。

 

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ドライブ24。かつては二階建ての食堂やゲーセンが併設されたドライブインだったようだが、今では幽霊廃墟として国道沿いで異彩を放っている。令和の湯沢に潜む闇。割れたガラスの向こうには何が待っているのだろうか。

■三関のレトロなレストランと横堀の人情カフェとは?

上湯沢駅から歩くこと30分。普段運動など疲れることは一切していないアラフォーの俺の体力はどうやら30分が限界である。ちょうど昼時ということもあり、俺は国道沿いのレストランで昼飯を食べることにした。

 

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ドデカいコーヒーの看板には店名のスカイラーク、……じゃなくてスカイホーク。昭和の雰囲気が漂うレトロな外観の店に足を踏み入れると、なぜか入口では直立不動のナイトがセイハロー。これは油断大敵である。

 

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低い声の魔女のようなお母さんが持ってきてくれた冷たい水をがぶ飲みしながら、メニューを睨める。店内は想像通りの昭和テイスト。タバコの焼け跡が残るテーブルクロスに時代の巡りを感じる。

 

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俺は「読者イチオシ!」と書かれたハンバーグランチを注文した。もちろん何の読者が推しているのかは全くの謎だが、スープにコーヒーも付いて600円は安い。これはガストもウカウカできない価格設定である。

 

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先ずは食前の牛乳感強めのスープを飲み干すと、絶妙なタイミングで魔女、……じゃなくてお母さんがメインディッシュのハンバーグを持ってきてくれた。肉質強めのハンバーグとスパイシーなソーセージを交互に食べつつ、控えめに盛られたライスをフォークで掬えば気分はすっかり昭和ナイトである。

 

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腹が膨れたところで、再び国道に出て三関駅へ。

 

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正午を回ると暑さは更に厳しさを増してきた。これから院内の例の心霊スポットを目指すにあたり、無駄な体力の消費は避けたい。俺は電車が来るまで駅の待合室で地蔵のようにジッと座っていた。そんな俺を一羽の鳥が待合室の天井からいぶかしげな顔をして睨んでいた。

 

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横堀駅に到着。小野小町のシュールな顔出しパネルをチラ見しつつ、俺は駅から10分ほど歩いたところにあるカフェへと向かった。

 

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これから院内では厳しい戦いが待っている可能性がある。その前に束の間のコーヒータイムである。車椅子に座ったお父さんが、目の前で豆を挽いてくれた。

 

「今日はどちらから?」

「大仙です。これから院内銀山に向かおうかと」

「院内銀山ねぇ」

そう言って、少し考えこむお父さん。

「あそこは虫が凄いよ」

「虫ですか?」

院内銀山は心霊スポットとして有名だが、虫については初耳である。

 

「この店は元々レストランでね、40年続けてたの」

「40年ですか」

「だけどできなくなってね、今はこのとおりコーヒーだけの店」

 

そう言ってお父さんは丁寧な手つきでコーヒーを出してくれた。

 

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横堀の人情カフェで過ごす夏の午後。もっぱら酒専門でコーヒーには疎い俺だが、お父さんが淹れてくれたコーヒーは抜群に美味かった。

■院内の心霊スポットを目指す灼熱のレンタサイクルの旅とは?

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本日の目的地である院内駅に到着。かつては院内銀山で街が栄えていたようだが、閉山した現在は駅周辺からも不気味な寂しさが漂っている。ちなみに院内駅には院内銀山の数々の資料が展示されている「院内銀山異人館」が併設されている。

 

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ここ院内駅から「院内銀山」までは約5キロほどの道のりである。この暑さの中、歩くには難儀な距離だ。そこで俺が着目したのが自転車である。院内銀山異人館では自転車を無償で貸し出してくれるサービスがある。俺は館内の資料をひととおり見て回ると、受付のお姉さんにレンタサイクルを申し出た。

 

「自転車で院内銀山に行きたいと思うのですが」

「……銀山まで」

少々困り顔のお姉さん。

「5キロぐらいなので自転車であれば楽に行ける距離かと」

俺はなぜか自信たっぷりである。

「ただの5キロじゃないですよ。山奥だから坂道だし、あとは熊とか」

「クマ?」

また熊である。

 

困惑気味のお姉さんからカギを受け取り、俺は自転車置き場へと向かった。

 

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思いっきりママチャリである。手前のカゴには蜘蛛の巣が張っている。だがこの炎天下の中、山道を歩くよりはマシである。俺は湯瀬温泉を目指した昨年9月以来、約1年ぶりのママチャリに跨った。目指すは例の心霊スポットである。

 

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駅前のコロリ地蔵尊にこのチャリンコ旅の無事を祈り、院内の街中を抜ける。

 

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先に進むに連れて、周りに建物は無くなり景色は殺風景になってきた。そして押し寄せる急な上り坂。俺は必死で立ち漕ぎをしながら坂を上った。大量の汗と鼻水を垂らしながら、心霊スポットを目指す37歳の夏。活字にしてみると改めてそのクレイジーさがわかる。俺は何をやっているのだろう。自問自答しながら漕ぐ自転車。今年は忘れられない夏になりそうだ。

 

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駅を出てから何分経っただろうか。頼みのiPhoneは完全に圏外。幸い僅かながら車は通るため、最悪の場合はその辺にチャリを捨てて、ヒッチハイクをして駅に戻ろう。そんなことを考えながら俺はひたすらチャリを漕いだ。

 

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もはやいつ熊が登場しても不思議ではない山道をママチャリで駆ける。白いTシャツは汗だくで、なぜかひどく汚れている。灼熱のレンタサイクルの旅。いよいよ体力の限界が近づいてきたころ、ようやく小さな看板が見えた。院内銀山の入口に到着である。

 

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もはやこの時点ですでにボロボロの俺だが、過呼吸気味の息を何とか整えて院内銀山跡に足を踏み入れた。

 

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かつては英華を極めた院内銀山だが、今はただ物々しい雰囲気が溢れている。

 

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ひとまず先に進んでみようか。そう思った矢先、あり得ない数のデカい蠅のような虫が俺に向かって体当たりしてきた。もはやそれは卒倒するレベルである。大量の虫がまとわりついている腕からは血が滲んでいる。マジかよ。マジだよ。心霊・酷暑・熊、そしておびただしい数の謎の虫。俺はもはや気絶寸前である。

 

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虫とランデブーしながら先に向かうと唐突にお墓が見えた。もちろんこの時点でおしっこをちびっているのは言うまでもない。相変わらず俺の行く手を阻むように大量の虫が体のあちこちにへばりつき、遠くから獣の鳴き声が聞こえる、ような気がする。もうこれ以上先に進むと命が危ない。そう判断した俺は光の速さで院内銀山跡を抜け出し、再びチャリを漕いで心配しているお姉さんが待つ院内異人館へと戻った。

 

「どうでした? 入口までは行けました?」

「入口までは行けましたが、虫が凄くて」

異人館のお姉さんにチャリのカギを渡した俺の目は虚ろである。もしかしたら霊に憑りつかれていたかもしれない。

「熊じゃなくて、虫ねぇ。ちょっと時期が悪かったですね」

 

「そう、ですかね……」

 

苦笑いのお姉さんに苦笑いで答える37歳の夏の旅。疲れた体を引きずって、俺は駅前の自販機に向かった。

そしてキンキンに冷えたファンタのフタを開けようとした瞬間、指が攣った。

 

熱中症の初期症状か、はたまた院内銀山に潜む霊の仕業か。

俺は院内駅のベンチに座り真っ白になっていた。もしかしたらちょっと泣いていたかもしれない。

 

さて、今回は秋田最南端の駅・院内の心霊スポットを目指したKANEYANの秋田ぶらり旅。ここ院内駅にて、ひとまず秋田県内の奥羽本線は全駅制覇である。だがまだまだ旅は続く。次回は大曲駅から田沢湖線に乗って羽後長野駅を目指してみようか。

 

続く。

#29 【秘湯探訪】【JR奥羽本線】「稲庭うどん発祥の地と秘湯・泥湯温泉を巡る旅」とは?

秋田県湯沢市を巡る旅

彼らは俺より20歳も年下なのか。

 

エアコンの効いたリビングでマックを食べながら、高校野球秋田大会をぼんやりと眺める夏の始まりである。

 

マックのポテトってSサイズだと物足りないけど、Mサイズだと持て余すんだよなぁ。と、世界で3番目ぐらいにどうでもいいことを考えながら、今年の夏もあっという間に終わっちまいそうだ。

 

これではいけない。俺は重い腰を上げて秋田ぶらり旅の計画を練る。今回の目的地は秋田県湯沢市。そう、言わずと知れた秋田の食の広告塔・稲庭うどん発祥の地である。そういえば最近うどんと言えば「どん兵衛」しか食べていない。たまには贅沢に他県に誇れる秋田の名物も嗜むのもいいかもしれない。

 

そんなわけで俺はまた秋田のローカル電車に飛び乗った。今回の旅は前回最後に訪れた「十文字駅」の隣駅である「下湯沢駅」からスタートである。

 

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ちなみにこのBLOG(KANEYANの秋田ぶらり旅)では「全ての駅に一度は立ち寄る」というルールがある。だが無人駅では周りに飲食店や観光スポットがなく、田んぼと誰かが駅前に置いていった錆びれたチャリンコを眺めながら途方に暮れるということも少なくない。下湯沢駅もまさにそんな塩梅である。

それでもiPhoneで調べてみたところ、駅から少し歩いたところにカフェがあるようだ。駅前を見る限りカフェがあるようなロケーションではないが、ひとまず俺はそこに向かってみることにした。

 

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誰ひとりともすれ違わないまま駅から歩くこと10分。古民家風の建物の片隅に小さな看板を発見した。

 

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正面に回ってみると、立派な建物が目に留まった。ヤマモガーデンカフェである。

 

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その正体は江戸時代末期より続く「ヤマモ味噌醤油醸造元」に併設しているオシャレカフェである。

 

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古民家を改装したシャレオツな店内でレモネードソーダをストローで吸い込むサマーバケーション。読みもしないのに、店内に置かれている古本を手に取ってみるレモネードサマー。というかシャレオツすぎて、なんだかキョロキョロと落ち着かない様子のロンリーウルフ。実はレモネードソーダよりもレモンサワーのが好物である小さなオジサンの夏はすでに始まっている。

稲庭うどん発祥の地・湯沢市稲庭町の「佐藤養助総本店」とは?

スパイシーなレモネードソーダを飲み干した俺は、その足で再び奥羽本線に乗り「湯沢駅」へと向かった。

 

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少しだけ駅前を散策。実はここ湯沢市菅義偉内閣総理大臣の出身地でもある。

 

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裏の路地には夜の香りが漂う飲食街もある。

 

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駅から5分ほど歩くと、突如ドイツの国旗とヨーロッパ風の建物が目に付く。

 

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ここ湯沢市はドイツのジークブルグ市と提携を結んでいる関係で中央通りの商店街はヨーロッパ風の建物が並ぶ「ジークブルガー通り」と呼ばれている。

とはいえ、全体的にシャッターが閉まっている店が多いのが気になるところである。

 

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俺は再び駅前に戻り、稲庭うどんの発祥の地・湯沢市稲庭町に向かうため路線バスに乗った。

 

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湯沢市稲庭町の八代目佐藤養助総本店。泣く子も黙る稲庭うどんの名店である。

 

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暖簾をくぐりその立派な建物に足を踏み入れる。思ったよりも店内は広く店員さんにも品がある。さすが総本店である。

 

「わたしは冷たいおうどんを頂こうかしら。あなたは何にしますの?」

 

心なしか隣に座った貴婦人の言葉遣いもひと味違う。俺がいつも行っているラーメン屋や定食屋ではこんなスネ夫のママのような言葉遣いをするお母さんはいない。

 

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夢にまで見た本場の稲庭うどん。しょうゆと味噌、それぞれのつゆで、冷たい稲庭うどんを啜る。うむ。全盛期の稀勢の里ぐらいコシが強い。だがそれでいて滑らかだ。全盛期の舞の海の下手投げぐらい滑らかだ。いつもどん兵衛ばかり食べている俺にとっては、とにかく上品な味である。まあ値段も上品だけど。……あっ、すいません。

 

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帰り際、お土産に「稲庭ふしっこ」を頂いた。いやはや、サービスも上品である。

■湯沢の秘湯「泥湯温泉」とは?

腹もいっぱいになったところで、後はゆっくりと温泉にでも浸かってお家に帰れば完璧である。実はここ湯沢市は温泉の宝庫でもある。俺は予約していた乗合タクシーで、その中でも「秘湯」と謳われている「泥湯温泉」に向かった。

 

湯沢駅を出発して30分ほど経つとタクシーは物々しい山道へと突入した。ハンドル操作を誤れば一発で即死の山道をタクシーはズンズンと進んでいく。山道特有の急カーブの連続に若干酔い気味になりながら、泥湯温泉へとたどり着いた。

 

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「兄ちゃん、入浴券はこっちで買って」

 

タクシーから 降りると、いきなり男のひとの声が聞こえた。まるで「日本昔ばなし」に出てきそうな風貌のお父さんがいる掘っ立て小屋まで向かう。よく見ると「入浴券販売所」という小さなのぼりが立っている。

 

「日帰り入浴は2時半までね。そんであそこが露天風呂」

 

そう言ってお父さんが指さす方向に目をやる。その露天風呂、ある程度ハートが強くないと踏み込めないルックスである。

 

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当たり前だが客は誰もいない。町の温泉にあるような貴重品を預けるロッカーもない。俺はひとり素っ裸になり露天風呂へと向かった。

 

その光景はまさに秘湯と形容しても差し支えないものであった。そこに広がるザ・自然は申し訳程度に作られた他の露天風呂とは趣が違っていた。鼻を刺す硫黄の臭い。周りを飛び交う見たことのないカラフルな虫。そして誰かに財布を盗られたらどうしようという恐怖。全くもって落ち着かない。こうして俺はせっかくの秘湯を秒速であがってしまうのだった。

 

帰りの乗り合いタクシーが迎えに来るまで時間を持て余してしまった俺は泥湯温泉郷を散策してみることにした。先ほどの温泉から少し歩けば「川原毛地獄」というスポットにたどり着くようである。

■日本三大霊地のひとつ「川原毛地獄」とは?

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川原毛地獄までは約1キロ。ちょっくら散歩するには良い距離である。

 

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だが待っていたのは急勾配な上り坂である。思ってたのと違う。俺はさっそく汗だくになりながらその霊地とやらを目指した。

 

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まるでサーキット場のような曲がりくねった山道を行く。思ってたのと違う。息を切らしながら歩くこと30分。ようやく川原毛地獄の入口にたどり着いた。

 

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毒ガスただよう白色の世界。青森の恐山、富山の立山と並ぶ日本三大霊地に俺は足を踏み入れた。

 

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歩く。そして歩く。果たして俺はどこに向かっているのだろうか。アップダウンの激しいデコボコの道で汗をダラダラかきながら、ふと思った。これは「ちょっくら散歩」の範疇を遥かに超えている。俺は大いなる後悔を胸にとめどなく歩いた。やがて白銀の世界を抜けて広場へとたどり着いた。

 

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突如現れたちょっぴりシャープな「川原毛地蔵菩薩」に一礼しつつ、俺は更に「川原毛大湯滝」まで歩くことにした。すでに疲労困憊だが俺にも意地がある。オリンピックに先駆けて負けられない漢の戦いがここにもある。ちなみに広場ではお父さんが上半身裸で体操していた。お父さんもきっと何かと戦っているのだろう。

 

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広場からさらに歩くこと10分。ようやく滝に到着した。

 

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そのエメラルドグリーンに輝く見事な滝を見ながら思ったのは帰りの心配である。一刻も早く戻らないと乗合タクシーが迎えに来る時間まで間に合わない。俺は滝鑑賞もほどほどに早足で引き返した。風情も何もあったものではない。

 

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ヒロキって誰やねん。もはやそんな突っ込みをする余裕もない俺はヘロヘロになりながら来た道を引き返した。考えてみたら稲庭うどんを食べてから一滴も水分を摂っていない。こんな死ぬ思いをして自分を追い込んでいるのは最後の夏にかける高校球児か俺ぐらいである。

 

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そして大粒の汗が涙に変わるころ、ようやく先ほどの温泉郷が見えてきた。

 

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乗合タクシーで命からがら湯沢駅に戻ってきた俺はもちろん腹ペコである。

 

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だが湯沢駅近くで見つけた定食屋は店内の灯りはついているものの「本日は終了致しました」の文字。疲れすぎた体を引きずって帰ろうとすると、たまたま外に出てきた店主と目が合う。

 

「あっ、あのすいません。もう終わりの、あれですよね?」

俺は大人なのに会話が苦手である。

「いいですよ。今日は暑くて早く閉めようと思ったんですけど。大丈夫なので中に入ってください」

 

正直もう1ミリも歩きたくなかった俺は半泣きで店内へ駆け込んだ。

 

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数あるメニューの中から俺がチョイスしたのは「スタミナ丼」である。

 

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先ほど死ぬほど歩いて消費したカロリーを一気にリカバリーする勢いで俺は肉と米をかき込んだ。光る汗と増える体脂肪。それでも俺は閉店間際の食堂でニンニクたっぷりのスタミナ丼をかき込んだ。そう、そんな37歳の夜もあるのだ。

 

店を出るとまだ蒸し暑かった。ニンニク臭い俺の吐息の向こう側に、夏がはっきりと見えた。

 

さて、今回は稲庭うどんの発祥の地と湯沢の秘湯を巡り歩いたKANEYANの秋田ぶらり旅。無事に川原毛地獄から生還できたところで、次回はさらに奥羽本線を先に進んで、秋田最南端の駅「院内駅」を目指してみようか。

 

続く。

 

 

#28【ローカルグルメ紀行】【JR奥羽本線】「ローカル線で巡る横手の二大B級グルメツアー」とは?

B級グルメ界の王者「横手やきそば」とは?

ユキとクマの街・横手。

 

秋田県東南部に位置する横手市は、秋田市に次いで県内第2位の人口を有する県南の中心都市である。そんな県内ナンバー2の街である横手市だが冬は生活に支障をきたすほどの大雪に見舞われ、夏は迷える熊たちが「横手公園」に全員集合。正直、横手が誇る伝統行事の「横手の雪まつり」も秋田市の「竿灯祭り」や大仙市の「大曲の花火」に完全に水をあけられている印象である。

 

チクショー。俺たちの街、いいとこねえじゃん。そりゃあ若者たちは地元を離れ、飼っていたイグアナにも逃げられるわ。……って、ちょ待てよ。俺たちの街には「焼きそば」があるじゃねえか。

 

そう、横手市が生んだ「横手やきそば」は全国のB級グルメを競う大会「B-1グランプリ」で優勝1回、準優勝1回の実績を誇っている。もはや横手市といえば焼きそばである。さらに言うと横手市十文字エリアが生んだB級グルメ界の雄である「十文字ラーメン」の存在も忘れてはならない。

 

というわけで今回お送りするのは、「ローカル線で巡る横手の二大B級グルメツアー」である。

 

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先ずは「横手やきそば」を目指して、横手駅構内に貼られたマスク戦隊ヨコテンジャーのポスターをチラ見しつつ奥羽本線で隣駅の「柳田駅」に向かった。

 

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正直、焼きそばよりもヨコテンジャー(もちろんピンク、あと若干イエロー)のほうが気になるが、ひとまず柳田駅に到着である。

 

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駅舎を出ると、ポツンと佇んでいる一台の軽トラが出迎えてくれた。駅前にビジネスホテルが並ぶ「横手駅」に比べると駅から田んぼが一望できる「柳田駅」はローカル色がかなり強めである。

 

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さっそく横手やきそばを堪能するべく、俺はその足で柳田駅から徒歩5分ほどの場所にある「藤春食堂」へと向かった。

 

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外観は田舎によくある老舗の食堂という印象だが、よく見ると入口の壁に「四天王」という文字がこれでもかと並んでいる。なんでもここ「藤春食堂」は2019年に横手市で行われた「横手やきそば四天王決定戦」を見事勝ち抜き、横手やきそば四天王の栄光を勝ち取った店なのである。

 

つべこべ言わずどこがモノホンの横手やきそばかハッキリさせようや。愛とプライドの横手やきそば。これは生半可な気持ちで食べるわけにはいかない。ガチとガチ。俺は固唾を飲んで店へと入った。

 

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メニュー表に書かれているのは焼きそばのみ。それだけでも四天王のプライドが伝わってくる。だが初見の俺にとってメニューはやけに難解だ。「特製焼きそば」は普通の焼きそばと何が違うのだろうか。「肉玉ダブル焼きそば」はなんかやたら凄そうだ。疑問と興味は尽きない。ここはひとつ店のひとに聞くべきだが、ガンコ店主に「は? お客さん、そんなのも知らんで来たの?」なんて言われたら、ひとたまりもない。

 

用心深い俺はしばらくメニューと睨めっこしていると、隣に座ったサラリーマン風の男性3人組も初見だったらしくメニューについてお母さんに質問した。やばい、怒られるぞ。……と思ったがお母さんは親切に教えていたので、俺もついでに盗み聞きである。どうやら「ダブル」と書かれているものは麺が2倍。特製焼きそばはスライスされた豚肉がトッピングされるようだ。俺はひとまずオーソドックスな「肉玉焼きそば」を注文した。

 

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真ん中に君臨する目玉焼き。ウスターソースを身に纏い水分ちょっと多めの太麺。そしてなぜかちゃっかり隅を陣取っている福神漬け。横手市のすぐ北に位置している大仙市出身の俺にとっては、どこか懐かしい味である。

 

横手市の中心部から離れているにも関わらず、藤春食堂に焼きそばを食べにくるお客さんは絶えない。ワンコインで食べられる伝統の味。横手市郊外の民家風の食堂は今日も賑わいを見せている。

■内蔵の街・増田で出会ったカオスな喫茶店とは?

横手焼きそばを堪能したところで旅の再開である。俺は柳田駅から再び奥羽本線に乗って、隣駅の醍醐駅へと向かった。

 

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醍醐駅から国道に出て、徒歩で十文字駅を目指す。この日の横手市内は気温30度を超える夏日。夏の入り口の陽ざしが容赦なく俺を照りつける。俺は汗をダラダラかきながら半泣きで道の駅「十文字」に避難した。

 

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道の駅には「小みやげ自販機」なるものが設置されていた。

 

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横手の小みやげの中で特に目を引いたのが、ユーフォー仮面缶バッジである。ちなみに価格は1,200円となかなか強気な設定である。

 

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ユーフォー仮面。その実態は主に高齢者施設などで活動する音楽芸人のようである。ちなみにヤキソバンのUFO仮面とは無関係のようだ。

 

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十文字駅到着。さっそくラーメンと行きたいところだが、まだ夕方まで時間があったため駅前でバスに乗り増田町に行ってみることにした。

 

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横手市増田町は内蔵の町としても知られ、バスを降りると明治・大正期の面影が残るレトロな街並みが広がっていた。

 

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増田の由緒ある建築物をチラ見しながら、ぶら散歩。だが少し歩いただけで汗が滴り落ちてくる。俺はあっさりと散歩を諦め、バス停近くの喫茶店に入ることにした。

 

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大正ロマン漂う増田の喫茶店で懐かしのチョコサンデーを食べながら小休憩。そんな思惑を抱えながら、俺は大正八年創業の佐々平商店にお邪魔した。

だがこの店、渋い外観とは裏腹に店内はなかなかカオスな空間だった。

 

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大量のフィギア。ガールズクループ「BiSH」のポスター。そして誰がプレイするのだろうかゲーム機。もはやどこからツッコんでよいのか迷ってしまう古風な喫茶店の仮面をかぶったパラレルワールドが広がっていた。

 

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そんな中学生男子の部屋にいる感覚で食べるチョコサンデー。自宅と店が兼用なのだろう、どこからか洗濯機を回す音が聞こえてくる。そしてなぜか店では箒が売られていた。

 

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内蔵の町・増田で出会ったカオスな喫茶店。横手焼きそば、十文字ラーメンに次いで、増田のチョコサンデーがB級グルメ界を席巻する日が来るかもしれない(来ない)。

B級グルメ界のニューウエーブ「十文字ラーメン」とは?

バスで再び十文字駅まで戻り、B級グルメ界のニューウエーブ「十文字ラーメン」を食べるため、その足で「マルタマ食堂」に向かった。

 

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看板には「元祖十文字中華そばマルタマ」の文字。譲れぬプライドが垣間見える。

 

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ラーメンの前に、先ずはこいつである。夏の始まりに柿ピーを食べながら飲むビールは最高である。

 

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店のテレビに映る秋田の県内ニュースを眺めながら、餃子をビールで流し込む。店内は男性のひとり客が多い。男は黙って十文字ラーメン。店員さんも親切で居心地が良く柿ピーと餃子とビールで何時間もいれそうだ。正直さっき入った増田の喫茶店とはエライ違い……あっ、スイマセン。

 

ビールを飲み干したところで十文字ラーメンを注文。十文字ラーメンは醤油ベースの和風スープと細いちぢれ麺、そしてなぜか麩が紛れ込んでいるのが特徴である。

 

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夏の始まりと十文字ラーメン。誤解を恐れずに書くと、その味に大きなインパクトはない。そこにあるのは実家のオカンのような安心感。ちなみに横手焼きそばも十文字ラーメンを昭和の時代は庶民のおやつだったようである。おやつに焼きそばやラーメンって重すぎでは……というツッコミは野暮だ。昭和の子供や働く男たちはいつだって腹ペコだったのだ。

 

昭和から続いてきた食の伝統は平成を超え令和の時代にも脈々と受け継がれている。そしてそこに各店の小さなプライドが垣間見える。愛と伝統とプライドのB級グルメ。どうやら侮れないようである。

 

さて、今回は横手のB級グルメを食べ歩いたKANEYANの秋田ぶらり旅。横手焼きそばや十文字ラーメンよりも増田の佐々井商店のほうがインパクト強めだったのが気になるが、次回はさらに奥羽本線を南に進んで秋田の食の広告塔・稲庭うどん発祥の地である「湯沢駅」を目指してみようか。

 

続く。

#27【ぶらり旅】【JR奥羽本線】「地元民が集うスポットを巡りながら大曲駅から横手駅を目指す初夏の奥羽本線各駅降車の旅」とは?

■地元民が集う大曲駅前の渋い喫茶店とは?

秋田には帰りたくない。

 

先日、出身者の都道府県別「移住(Uターン)意欲」ランキングというものが発表された。ちなみに俺が暮らしている秋田県は堂々の47位である。

 

一度抜け出したら絶対に帰りたくない秋田。

若者離れがジョットコースター並に加速する秋田。

ヒルナンデスで紹介される首都圏の最新グルメやスポットなど遠い異国の話だよ秋田。

 

秋田はもう死んでいる。(全国自殺率第2位)

 

と、梅雨空に向かって秋田の田んぼの真ん中から憂鬱を叫ぶ2021年のファーストサマー。だが嘆いているばかりでは始まらない。超不人気の秋田の魅力を1ミリでも見つけるため俺はこの「秋田ぶらり旅」を書いている。

 

というわけで今日も俺は秋田を旅して「何か」を見つけるべくJR大曲駅へと降り立った。例によって今回も奥羽本線の各駅に立ち寄りつつ3駅先の横手駅を目指す算段である。

 

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奥羽本線に乗る前に、先ずは駅前で腹ごしらえである。だが時刻は午前10時。ほとんどの店がまだ準備中である。そんな中、俺は駅前のとある喫茶店に目をつけた。

 

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少し埃臭い急勾配な階段を昇る。外観は昔タケノコ剥ぎにあった赤羽の違法風俗店のような雰囲気である。本当に大丈夫か。緊張気味に店の扉を開くと店内には誰もいない。えっ? マジで。だが店内は明るくテレビもついている。呼びかけてみたが反応がない。

 

「あら、いらっしゃいませ」

 

しばらくウロウロしていると、入口の扉が開いて牛乳を持ったお母さんが登場。牛乳をもってどこに行っていたかは不明だが、ひとまず営業中のようである。せっかくなので階段の横に張り紙がしてあったオススメのスパイシーカレーを注文した。

 

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カレーを食べていると、高齢のお母さん2人組が来店。どうやら1人がこの店の常連のようで、その人が駅前の病院で意気投合したもうひとりのお母さんを連れてきた、という塩梅のようである。

「メニュー? オラなんでもいい」

まさかのオマカセコース。さすが常連である。

「オラの年金だば、全部病院代に持ってがれる」

お客のお母さんたちの嘆きのブルースを聞きながら食べるスパイシーカレーはクセがなく食べやすい。お年寄りもサラッと食べられるのではないだろうか。

 

「たまにはこういうどごさ来てママ食うのもいいな(たまにはこういう所でご飯を食べるのもいいね)」

 

そう言って、お母さんたちは食べやすいように細かくカットしたトーストを頬張っている。病院で友達を作り、病院近くの喫茶店でトースト片手に語りあう。高齢のお母さんたちの新たなライフスタイルがここ秋田の県南エリアで構築されようとしている。

■地元民が集う飯詰駅近くの隠れ家的カフェとは?

スパイシーカレーでお腹を満たした俺はその足で大曲駅から奥羽本線に乗り、隣駅の「飯詰駅」へと向かった。

 

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大曲駅の隣駅である飯詰駅秋田県仙北郡美郷町に位置している。美郷町は人口が2万人にも満たない小さな町で、県南の玄関口である大曲駅付近に比べると、飯詰駅の周辺はのんびりとした空気が漂っている。

そんな飯詰駅から5分ほど歩くと一軒の小さなカフェがある。

 

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平日にも関わらず、店内は地元民で賑わっている。高齢の夫婦から20代の美郷ガールズまでその年齢層は幅広い。

ちょうど昼時だったため店内はランチタイム。だが先ほどスパイシーカレーを食べた俺の胃袋はすでに満たされているため、レモネードなんとかジュースとミックスベリーとなんとかのシフォンケーキをオーダーした。

 

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ふわふわのシフォンケーキを甘酸っぱいレモネードのジュースで流し込む。そんな37歳の昼のひとときがあったっていいじゃない。2階の窓からは隣の家の田んぼが見える。一面に広がる少し背伸びした稲穂を見ながら、シフォンケーキについているオレンジを齧る。そんな37歳の昼のひとときがあったっていいじゃない。

 

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そんな地元民が集うオシャレカフェを堪能した後は、ぶらり旅の再開である。俺は飯詰駅から再び奥羽本線に乗って隣の「後三年駅」へと向かった。

 

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この地が平安時代末期に起きた「後三年の役」の古戦場だったことが、駅名の由来となっているようである。

 

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せっかくの良い天気なので、次の電車時間まで駅周辺をぶら散歩。同じく後三年の役をモチーフにした歴史公園「平安の風わたる公園」まで歩いてみることにした。

 

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公園の中心部には合戦の様子が描かれた壁画や登場人物のブロンズ像が設置されている。

 

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そんな平安の「つわものたち」に囲まれた公園のベンチにはひとりの中年男性が座っていた。

外回りの休憩中なのか、くたびれたシャツを着た中年男性の佐藤隆史さん(仮名)はハンカチで汗を拭きながらぼんやりと佇んでいる。6月の昼下がり。そう、平安時代も、この令和の時代も男はいつでも何かと戦っているのだ。

 

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公園を後にして、再び後三年駅に向かって歩いていると高齢のお父さんたちがゲートボールに勤しんでいるのが見えた。美郷町のお父さんたちは元気である。汗をかいた後はすぐ近くの雁の湯温泉「湯とぴあ」で汗を流し、風呂上りにビールを飲んでごろ寝をかます。そんな老人に私はなりたい。

 

■地元民が集う横手駅前の大衆食堂と元祖ホルモン焼きそばの店とは?

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後三年駅から再び奥羽本線に乗り、本日の目的地である「横手駅」へ。秋田県東南部に位置する人口約8万4千人の「横手市」は秋田屈指の豪雪地帯としても有名である。そんな雪降る町の駅前には昼酒ウエルカムの大衆食堂があるのだが、本日はここ「池田屋食堂」でひとり乾杯といこう。

 

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店のお母さんと常連のお父さんの世間話を聞きながら、ところてんを啜る。お母さんたちの話題はもっぱら数日前に横手市内のどこかの家で飼っていたカドクラ、……じゃなくてイグアナがふらっとどこかにいなくなってしまった「横手市イグアナ脱走事件」である。

「見つけたら焼いて食っちまえ」と 常連のお父さんが鼻息を荒くしていると、ちょうど夕方の県内ニュースでイグアナが見つかったというニュースが流れた。どうやら横浜のカドクラに続き横手のイグアナも、自宅に無事帰宅したようである。

 

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俄然勢いが増した俺はコップ酒を注文。そして並々と注がれた酒にホタルイカの沖漬けとワラビを合わせる。そう、男は黙ってコップ酒である。

 

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すっかりほろ酔い気分の俺は駅前の古き良き大衆食堂を後にして初夏の横手を歩いた。もちろんコップ酒のおかげで気分は上々である。ほろ酔い気分のまま真っすぐ帰ればよいものの、ふらふらともう一軒。いつもの悪い癖である。

 

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本日の2回戦の会場に選んだのは元祖ホルモン焼きそばの店「まいど」である。

 

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カウンターに座った俺の目の前ではスーパーファミコン時代の名作「ストリートファイターⅡ」に出てくるブランカのような腕っぷしをした屈強な男たちが黙々と焼きそばを焼いている。活気のある良い店である。

 

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もっぱら塩分を気にするお年頃の俺だがここはひとつ焼きそばを食わねばならない。ちなみに俺の焼きそばを作ってくれたのは、坊主頭の高校球児のような風貌の若い男の子だった。

 

「ずいぶん慣れたか」

「いや、まぁ」

 

常連のお父さんたちに照れ笑いを浮かべながら、熱い鉄板で焼きそばを焼いてくれた。その顔にはまだ幼さが残るものの、すでに職人としての気質が備わっているように思えた。

 

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焼きそばが完成。俺はビールを飲み干すと焼きそばにかぶりついた。そのビジュアルとは裏腹に意外とあっさりしている。ホルモン入りにしなかったことを少し後悔した。

 

夜7時を過ぎると、地元の常連さんで店は混雑し始めた。それでも俺の焼きそばを作ってくれた彼は顔色ひとつ変えずに大人たちに交ざって額に汗をかきながら引き続き熱い鉄板で焼きそばを焼いていた。

 

横手カルチャーはこうして若い世代に受け継がれていくようだ。

 

良い店だな。また来よう。

 

飲んで食べてすっかり夢心地のオジサンはまだ薄っすらと明るさが残る横手の街を歩きながら、ふとそう思ったようである。


さて、今回は県南の主要駅である大曲駅から横手駅への各駅降車の旅を敢行したKANEYANの秋田ぶらり旅。秋田で真面目に働く若者を横目にヒマさえあれば酒ばかり飲んでいる自分を少しだけ恥じながら、次回はさらに奥羽本線を先に進んで、秋田のB級グルメ界のニューウエーブ「十文字ラーメン」で有名な「十文字駅」を目指してみようか。

 

続く。