KANEYANの秋田ぶらり旅

KANEYANが秋田県内の各駅を回りながら綴るNONSTOP AKITA DIARY

#26【ほろ酔いの旅】【JR奥羽本線】「柳葉敏郎の故郷・刈和野から大曲駅を目指す奥羽本線はしご酒の旅」とは?

■ギバちゃんの故郷を行く

ギバちゃん、大仙走るってよ。

 

各地で芸能人の辞退が続出している聖火ランナーだが、来月秋田県大仙市を走る予定となっているのが柳葉敏郎である。そう「踊る大捜査線」や「コード・ブルー」などの超有名作品に出演する一方、現在は地元の秋田に拠点を置き毎週土曜日放送の秋田テレビ柳葉敏郎のGIBAちゃんとGOLFへGO」では華麗なスイングをお茶間の間に届けるローカルスターである。

 

そんなわけで今回は秋田県民ならばみんな大好きギバちゃんの故郷・大仙市刈和野から2駅先の大曲駅を目指す奥羽本線各駅降車の旅を計画した。天気はまさに五月晴れ。こんな日は昼からビールなんて最高だ。そんなことを思いながら俺は青空が広がる奥羽本線刈和野駅に降り立った。

 

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まず俺が目指したのは秋田のB級グルメ界の隠し玉「だいせんハンバーガー」が食べられる田村商店である。

 

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もはや隠し過ぎて地元大仙市に住んでいながら俺もその存在を知らなかった「だいせんハンバーガー」だが、駅を出て雄物川をチラ見しながら歩くこと20分。唐突にその看板は現れた。

 

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さっそくお店に入りお母さんからチーズバーガーを購入。実は何を隠そう俺はハンバーガーが大好物なのである。20代の頃は冗談抜きで毎晩ハンバーガーを食べながらビールを飲んでいた。

まあそのおかけで30代にしてすでに体の至るところにガタがきていることは言うまでもないが、とにかく俺はハンバーガーには目がないのである。

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雄物川をバックにさっそくチーズバーガーをがぶりと齧る。その味も、その大きさも、めちゃくちゃ普通である。だが俺は気づくとムシャムシャと食べていた。その味はどこか懐かしい。溢れ出るノスタルジーとレトロ感。まさにファミコン&スーファミ世代の味である。

 

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刈和野駅から少し歩いた場所にポツンとある酒屋さんの手作りバーガー。誤解を恐れず書くと絶賛するほど美味いわけではない。だけど学校帰りには必ず買い食いしたくなる秋田の隠れたB級グルメである。

刈和野の温泉に浸かってちょいと一杯

ハンバーガーで小腹を満たした俺は西仙北ぬく森温泉「ユメリア」に向かった。温泉に浸かって昼間からビールなどもちろん最高である。田村商店から10分ほど歩くと看板が見えた。目的地まで2.8キロ。運動がてら歩くにはちょうど良い距離である。

 

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だが歩き進めているうちに雲行きが怪しくなってきた。少しずつ建物がなくなり、やがて山道に入り込んだのである。

 

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遠くから動物の鳴き声が聞こえてくる。春になり秋田ではさっそく熊の目撃情報が多数寄せられている。腹を空かしたマークーがひょっこり現れても不思議ではない道である。しかも俺はどちらかというとドングリみたいな顔をしている。おお、こわ。俺は祈るような気持ちで温泉へと向かった。

 

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マークーの影に怯えながら温泉の手前までたどり着くと、牛の放牧場が現れた。先ほど聞こえてきた動物の鳴き声の正体は牛だったのだろうか。

 

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ユメリアに到着。大浴場の前には地元秋田出身のギバちゃん&壇蜜コンビの他に松岡修造やミスターパーフェクト槇原寛己のサイン色紙も飾られていた。

 

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まずは風呂に入り汗を流す。露天風呂の他にサウナや水風呂もついている。地元のお父さんに混ざってホッと一息。昼間の温泉はいい。

 

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風呂からあがって、さっそく隣の食堂でひとり乾杯。コロナのワクチン接種の話題で持ちきりのお母さんたちの声を聞きながら、火照った体に好物の山かけとビールを流し込む。昼から飲む酒はやはり美味い。

 

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フロントの前にはたくさんのギバちゃんグッズが並び、「柳葉敏郎氏展示室ギバちゃんの部屋」なるものもしっかり完備。一世風靡セピア時代から現在に至るまでのギバちゃんの功績をほろ酔い気分で眺めながら、ふと気になったのはここから刈和野駅までの帰り道である。距離は3キロほどとけして歩けない距離ではないが、どうもあの山道を歩くのは大儀である。

 

「すいません。ここから駅までバスは出てますか?」

刈和野駅までバスで帰ろうと思いフロントのお姉さんに聞いてみた。

「駅まで行くバスは無いですねぇ」

「ではタクシーを一台」

ほろ酔いの俺はとにかくあの山道を歩くのが面倒だったのである。

 

だが近くのタクシーが出払っており、到着までかなり時間がかかるという。まあ仕方がない。休憩所で昼寝でもしながら待つことにするか。そう思ったときである。

 

「あっ、わたし乗せていきますよ」

「えっ。いや、その、マジすか?」

宿泊客ならわかるが、俺はただの日帰り入浴の酔っぱらい客である。まさかの展開に狼狽しつつも彼女の運転であっという間に山道を超え、刈和野駅へ。

「すいません。あの、また来ます。すいません」

昼間からほろ酔い加減の小柄なおじさんは恐縮しつつも、次の神宮寺駅を目指し電車に乗った。そう、まだ奥羽本線はしご酒の旅は始まったばかりである。

■神宮寺の町中華でやろうぜ

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神宮寺駅に到着。久しぶりにやった昼酒のおかげで、ほろ酔い上機嫌の俺はその足でさっそく本日の「2軒目」へと向かった。

その途中、ふと横を見ると大きな建物が見えた。大仙市立神岡小学校である。下校途中の小学生の男の子たちが威勢よく俺の目の前を駆けていく。おそらくこの子たちのお父さんやお母さんは俺と同世代か、もしくは年下であろう。

 

もはや彼らから見れば「だいぶ大人」の俺は昼から酒を飲み、マスク越しに酒臭い吐息を発しながら2軒目を求め彷徨い歩いている。大丈夫か、俺。明日の朝礼で担任の先生から「変なおじさんに近づかないように」という注意があるかもしれない。

 

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本日のはしご酒の旅2軒目となる神宮寺駅近くの「エリヤ神岡」に到着。店内には俺ひとり。それもそのはず。地元の神岡小学校の高学年の生徒はまだ部活動に勤しんでいるような時間帯である。だが「周りが一生懸命働いている昼間に飲む酒が何より美味い」という反社会的な持論を持つ俺はお母さんにさっそく瓶ビールを注文した。

 

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ビールに合わせるのはもちろん餃子である。餃子は店によって案外当たり外れがあるのだが、ここの店の餃子はニンニクが効いていて美味い。そして個人的には赤星の瓶ビールが置いてあるのも嬉しい。

 

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追加で春巻きを注文し、ビールをゆっくりと飲みながら夕暮れを待つ。この時間こそ至福である。最近は大仙市でもコロナの感染者が増えており、その影響からか夕方が近づいても客は俺ひとり。料理担当のふたりの職人さんとホール担当のふたりのお母さんに見守られながら俺はビールを飲み干した。

 

「今日はどちらから」

帰り際、お母さんに声をかけられた。

「地元だっす。大仙市だっす」

普段はシティボーイを装い秋田訛りを封印している俺だが、初見の飲食店では秋田県民を全力でアピールするため、あえて訛るようにしている。県外から来た、なんて言ったらどんな顔をされるだろうか。そんなことを思いながら再びマスクをつける。このご時世を生きるのは、やはりどこか息苦しい。

大曲駅近くの大衆食堂で頬張る締めのベーコンライスとは?

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大曲駅到着。この秋田ぶらり旅で訪れた駅としては秋田駅に次ぐ2番目の大きさではないだろうか。そう、大曲エリアはここ大仙市の中枢なのである。

 

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だがこれまたコロナの影響か、駅前の飲食店は灯りが消えている店が多い。正直今回の旅で締めに訪れようと考えていた店も休業していた。

 

途方に暮れながら地元大仙市の一番の都会である大曲駅前を歩く。ちなみに大曲と言えば全国的に有名なのが「大曲の花火」である。普段は閑散とする大仙市にあり得ないほどの人が押し寄せる8月の終わりは、子供の頃から少なからず興奮したものだ。だが花火大会が終わった翌日は当たり前だが人がいなくなり元の日常に戻る。まるで花火のように街が一瞬だけ華やいでは瞬く間に消えていく。それがなんだか寂しかった。

 

そんなことを思いながら駅前をぼんやり歩いていたら、いつの間にか陽が傾き夜が来ていた。今日はもう帰ろうか。

そう思った矢先、一軒の食堂が目に入った。

 

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「味よし味二番」という何とも意味深なネーミングの大衆食堂に入ると、大量に貼られているメニューの数々に圧倒された。

 

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最後に〆の飯を食べたいところだが、ここから一品をチョイスするのは至難の業である。ひとまず俺は今日3本目の瓶ビールを飲みながら思案することにした。

 

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冷奴をつまみつつ、何度もメニューを眺める。決まらない。小腹が空いているが、がっつり腹が減っているわけではない。そんなときのチョイスは難しい。

 

結局、閉店間際に迷った俺がチョイスしたのは「ベーコンライス」と「豚汁」である。

 

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酒を飲んでばかりいた今日1日を少しだけ反省しつつ、ベーコンライスを頬張り温かな豚汁を啜る地元の夜。ふとテレビを見ると路上飲みをする都会の若者たちが映った。

 

理由は違えども、酔っぱらいたい夜もあるわな。

 

そう心の中で呟きながら、俺は少しだけ残っていたビールを飲み干した。

さてもう1軒、スナックにでも。いや、やめておこう。コロナの影響でより一層活気のない地元の夜をすり抜けて、俺は素直に家へと向かうのだった。

 

さて、今回はギバちゃんの故郷・刈和野から大曲駅を目指すはしご酒の旅を敢行したKANEYANの秋田ぶらり旅。いつかまたここ地元・大曲にたくさんのひとが花火を見に訪れてくれるのを願いつつ、次回は奥羽本線をさらに進んで壇蜜の生まれ故郷・横手を目指す旅に出てみようか。

 

続く。

#25 【ぶらり旅】【JR奥羽本線】「秋田駅から強首温泉を目指すコロナ禍の奥羽本線各駅降車の旅」とは?

■コロナ禍の奥羽本線各駅降車の旅とは?

東北を旅するなら5月である。

 

と、何かの本に書いてあった。たしかにこの時期の気温は旅をするにはちょうどいい気がする。だがコロナの影響でここ秋田もかなりナイーブな状況である。秋田屈指の歓楽街「川反」のガールズバーでド深夜までレモンサワーを浴びていたころが懐かしい。

 

それでも俺は旅に出たいと思う。だって5月だもの。だが秋田でも感染者が増加しているこの時期である。堂々と旅をするにはどうも忍びない。そこで俺はこの旅においてひとつルールを設けることにした。それは「声を発しない」ということである。つまりは無言の旅である。あちこち歩き回ったとしても声を出さなければコロナにかかるリスクはゼロに近づくはずだ。もはやそこまでするなら家でおとなしくドラクエでもしていたほうが賢明な気もするが、それでも俺は旅に出たいと思うのだ。だって5月だもの。

 

そんなわけで俺は「秋田駅」から大曲・横手方面に向かうJR奥羽本線に乗車した。今回は例によって全ての駅に立ち寄りつつ「秋田駅」から5駅先の「峰吉川駅」、そしてそこからもう少し足を伸ばし大正ロマン漂う強首温泉を目指す計画である。

 

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先ずは秋田駅の隣駅である「四ツ小屋駅」に降車した。主要道路から離れているせいか、駅付近は閑散としている。

 

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学生御用達の駅なのか、駅前には大量のチャリンコが並んでいる。そして秋田県民しか理解できないであろうオレオレ詐欺の注意喚起の看板が掲げられいる。そう、じぇんこの振り込みには注意である。

 

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ひとまず次の電車時間まで駅付近をぶら散歩。駅から2キロほど歩いたところにある「弥生っこ村」に向かってみることにした。

 

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「弥生っこ村」は木柵に囲まれた弥生時代前期の集落が再現されており、国の史跡にも指定されている。

だが人の姿は見当たらない。年配のお父さんがひとりひなたぼっこをしていた。

 

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ここ弥生っこ村では実際に住居の中にも入ることができる。だが入口が非常に狭いためゴツンと頭をぶつけたことは言うまでもない。

 

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弥生っこ村を後にして、四ツ小屋駅まで戻る。時間の配分を誤ってしまい駅まで小走りする羽目になった。そんなやるせない俺を農作業をしているお父さんが訝しげな顔で見ていた。

和田駅近くにあるお寿司屋さんの絶品かつ丼とは?

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息を切らしつつ四ツ小屋駅から電車に乗り一駅隣の「和田駅」へ。駅に着くとその足で俺はとある寿司屋へと向かった。

 

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その外観はまさしく寿司屋である。だがいざ店内に入ってみるとカウンター前の冷蔵ショーケースには魚は全くいない。メニューを開くと丼ぶりにラーメンが並び、そして後ろのページにようやく寿司が登場するという不思議な店である。

 

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店内でも寿司を食べている人は誰もいない。そう、この店の隠れた名物は地元の大張野豚を使った「かつ丼」と「バリコロ焼」のようである。腹ペコの俺はかつ丼を注文した。男は黙って、かつ丼である。

 

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かつ丼が到着。もちろん旨いに決まっているのだが隣の山菜入りの味噌汁も主役のかつ丼を存分に引き立てている。

 

カウンターの端っこにはテレビが備え付けられており、そこに映る「バイキング」ではいつものようにコロナ禍を憂いている。俺はこれまたいつものように半ギレなテンションの坂上忍さんの声を聞きながら、中学生男子の如く、かつ丼を食らった。コロナ禍を憂うよりも、その前にまずは目の前のかつ丼である。

 

ちなみにこの店の本棚には往年の名作「GTO」や「花の慶次」に挟まれて「生徒会長のヒミツの願望」なんていうちょっぴり刺激的な少女コミックも置いてあるので、なかなか侮れない。

 

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かつ丼を完食したところで各駅降車の旅の再開である。俺は和田駅から再び奥羽本線に乗り、隣駅の「大張野駅」に向かった。

 

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大張野駅に到着。もはやコロナ禍でも絶対安心安全の人の気配皆無の無人駅である。

 

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駅自体は比較的新しいが、周辺からは人を寄せつけないオーラが感じられる。もはやこのエリアは秋田市と大仙市に挟まれた魔境である。

 

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あてもなく歩いていると、春風に乗って独特な臭いが立ち込めてきた。最近気になる俺のオヤジ臭……、じゃなくて豚の臭いである。どうやらこの地域は養豚が盛んで先ほど俺が食べた大張野豚はここが出身地なのである。

 

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駅から少し歩くと鳥居が見えてきた。鬼子母神社である。

 

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鬼子母神社。明らかに名前負けしているその殺風景な神社をチラ見して、大張野駅にUターンすることに。だがまたまた時間の配分を誤ってしまった俺は駅まで小走りする羽目になった。そんなやるせない俺を大量のカラスたちが訝しげな顔で見ていた。

■安産祈願にお勧めの大仙市のパワースポットとは?

大張野駅から奥羽本線に乗って本日4つ目の駅「羽後境駅」へ。プチ秘境モードの「大張野駅」とは異なり駅前には民家や商店が並んでいる。

 

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駅を出て向かったのは安産祈願に効果抜群と有名な「唐松神社」である。

 

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杉並木が並ぶ参道を歩き境内へ。趣きのある良い神社である。お腹の大きな奥さんとご主人のカップルが参拝に来ていた。

 

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「安産祈願」におススメの神社ということで、独身・家事全般お母さんにやってもらってます系男子の俺にはあまり関係ないように思われたが、一応この神社は「縁結び」も兼ねているということでそこは全力で祈願した。

 

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参拝を終えると駅近くにある喫茶店で小休憩。雰囲気の良いお姉さんが営むシャレオツな店である。

 

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歩き回って疲弊した体にアイスコーヒーが染み渡る。帰り際会計を済ませるとお姉さんがお土産にお菓子をくれた。小さな桜色の和菓子である。

羽後境駅でさっそくそれを頬張りながら俺は本日の目的地である「強首温泉」を目指して再び奥羽本線に乗った。

大正ロマンの香り漂う「強首温泉」とは?

羽後境駅から電車に乗って「峰吉川駅」に到着。周りに銀行や喫茶店があった羽後境駅に比べると幾分のどかな駅である。

 

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ここから本日の目的地「強首温泉」までは約4.5キロだが残念なことにバスは通っていない。歩いて1時間ほどの道のりを俺は意を決して歩くことにした。

 

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温泉に向けてひたすら歩いていると、廃墟と化した直売所が現れた。

 

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「澄子の大根」「愛子の店」「昔なつかしい駄菓子屋」「本間店や」もはや情報量が多すぎるこの店だが遠い昔は地元のお母さんや子供たちの憩いの場所だったのだろうか。

 

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さて、既に夕方も近くなってきたが今日は全く声を出していない。正確には「かつ丼ひとつ」と「アイスコーヒー」というふたつの言葉は発したが、合計しても14文字である。つまるところ俺はこの日の旅のルールを愚直なまでに守っているのだが、ひとりの旅は時に気楽で時に寂しい。人を避けて通らねばならないコロナ禍の旅はやはりどこか味気ない。

 

と、そんなことを思った矢先である。目の前で1台の車が止まってサイドガラスが開いた。年配のお父さんである。

「お兄ちゃん、どこまで行くの?」

「強首温泉です」

「んだば、乗ってげ」

「マジすか」

 

この「秋田ぶらり旅」2度目の逆ヒッチハイクである。お父さんからここ強首エリアの歴史を教えてもらいながら、温泉へと向かった。わずか5分ほどの時間ではあったが、その間俺は愚直なまでに守っていた「無言」のルールをあっさりと破り、お父さんと話し込んだ。コロナ禍においても、人情はそこにある。

 

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お父さんの車で強首温泉「樅峰苑」にたどり着いた。

 

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大正ロマンの香り漂うこの古き良き温泉で本日の旅の疲れを癒す。コロナ禍のため館内を歩き回ることはできなかったが、館内の随所に当時の面影が残っていた。ちなみにこの宿の名物は近くを流れる雄物川で獲れたモクズガニのようである。

 

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貸し切り状態の温泉ですっかりのぼせ気味の俺は再び4.5キロを歩く気力は残っておらず、フロントの方にタクシーを呼んでもらった。

 

峰吉川駅まで」

タクシーの運転手にそう言って財布を調べてみると、あろうことか2,000円ちょっとしかない。

「か、カードは使えますか?」

「今、機械が壊れてまして……」

「……マジすか」

 

俺はタクシーの料金メーターをにらみ続けた。2,000円を超えたら恥を忍んで途中でも降ろしてもらおうと思っていたのである。

 

峰吉川駅に到着。料金は2,080円。小銭をかき集めたら何とか払うことができた。

 

文字通りホッとため息ついて胸をなで下ろし、切符を買うために再び財布を出す。だがどこをほじくり返しても小銭すら満足に出てこない。近くにコンビニや銀行は見当たらない。せっかくタクシーを使ったにも関わらず俺はまた彷徨い歩いた。

 

無言ルールを破った罰か。いやただ計画性がないだけである……。

 

さて、今回は秋田駅から奥羽本線に乗ってコロナ禍の秋田市・大仙市エリアを歩き回ったKANEYANの秋田ぶらり旅。何はともあれ少しでも早いコロナ禍の終息を願いつつ、次回は秋田が生んだ名俳優である柳葉敏郎の故郷・刈和野から花火の街・大曲を目指す旅に出てみようか。

 

続く。

#24 【新駅ぶら散歩】【番外編】「秋田20年ぶりの新駅・泉外旭川駅エリアのディープスポット」とは?

■秋田20年ぶりの新駅とは?

外旭川駅を降りたら、高校生カップルが抱き合っていた。

 

……って、いきなりすいません。

先月、秋田県内では20年ぶりとなるJR奥羽本線の新駅「泉外旭川駅」が誕生した。そんなわけで昨日、年度初めの土曜日だというのにヒマだけが取り柄の俺は、秋田駅と土崎駅をつなぐこの真新しい駅を一目見てみようと奥羽本線に乗りこんだ。

 

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秋田の鉄道は玄関口である「秋田駅」に全振りしているため、秋田駅の隣駅かつピカピカのこの新駅も無人駅である。切符を集札箱に入れて地下道に向かって階段を降りて行くと地元の高校生カップルが熱い抱擁を交わしていた。見てはいけないと思いつつチラ見してしまうのが俺の悪い癖なのだが、今にもハグから濃厚キッスに発展しそうな勢いのそのカップルと目が合ってしまった。ごめん。

 

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地下道からは出口がふたつに分かれている。泉駅前広場派と外旭川駅前広場派の派閥争いが気になるところである。

 

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外旭川駅前広場を抜けると住宅街が広がっている。

 

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外旭川の新名物・ふくまる堂の「大判焼」とは?

住宅街を進んでいくと「おやつは心の栄養です」というのぼり旗が見えてくる。

 

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2年前にオープンしたばかりの外旭川の新名物・ふくまる堂の大判焼を新駅訪問の記念にテイクアウトすることにした。大判焼の他にも「飲むかき氷」なんていうメニューもある。テイクアウトのお客さんが多いようだがレトロ風な店内で大判焼片手にクリームソーダをすするのも悪くなさそうだ。

 

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外旭川のディープな食堂「マルホ食堂」とは?

ふくまる堂から県道233号線に出て10分ほど真っすぐ進み左に逸れると、周囲に異彩を放つ食堂が現れる。マルホ食堂である。

 

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先ほどの「ふくまる堂」のオシャレ・レトロとは違い、リアルな昭和感が充満しているその外観は遊び半分で入ることは到底許されないオーラがある。

 

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俺は恐る恐るその扉を開けた。店内は薄暗く小さなテレビから流れる「出川哲郎の充電させてもらえませんか」の音が辛うじて俺の心を落ち着かせてくれる。

 

ひとまず奥のカウンターに座る。メニューは定食・丼もの・麺類とかなり豊富である。チョイスに悩んでいると俺の後から入ってきたお父さんが白髪の魔女、……じゃなくてお母さんに「いつもの」とひと言。

 

「いつもの」で通じる食堂はモノホンである。だが俺にはその「いつもの」が何であるかは全く見当がつかない。迷った挙句、入り口の看板に書かれていた「辛いラーメン(韓国風ラーメン)」を注文。「韓国!」とお母さんが意外にも威勢よく厨房のお父さんに伝えていた。ちなみにカウンターにはお酒が並んでいるが、何の酒かは全くの謎である。

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韓国風ラーメンが到着。ピリ辛のスープの中には豚肉、玉ねぎ、茄子などたくさんの具材がひしめき合い、真ん中に卵が落とされている。その味は意外と言っては失礼だが旨いのである。もはや秋田県民に知らないひとはいないであろう桜木屋の「ニラそば」に似ている。洗練された桜木屋の「ニラそば」はもちろん俺も好きだが、あるもの全部ぶっこんだ感のあるこの具沢山のラーメンもまた良い。そしてこっそりラーメンの後ろに隠れている小鉢がまた有難く、これで680円は安い。……って、入口の看板には650円って書いていた気がするけど、まあいいか。

 

ピリ辛のスープの中にしっかりとコクがあって体に染み渡ります」

 

ちなみに桜木屋といえば放送直後は県内でワールドカップ以上の話題となる「秋田ラーメン総選挙」で今年も2位にランクインし、秋田を中心に活動中のフリーアナウンサー相場詩織さんが上記のような完璧すぎる食レポを披露したことが記憶に新しい。だけどこのマルホ食堂に相場詩織さんがやってきてラーメンを啜る姿は残念ながら想像できない。

 

それでも「いつもの」常連さんに支えられ、新駅・泉外旭川駅の近くでこっそりと今日もマルホ食堂は営業している。秋田市内にやってきたときはまた立ち寄ってみよう。あの中身がわからない酒瓶も気になるところである。

 

さて、今回は番外編として、秋田の新駅・泉外旭川駅周辺をぶら散歩したKANEYANの秋田ぶらり旅。次回は再び本編に戻って、秋田駅から大曲・横手方面に向かって奥羽本線の旅に出てみようか。

 

続く。

 

 

#23 【出会い旅】【由利高原鉄道】「由利高原鉄道の終着駅・矢島の名物マドンナに会いに行く旅」とは?

■由利鉄の終着駅・矢島の名物マドンナに会いにいこう

 『ローカル線の最終駅には人生の大先輩が待っている』

 

春のポカポカ陽気を浴びながら、そんなネット記事を目にした。秋田の第三セクターのローカル鉄道「由利高原鉄道」の終着駅である矢島駅観光案内所の名物マドンナ・佐藤まつ子さんのことである。

そう、春は出会いの季節である。「旨いものを食べたい」とか「素敵な景色を見たい」とかそんな旅も悪くないが「誰かに会いたい」と思い旅に出るのはきっと格別である。

 

そんな洒落たことを思いながら俺は再び由利高原鉄道に乗るため由利本荘市へと向かった。今回は前回最後に訪れた「前郷駅」の隣駅である「久保田駅」から4駅先の由利高原鉄道終着駅・矢島駅を目指す算段である。

 

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本日のスタート地点である由利高原鉄道久保田駅に到着。青空の下、例の如く周りになにもない駅に放り出された花粉症の俺はさっそくド派手なくしゃみ3連発を広大な田んぼに向けてぶっ放した。

 

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久保田駅の待合室には地酒「蔵めぐりの旅セット」のポスターが貼られているのだが、そのすぐ下には『アルコール ほろよいだけでは すまないよ』という由利中学校2年板垣愛琉さんから酒を求める大人たちへの鋭い忠告が蔵めぐりの旅セットのポスターよりやや大き目のサイズで貼りつけられていた。

 

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「乾電池のパワーで鉄道走行距離20キロ達成」というなんだかピンとこないギネス記録達成の看板を横目に俺は次の「西滝沢駅」を目指した。

 

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西滝沢駅に到着。先ずは昼飯といきたいが、ここから矢島駅までの道中で昼飯を食べられるスポットは「西滝沢水辺プラザ」しかなさそうだ。場所を確認するとスタート地点の久保田駅の方角である。計画性の無い俺は鼻水を垂らしながらまたトボトボと来た道を引き返すのであった。

■地元民が集う交流施設のご当地カレーとは?

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西滝沢水辺プラザの食堂に到着。腹ペコの俺はこの施設で最も高価な贅沢メニューである550円の「由利牛カツカレー」を注文。「今、お持ちしますから」とお母さん。俺がだだっ広い和室に座るや否や、注文してから50秒ぐらいでカレーが到着した。すき屋以上のスピードである。

 

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由利牛カツカレーの味は、……ごめん普通だ。だがこの普通さがまた良いのである。春休みのため親子連れの姿が目立つ。地元の交流施設の広い和室にあぐらをかいて、地元民に混ざって食べるカツカレーは絶品ではないけれどココイチとはまた違う味わいがある。

 

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春の訪れに浮かれる子供たちに見守られながら今日の目的地である矢島を目指して旅の再開である。歩き進めていると田園地帯のど真中に小さな建物が見えた。「吉沢駅」である。

 

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由利高原鉄道では曲沢駅に続く「ポツンと駅舎シリーズ第二弾」の吉沢駅。もし仮にこの駅に降りてしまったら、果てしない田んぼのど真中で途方に暮れるのみである。

 

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そんな由利本荘市の魔境に降り立つ旅の勇者を今日も「吉沢駅」は待っている。

 

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吉沢駅を後にして、次の川辺駅方面に向かって歩いていると唐突にド派手な看板が現れた。

 

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青年部矢島支部の熱烈な想いが炸裂するポスターが貼られたその小屋は「元祖100円ランド」と書かれていた。地元の農作物の販売所なのだろうか。

 

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だがその中は荒涼たる雰囲気であった。残念ながら青年部矢島支部の元に出会いは訪れなかったようである。

 

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 ■由利高原鉄道の終着駅・矢島のスポットを巡る30分お散歩コースとは?

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子吉川を眺めながら歩いていると見えてきたのは「川辺駅」である。

 

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ホームに立って田園風景を眺めながら電車が到着するのを待つ。折角なので終点の矢島駅には電車で向かうことにした。

 

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おもちゃ列車仕様の「なかよしこよし」に揺られて終着駅に向かう。

 

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由利高原鉄道の終着駅・矢島に到着。ここ由利本荘市矢島町の萌えキャラ「松皮カンナ」ちゃんのパネルや駅構内に並んでいるちょっぴり微妙な由利鉄グッズも気になるが、まずは「まつこの部屋」がある観光案内所に向かうことにしよう。

 

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だが肝心のマドンナは「只今、まつ子リフレッシュ中」という言葉を残して不在である。タイミングが悪かったか。少し肩を落として駅を出ると駅前のベンチに腰をかけてひなたぼっこをしている和服姿のひとりのお母さんがいた。まつ子さんである。

 

「こんにちは。今の電車で来たの?」

まつ子さんは俺を見るなり声をかけてくれた。

「そうです。このへんで観光できるところはないですかね?」

夕方から近所の旅館を予約しているのだがまだすこし時間があるため、まつ子さんにおすすめの観光スポットを聞いてみた。

 

まつ子さんは「あるわよ」と言って駅に向かって歩き出した。そして先ほどの「まつこの部屋」に着くと「ここは城下町だからねえ」と言って俺に一枚の地図を見せてくれた。

 

「ここが駅で、すぐそこに羽後信金があるでしょ? そこを右に行くと天寿酒造。そこを真っすぐ進むと大井家。矢島でいちばん古い家ね。でも人が住んでるから見るだけよ。それからまた真っすぐ行くと神社があるから坂道を登って。これが近道だから。突き当りを右に行くと小学校があって、それを先に進むと龍源寺があって……」と地図に蛍光ペンを引きながら、矢島の観光ルートを丁寧に説明してくれた。

 

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俺はまつ子さんからもらった地図を頼りに天寿酒造で日本酒を眺め、矢島でいちばん古い家「大井家」の外観をチラ見し、神社の坂道を登り、小学校を超えて、龍源寺へと向かった。

 

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龍源寺をぐるりと一周し、矢島町歴史交流館「八森苑」、そして明治2年に建てられた武家住宅「佐藤政忠家」を眺めて本日の宿「三船旅館」に向かう。これがまつ子さんに教えてもらった矢島町の観光スポットを巡る30分お散歩コースである。

 

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■矢島の古き良き老舗旅館「三船旅館」とは?

矢島駅から少し歩くと風情のある旅館がある。城下町の香り漂うこの三船旅館に本日は一泊である。

 

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玄関を開けると若い女将さんが迎えてくれた。 部屋は昔ながらの和室である。奥の障子を空けると建物の裏手にさらさらと水が流れているのが見えた。

 

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晩御飯を待つ間、熱い風呂に入る。風呂は完全にひとり用である。まるで春休みに親戚のお家に来たような、この感じがたまらない。由利本荘を歩きまくってすっかりむくんだ足を風呂で癒したあとはお待ちかねの夕食である。

 

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女将さんにビールをお願いして、目の前の料理に全集中である。山菜の天ぷらが特に旨い。ここ最近少し出っ張ってきたお腹は、またさらに出っ張りそうな勢いだが俺はビールと一緒に目の前の料理を食い尽くした。

 

ちなみに旅館にひとりで泊まると、ひとつ困ることがある。飯を食うとやることがないのである。もう風呂にも入ったし遅くまで酒を飲んで語り合う仲間もいない。仕方ないので布団に潜り込む。まだ夜の8時である。だが幸い俺は腹が一杯になるとどこでもすぐに寝れるという特殊能力を兼ね備えているので、のび太君もビックリの早業で就寝モードである。

 

夜中、雨の音で目が覚めた。はて、雨が降る予報だったかなと思い障子を開けて外の様子を眺めてみる。すると、それは雨音ではなく、旅館裏の小さな川を流れるせせらぎの音だった。夜になるとその音がいっそう響き渡る。

 

朝。たいして疲れてもいないのに10時間以上寝た俺は、全くカロリーを消費する予定もないのに朝から納豆をかき回し、熱い味噌汁をがぶ飲みし、ご飯は3膳食べた。

 

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旅館を後にして矢島駅へ戻るとまつ子さんがさっそく俺を見つけて手を振ってくれた。

 

「三船旅館どうだった? 川の音が聞こえたでしょ? ちょっと待ってね。今お茶淹れるから」

そう言ってまつ子さんは俺にお茶を振舞ってくれた。桜茶である。

 

電車を待つ間、まつ子さんと三船旅館のことや俺の地元大仙市の花火のことなんかを話した。まつ子さんに淹れてもらった桜茶は春の味がした。

 

まつ子さんとお別れして、帰りの由利高原鉄道に乗る。間もなく発車しようかというときに、コンコンと電車の窓を叩く音がした。振り返ると、まつ子さんが「大仙から来てくれてありがとう」と書かれた手書きの紙を持って俺に手を振ってくれていた。

 

窓越しに俺も手を振り返した。電車がゆっくりと動き出す。

 

矢島に来て良かった。ゆっくりのんびりと進む電車の車窓からは春の鳥海山が見えた。

 

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さて、今回はぶらぶらと由利高原鉄道の終着駅にやってきたKANEYANの秋田ぶらり旅。ひとまずこの古き良き城下町にて由利高原鉄道に別れを告げて、次回は番外編として秋田20年ぶりの新駅となるJR奥羽本線・泉外旭川駅周辺をぶら散歩してみようか。

 

続く。

#22 【歩き旅】【由利高原鉄道】「由利本荘の隠れた名所を巡る春の由利鉄沿線歩き旅」とは?

■春の由利高原鉄道に乗ろう

秋田の冬は灰色だ。

 

秋田に雪が降り始める11月下旬から春がやってくる3月まで秋田県内の天気は曇りか雪か大雪である。グレーの空から怒涛のように降り積もる雪を前に秋田県民はコロナ関係なくステイホーム。そう、秋田県民が欲しているのはワクチンよりも雪が降らない青空である。

 

だがそんな秋田にもようやく春が近づいてきた。もちろん朝晩は冷え込むし、桜の開花はまだまだ先だ。それでも少しづつ天気予報に晴れマークが並び、野球の開幕が近づき、秋田県内で30%近い驚異的な視聴率を誇る「秋田ラーメン総選挙」が放送されるこの季節を待ちわびていた秋田県民は俺だけじゃないはずだ。

 

俺は久しぶりに真っ青に晴れた空を虫歯気味の奥歯で噛みしめながら「羽後本荘駅」へと向かった。実はこの「秋田ぶらり旅」を行うにあたって密かに楽しみにしていたのが「由利高原鉄道」に乗ることである。由利高原鉄道、通称”ゆりてつ”は秋田県由利本荘市を走る第三セクターの鉄道でアテンダントさんが乗車していたり観光客向けの取り組みもなされている。

 

さっそく俺は「羽後本荘駅」から隣駅の「薬師堂駅」までの切符を購入した。今回は例によって全ての駅に立ち寄りつつ最終的に6駅先の「前郷駅」を目指す春の由利高原鉄道沿線歩き旅である。

 

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由利高原鉄道の車内は3月下旬にも関わらず未だに雛祭りモード全開である。春休みシーズンのため乗客はハタチ前後の男子が多い。皆、一様に立派なカメラを持っている。由利鉄は鉄道男子の人気スポットのようである。

 

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アテンダントの秋田おばこ姿のお母さん、……いやお姉さんのアナウンスを合図にのんびりと電車は発車する。春の景色を眺めながら、このまま終点の「矢島駅」まで行ってしまいたい衝動を抑えつつ、俺は隣駅の無人駅「薬師堂駅」で降車した。誰に頼まれたわけでもないのに勝手に挑む由利高原鉄道沿線ひとりSM歩き旅の始まりである。

■由利鉄沿線の小さな食堂で啜るチャーシューメンとは?

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個性的な駅が並ぶ由利高原鉄道だが、この「薬師堂駅」は2009年に改築されバリアフリー化された比較的新しい駅舎である。ちなみにこの駅の目玉は駅に設置されている自動販売機である。

 

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見た目は何の変哲もない自販機だが飲み物を購入するともれなく由利高原鉄道社員の音声を聞くことができる、らしい。

 

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駅前の医薬神社で旅の無事をお祈りしつつ次の「子吉駅」を目指す。由利高原鉄道の駅間は2~3キロほどと比較的短い。春の訪れを感じながらテクテク歩いているとヘルメットをかぶって自転車に乗った小学生の男の子たちが明朗な声で挨拶してくれた。のどかな良い街である。

 

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程なくして子吉駅に到着。その姿は完全に郵便局である。

 

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おそるおそる駅の中に入ってみる。郵便局と駅を強引に合体させたその姿はどちらかといえば郵便局の色が強めである。

 

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もちろん俺は郵便局に用事はない。言ってしまえば電車に乗るわけでもない。窓口のお姉さんの怪訝な表情を背中で感じつつ俺は逃げるように子吉駅を後にして次の「鮎川駅」へと向かった。

 

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鮎川駅に到着。駅前には自転車置き場を改装して作られたという「おもちゃのまちあいしつ」が設置されている。

 

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実はここ鮎川駅近くに隠れた名所があることを俺はネット情報で掴んでいた。それは「マンコ将軍の墓」である。もはや余裕でアウトなこのネーミングのスポットに俺は中学1年生並みの好奇心を携えて向かう予定だが、その前に駅前の食堂で腹ごしらえといこう。

 

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鮎川駅前にある食堂はそのまま「駅前食堂」という名前である。センバツ高校野球のトーナメント表と鮎川駅の発車時刻表が貼られた店内では数人の常連さんが定食をかきこんでいた。俺は店内から溢れ出る古き良き昭和のノスタルジーを感じつつチャーシューメンを注文した。

 

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店のお母さんはこの日から始まったセンバツ高校野球に夢中である。北海道の高校が負けたらしく残念そうだ。同じ雪国だからだと思うが秋田のお母さんたちは東北のチームはもちろん、なぜか北海道や新潟のチームを応援しているひとが多い。

そんなお母さんや常連さんの声をBGMにチャーシューを頬張りラーメンを啜る。まるで実家のような安心感。ローカル駅の小さな食堂で食べるチャーシューメンはまた格別である。

■声に出してはいけない由利本荘の隠れた名所「マンコ将軍の墓」とは?

腹が膨れたところでムズムズする股間を気にしながら、マンコ将軍の墓に向けて出発である。

 

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道中、至る所に「キケン」と書かれた由利小PTAの看板が設置されているのはやはり例のお墓が健全な青少年育成に反するからだろうか。

 

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駅から歩くこと25分。由利本荘市の指定史跡でもあるマンコ、じゃなくて万箇将軍のお墓がある瑞光寺にたどり着いた。

 

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ちょうど春のお彼岸期間のため墓参りをする人々を横目に俺は彼女、じゃなくて彼が眠るお墓を目指し急勾配の階段を登った。

 

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万箇将軍。その正体は一万人の騎兵を束ねた奈良時代の総大将である。けして一万人の男と夜を共にした歴史に名を刻むヤリマンのことではないので要注意である。

 

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無事にマンコ将軍の参拝を済ませた俺は次の「黒沢駅」を目指し歩き旅の再開である。だが由緒ある万箇将軍を冒涜した罰が当たったのか、急に足の裏が痛み始めた。総大将を冒涜された1万人の騎兵たちの呪いが俺のフニャフニャの足裏を攻め始める。なんて地味な攻撃だろうか。俺はヒリヒリする足を気にしながら次の黒沢駅へと向かった。

 

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「道にすててしまったごみ それはあなたの心のごみ」

たくさんの感謝状と歴代駅長名鑑の間に堂々と掲げられた由利中学校二年生佐藤葵ちゃんのナイフのような鋭い標語に軽い戦慄を覚えつつ、しばし休憩。秋田にも花粉が飛んでいるのか、やたら鼻水が出る。鼻水まみれのティッシュを捨てようと思ったがゴミ箱が見当たらない。仕方ないので俺はそいつをズボンのポケットに突っ込んだ。そう、道に捨てたゴミは俺の心のゴミとなるのである。

 

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夜の楽しみであるビールをいっそう旨くするため疲れた体を鞭打ち再び歩き始めた。酒飲みは基本自分に弱い性質だが、最初の一杯をより最高にするための努力は惜しまない生き物である。 

 

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田んぼ道を歩いていると、田園地帯のど真中に建物が見えた。「曲沢駅」である。

 

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一面田んぼの中にポツンと立つ駅舎。ゆっくりと到着した電車からその駅に降りるひとはもちろん誰もいない。電車はまたゆっくりと動き出す。春の匂いと哀愁を乗せて。

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由利本荘の隠れたソウルフード「前郷ホルモン」とは?

この由利鉄沿線歩き旅もいよいよ佳境である。俺は疲弊した体を引きずりながら今日の目的地である「前郷駅」を目指した。そう、今日は前郷駅付近のホルモンが売りの焼肉屋さんで一杯と決めているのである。

 

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前郷駅に到着。前郷駅周辺には「佐々木家住宅養老閣」や「前郷日枝神社」などの文化遺産もあるようだが、既に俺はガス欠である。俺はあっさりと歴史的文化遺産の見学をあきらめて、この由利鉄沿線歩き旅のフィナーレを飾るべく駅近くのホルモン焼肉の店「大番」へと向かった。 

 

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入口に掲げられた「営業中」という札が辛うじて店の態を保っているが、そのルックスは完全に「普通の家」である。恐る恐るその扉を開いて店内に入ると奥の座敷から賑やかな声が聞こえてきた。今日は親戚の集まり、……じゃなくて団体さんの予約が入っていたようである。椅子に座り、さっそくお母さんにビールを注文。先ずはひとり乾杯といこう。

 

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本棚に埋め尽くされた大量の漫画本(ONE PIECE全巻コンプリート)を眺めながら、冷えたビールを一気に喉へ流しこむ。俺の心はすっかり春模様である。

 

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ホルモンアンドビール。もはや芸人で言ったらダウンタウン、ミュージシャンで言ったらチャゲ&飛鳥、アイドルで言ったらW(ダブルユー)並みの最高の組み合わせである。ここのところ飲みすぎには気をつけているのだが、ちょうどいいタイミングでお母さんが「ビールのおかわりどうですか?」と声をかけてくれる。これはどうしても酒が進んでしまう。

そしてホルモンと同様に美味かったのが鳥である。鉄板で鳥を香ばしく焼きながらビールを煽る。これはただの至福である。

 

男37歳。そろそろカロリーを気にさねばならない年ごろだが、どうしてもカルビクッパが食べたい。迷った挙句、ハーフサイズを注文。これで豚・鳥・牛をコンプリートである。

 

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パンパンに膨らませた腹をさすりながら前郷駅まで戻り、再び羽後本荘行きの由利高原鉄道に乗った。まだ夜の9時前だが本日の終電である。夜の電車はどこか寂しい。午前中は見かけた秋田おばこ姿のアテンダントさんもカメラを持った若い男の子たちの姿はない。疲れた顔をした中年男性がひとり乗っていた。

 

ゆっくりとまた電車が動き出す。座席に置いてあったアンケートボックスを盗み見たら「窓にカーテンをつけてほしい」と書かれてあった。

カーテンのない車窓から見る、春夏秋冬それぞれのなんにもない景色。それがまた由利高原鉄道の魅力のような気もする。

 

そんなことを考えていたら眠たくなった。どうやらまた飲み過ぎたようである。

 

さて、今回は由利本荘の隠れた名所を巡りながら由利鉄沿線を歩き回ったKANEYANの秋田ぶらり旅。歩きすぎて足の裏がひりひり痛む俺だが、次回は再び由利高原鉄道に乗って終着駅の「矢島駅」を目指してみようか。

 

続く。

 

 

#21 【田舎宿に泊まろう】【JR羽越本線】「日本海が一望できる秋田最南西端・小砂川駅の人情旅館」とは?

■秋田最南西端・小砂川駅の田舎宿に泊まろう

JR羽越本線小砂川駅。山形との県境にある秋田最南西端の小さな駅である。地元のひと、あるいは余程の電車マニアでないと知りえないであろうその海辺の無人駅の近くに一軒の旅館がある。ふとその旅館に泊まってみたいと思った。

 

これまでの「秋田ぶらり旅」はほとんどが日帰り、あるいは酒を飲み過ぎて終電を逃した日は近くのネットカフェに宿泊し朝を待つという何とも味気ない思いをしてきた。風情も何もあったものではない。

ここはひとつ秋田の田舎宿に泊まりその場所特有の景色や空気を味わいたい。秋田県大仙市から秋田県にかほ市へ。田舎から田舎への不要不急の小旅行。俺は強い風が吹けばすぐに運休になる鉄道路線でお馴染みの「羽越本線」に乗り込んだ。今回は前回最後に訪れた「象潟駅」から2駅先の「小砂川駅」、さらには「小砂川駅」の隣駅で山形との県境の先にある「女鹿駅」という秘境駅にも足を踏み入れてみたい。

 

先ずは前回の旅で酒と人情に酔いしれた象潟から今回の旅はスタートである。

 

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前回の旅では素晴らしい酒場に巡り合った象潟だが、もう一軒気になる店がある。それは老夫婦が営むラーメン店である。先ずはそのお店で腹ごしらえをして羽越本線に沿って秋田と山形の県境を目指すことにしよう。

 

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象潟駅周辺には象潟出身の版画家・池田修三さんのイラストが至る所に設置されている。

 

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■老夫婦が営む小さなラーメン屋の絶品肉タンメンとは?

今回訪問予定のラーメン屋は老夫婦が営んでいるということもあり、営業時間はふたりの体の具合で変わるという。果たして今日のふたりの体の調子はどうだろうか。半信半疑のまま店の前までたどり着くと、ひとり、またひとりと店内に吸い込まれていくのが見えた。営業しているようである。

 

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昭和の香りが漂うその外観にもまた池田修三氏の可愛いイラストが貼られている。

 

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小さな店内はなかなかの賑わいである。高齢のお父さんがラーメンを作り、そのラーメンをこれまた高齢のお母さんが運び、お客さんはその様を固唾を飲んで見守る。そして食べ終えた器はお客さんがカウンターまで運ぶ。ご夫婦とお客さんの連係プレイが見事な古き良き食堂である。

 

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この店の名物「肉タンメン」を啜る。太麺にいわゆる「トンテキ」と「しょうが焼き」のような分厚い肉が大量に投入されている。肉アンド肉の男飯だが意外に肉タンメンを注文する女性も多い。魚だけじゃない漁師町・象潟の新たな一面である。

 

腹が膨れたところで、目的地の小砂川駅を目指して出発である。この秋田県にかほ市は県内でも積雪量が少なく温暖な街である。道路にはほとんど雪もないため、先ずは歩いて次の「上浜駅」を目指すことにした。

 

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羽越本線に沿って国道7号線を南に進む。1時間ほど歩いて上浜駅に到着した。

 

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上浜駅から羽越本線に乗り日本海を横目に秋田最南西端の小砂川駅へ向かった。

■秋田最南西端の地から見た日本海の風景とは?

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小砂川駅前には1軒の旅館がある。本日宿泊予定の松本旅館である。

 

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松本旅館の裏手を進むと、磯の香りと共に壮大な日本海が顔を出した。

 

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チェックインまで少し時間があるため、隣の「女鹿駅」方面に向かって歩いてみることにした。

 

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山形との県境にある謎のマスコットキャラクター「スギッチ」の看板を超えてさらに進むと、大きな公園にたどり着いた。三崎公園である。

 

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周辺の宿や食事処は全て廃墟と化している。ちなみにここ三崎公園は周辺で入水自殺者が多いことから心霊スポットのひとつに挙げられているようである。昼間はそれほど不気味さは感じなかったが夜にはまた別の顔を覗かせるのだろうか。

 

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秋田との県境に位置する山形県飽海郡遊佐町に入った。国道の脇からは見事な日本海が一望できる。

 

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■山形との県境で出会ったナマハゲの兄弟と秘境駅女鹿駅」とは?

日本海を右手に「女鹿駅」方面に向かって歩いていると、馴染みのあるイラストが目に付いた。

 

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ナマハゲ。いや違う。アマハゲである。どうやらこの地方に伝わる小正月の伝統行事のようだがナマハゲの兄弟が山形との県境に存在していたとは初耳だ。しかし全国区の男鹿のナマハゲに比べて、この日の目を見ないアマハゲはいささか不憫ではある。イラストの絵もどことなく迫力に乏しい。

 

アマハゲの看板を超えて少し進むと、女鹿駅入口の看板がポツンと立っていた。

 

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上り2本、下り4本と驚異的なスルー率を誇ることから「女鹿駅」は秘境駅として一部マニアに愛されているようだが、数年前に現在の小綺麗な駅舎に建て替えられたため、その秘境度合いは少しパワーダウンしたように思われる。駅に設置されている訪問者が自由に書き込める「駅ノート」にも以前の古ぼけた駅舎を懐かしむ声や駅舎の建て替えを惜しむ声が少なくなかった。

 

夕方17時前、女鹿駅から乗車できる貴重な羽越本線に乗って、再び小砂川駅に向かった。今晩は駅前の松本旅館に一泊である。旅館の裏側から夕陽が日本海に沈んでいくのが見えた。鮮やかな橙色の夕陽を背にして俺は松本旅館の扉を開けた。

■松本旅館の絶品料理でほろ酔い、そして突然の地震にひとり狼狽する男とは?

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「裏から夕陽見ました?」

「はい、見事でした」

旅館に入ると女将さんが出迎えてくれた。朗らかないい女将さんである。2階の和室に案内され腰をおろす。窓からは海が見える。

 

旅館にひとりで泊まるのは人生で初めてである。ひとまず浴衣に着替え座椅子に腰かける。なぜだか落ち着かない。間もなく40代を迎えるというのに何事も人生経験に乏しいこの男は少し緊張気味の様子である。夕食までまだすこし時間があるため風呂に入ることにした。このコロナ禍で客は俺ひとり。静寂の中、大きな浴槽にざぶんと体を沈めれば秋田の端の端にいる実感が沸いた。

 

風呂からあがると念願の夕食である。

 

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豪勢な夕食を目の前にしてまたもや落ち着かない俺はひとまずビールを煽る。酒飲みは酒を飲む前は厳粛な顔をしているが、酔ってくると俄然野蛮な本性が顔を出す生き物である。俺はビールを進めながら蟹をほじくり出し、天ぷらにかぶりつき、鱈鍋の汁を飲み干した。

 

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日本海の恵みを順々に制覇しつつ、同時にほろ酔いときたら、それはただただ至福である。海辺の旅館にて温かいお茶を啜りながらひとまず今回の旅もまた良い塩梅で終わりそうだ。たらふく食って飲んだ俺は、まだ夜9時にも関わらずさっそく布団を敷いて就寝の運びである。

 

だが2時間後、事態は急変した。地震である。枕元に置いておいたiPhoneがうなりを上げる。なかなか強い地震だ。震度4ぐらいか。もしかしたらもっと強いかもしれない。長い時間揺れていたが、なんとか収まった。よし、寝よう。俺はまた布団に潜り込んだ。……って、ちょっと待てよ。ここは日本海の目の前である。津波が襲ってきたらひとたまりもない。

 

『只今地震がありました。落ち着いて行動してください』

 

にかほ市防災無線が物々しく部屋に響き渡る。俺は浴衣がはだけてパンツ丸見えの状態でひとり狼狽した。震源地が日本海だったら俺の人生はこの秋田最南西端の地で終止符を打つことになる。防災無線が爆音で緊急の旨を訴えている。どうしよう。テレビテレビ。俺は震える手でテレビのリモコンを握った。

 

津波の心配はありません』

 

その言葉に俺は安堵したが、否が応でも10年前の東日本大震災を思い出した。そしてテレビをつけたまま俺は再び布団に潜り込んだ。

 

翌朝。

「昨日の地震? ああ防災無線がうるさかったですね」

女将さんは思い出したようにそう言って笑った。部屋でひとり慌てふためいていた俺とは大違いである。肝が据わっている。

 

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旅館で食べる朝飯ほど旨いものはない。普段朝はなかなか飯が喉を通らない俺だが、この日はご飯を3杯も食べた。

 

前日の地震の影響で電車が動いていないため、一旦バスで羽後本荘駅まで戻り様子を見ることにした。女将さんと大女将さんがバス停まで俺を見送ってくれた。

 

「また来てください。ぜひまた」

大女将さんは真っすぐ俺を見てそう言ってくれた。

「嫌な思い出にならなきゃいいけれど」と幾分申し訳なさそうに女将さん。

「逆に思い出深いことになりました」

なかなか旅館に泊まって地震に遭遇することはない。だが昨日の地震が嘘のように日本海は穏やかである。風もほんの少しだけ温かく感じる。ゆっくりとではあるが秋田にも春が近づいている。

 

バスが来た。車内の俺に向かって手を振ってくれる温かなふたりに俺も手を振り返した。いつかまた来よう。青く光る日本海を横目に、そう思った。

 

さて、今回はぶらぶらと秋田最南西端の地までやってきたKANEYANの秋田ぶらり旅。ひとまずこの日本海が一望できる海辺の旅館にて、羽越本線に別れを告げて、次回は春の由利高原鉄道の旅に出てみようか。

 

続く。

 

#20 【ローカルグルメ紀行】【JR羽越本線】「極上の飯と酒を求めて仁賀保・象潟を行く人情巡り旅」とは?

にかほ市の「旨いもの」を巡る旅

秋田県にかほ市バナナマン日村がやってきた。

 

4年ほど前、お笑い芸人のバナナマン日村さんが「にかほ市」の美味い地元メシを探して紹介する「バナナマンのせっかくグルメ」というバラエティ番組が地元秋田で放送された。

にかほ市秋田県南西部に位置する日本海に面した漁師町だが、やはりテレビの力は絶大である。俺はその番組を見てあっという間にグルメの宝庫であるにかほ市のファンになってしまった。基本的にそこまで食というものには執着しない俺だが、旨い魚と旨い酒においては別である。人一倍の熱意があるのだ。そのためJR羽越本線に沿って旅をするにあたり、とにかく仁賀保・象潟エリアを訪れるのが楽しみだったのである。

 

思えば前回の旅では冬の折渡峠をひたすら歩き、前々回の旅では道川の廃墟探訪と羽越本線編では修行僧のような旅を行ってきた。今回はせっかく旨いものが豊富な街に立ち寄るのである。前回とは趣向を変えて仁賀保・象潟の旨いものを巡るグルメツアーと洒落込むのも悪くはないだろう。

 

そんなわけで俺は意気揚々と冬の羽越本線に乗り込み前回最後に訪れた「羽後本荘駅」の隣駅である「西目駅」に降り立った。今回の旅は先ず「西目駅」からスタートし、地元の旨いものを食べながら最終的には3駅先の「象潟駅」を目指す算段である。

 

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 西目駅を降りて、俺が最初に向かったのは「道の駅にしめ」の中にあるソフトクリームとバームクーヘンの専門店「ハナマルシェ」という店である。俺はバームクーヘンが大好物なのだ。

 

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レッツバーム! レッツクーヘン! 俺はおどけながら西目のスズムシロードを歩いた。これにはお姉さんに連れられて散歩中の犬も苦笑いである。危うく犬におしっこをかけられそうになりながら30分ほど歩き、道の駅に到着した。

 

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さっそくお目当ての店に向かう。しつこいようだが俺はバームクーヘンが大好物なのだ。

 

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西目の朝の陽ざしを浴びながら、俺はその場に立ち尽くした。まさかの臨時休業である。食べログに載っていたバームクーヘンにソフトクリームをトッピングしたあの旨そうな写真が何度も頭の中を駆け回る。無念。残念だが次に進もう。俺は気持ちを切り替えて羽越本線で隣の「仁賀保駅」へと向かった。

 

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仁賀保駅到着。実は冒頭で書いた「バナナマンのせっかくグルメ」では仁賀保の「キッチン さかなやさん」というお店が紹介されていた。この店では水揚げされたばかりの新鮮な魚の中から、お客さんが好みの魚をチョイスし焼いたり煮たり好きなように調理してもらえるらしい。楽しみである。

「サカナ サカナ サカナ サカナを食べると~」

俺は陽気におさかな天国を口ずさみながら仁賀保駅前を歩いた。これには工事のため交通誘導をしている警備員さんも苦笑いである。危うく車に轢かれそうになりながら10分ほど歩き、店に到着した。

 

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仁賀保の昼の陽ざしを浴びながら、俺は店の前に立ち尽くした。またもや臨時休業の張り紙である。食べログに載っていた旨そうな刺身定食の画像が何度も頭を駆け回り、派手にiPhoneを地面に落っことしてしまった。だがここで立ち止まるわけにはいかない。仁賀保駅周辺ではもうひとつ気になっていた店があったのだ。そう、バームクーヘンもお魚もダメならラーメンである。

■地元民が集う仁賀保の人気ラーメン店とは?

 

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「秋田のおみやげなら何でも揃う」という超強気な土産屋を通り過ぎて、仁賀保の人気ラーメン店「じげん」へと向かった。果たして営業しているだろうか。もはや祈るような気持ちである。

 

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仁賀保のまばゆい陽ざしに照らされて、じげんの駐車場にはたくさんの車が止まっていた。絶賛営業中のようである。店内は地元民でかなり賑わっていた。高齢の仁賀保マダムから男子高校生までその年齢層は幅広い。俺が座った奥のテーブルには若い女性がひとりで黙々とラーメンを啜っていた。まさににかほ市民全員集合である。俺はおすすめの「さんま節ラーメン」を注文した。

 

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うまっ。思わずそう声を出してしまったのは、バームクーヘンとお魚にフラれマックス腹ぺこだったからではないはずだ。さんま節の効いたスープは濃厚でチャーシューも柔らかい。秋田で驚異的な視聴率を誇る毎年恒例の「秋田ラーメン総選挙」でも、ぜひ一票を投じたいところである。店には途切れることなく地元の方々がやってくる。仁賀保の空気を吸いながら俺はズルズルと極上のラーメンを啜ったのであった。

■校舎の香りが残る金浦の温泉とは?

腹が膨れたところで、再び羽越本線に乗り隣の金浦駅へと向かった。

 

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市立図書館が併設している「金浦駅」の中には「おにぎり亭」という小さな食堂も設置されており、地元のお父さんがお店のお母さんたちと世間話をしながら蕎麦を啜っていた。

 

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ラーメンを食べたばかりだが、気持ちはすでに「旨い魚で一杯」である。だが夕方まではまだ時間があるため、金浦駅前から発車するコミュニティバスで近くの温泉に行ってみることにした。

 

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コミュニティバスは意外と混んでいた。乗客の中心は年配のお母さんたちである。地元のお母さんたちの途切れることのない世間話をBGMに小さなバスは進んでいく。間もなく温泉にたどり着いた。

 

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金浦温泉の入口には「大竹尋常小学校」と書かれている。この温泉は元々小学校だったようで、施設には至るところにその校舎の名残が見える。

 

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大広間は以前体育館だったのだろうか。「第一体育館」というプレートが残っている。

 

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「あら、お兄さんはどちらから?」

 

帰り際、地元のお母さんに声をかけられた。

「大仙市です」

「大仙市? 私のお婿さんと一緒ね。大仙市のどのへんかしら?」

仙北市よりですね」

仙北市と言えば、わらび座ね。私大好きなのよ」

ここからお母さんは仙北市の劇団「わらび座」の素晴らしさについて語ってくれた。

話しているうちにテンションがあがったのか「もしかしてお兄さんはわらび座のひと?」とお母さん。

「いえいえ、まさか」

むしろ俺は小学生のとき地元のお祭りで踊った「ドンパン節」も他のみんなよりワンテンポ遅れて踊っていたほどのリズム音痴である。

そんな俺にお母さんは「ここまで来てくれてありがとね」と言ってくれた。校舎の香りが残る温泉で熱いお湯と人情に心も体も温まりつつ、再びコミュニティバス金浦駅まで戻り、今度は電車でこの日の目的地である「象潟駅」に向かった。

 

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■極上の魚と酒が楽しめる象潟の人情酒場とは?

にかほ市象潟町。秋田の南端に位置する日本海に面した街である。この地で一杯やるのがとても楽しみだった俺はさっそく陽が傾き始めた象潟の街を歩き、お目当ての酒場に向かった。

 

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ここ「笑福」は例の「バナナマンのせっかくグルメ」でも取り上げられたのだが、実はあの吉田類さんも今から10年ほど前に「酒場放浪記」で訪れているようだ。

 

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お通しをつまみつつ、まずは冷えたビールで喉を潤わせる。そして豊富なメニューと睨めっこである。象潟の酒場の先頭打者。ここはやはり刺身だろう。

 

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うまっ。見事な先頭打者ホームランである。最高のスタートダッシュを切った俺はさらにグビグビとビールを喉に流し込む。次は「カキフライ」を食べようか。

 

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うまっ。極上の刺身に続き、大ぶりのカキが口の中で連続ホームランをかっ飛ばす。俄然調子が出てきた俺は地元にかほ市の名酒「飛良泉」をお願いし、つまみには「メバルの塩焼き」を合わせた。

 

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もはや最高。これが日本海である。このために生きてきた。酒飲みは酔っぱらうとやたら大げさなことを言い出す生き物である。だがハイペースで日本酒を飲んだせいかすこし酔ってきた。そのときである。

 

「お兄ちゃん。これ飲んでみれ」

隣のカウンターで飲んでいた常連さんからの日本酒の差し入れである。

 

何のお酒だかわからないが珍しいシャーベット上の日本酒である。だがこれがまた旨い。

気づけば俺は日本酒をチェイサーに日本酒を飲んでいた。

 

「次はこれ飲んでみれ」

「これは、何のお酒ですか?」

「これは秀よしだ」

秀よし。俺の地元の酒である。

「秀よしは俺のじもろの、あれ、さかぐらっス」

いよいよ酔ってきた。

「なにぃ? 俺も地元は大仙市だ。よっしゃ、こっちゃこい」

 

いつの間にか俺は3人組の常連さんと一緒に酔っぱらっていた。

実は常連さんが食べていた「マスの煮つけ」が隣で見ていて気になっていたのだが、それを話すと常連さんのひとりがご馳走してくれた。

 

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テーブルには一期一会という文字。見ず知らずの他人同士が酒でつながる。これが田舎の酒場の素晴らしさである。

 

「まだけよ(まだこいよ!)」

 

気さくな店主のお父さんと優しいお母さん、そして常連さんに見送られながら店を出た。気づけば4時間以上飲んでいた。いつもの悪い癖である。千鳥足で駅へと向かう。この日は10度近くまで気温が上がったようだ。少しづつ春に向かう緩やかな夜風を肌で感じながら「にかほ、いいところだな」と思った。

 

さて、今回は象潟の酒と人情に酔いしれたKANEYANの秋田ぶらり旅。春の訪れを待ちわびながらひとまずこの温かい酒場に別れを告げて、次回はさらに羽越本線を先に進んで山形の県境にして日本海が一望できる隠れた名所「小砂川駅」を目指してみようか。

 

続く。